C as in Cool(涼しいのC)、IV
それから再び、レッスンを受け持つ。オフィスを出る前には、鏡で服装(clothes)の乱れがないか確認するのを忘れずに。
うっかり海苔が歯についていないかも、ニカっと歯を見せて笑ってチェック(check)する。歯磨きをする時間がある時はするが、ないときはクールミント(cool mint)のタブレットに頼る。
レッスンを終えると、教室をささっと清掃(clean)して、講師業はおしまい。あとは会議(conference)に参加するだけだ。
……これがまた、なんとも眠くなる。
頭がこっくりしそうになるのを、咳(cough)払いで誤魔化す。
それでもどうにもならなかったら、あとはひたすら頭の中で数を数える(count numbers)。
集中(concentrate)なんてできるはずもない(cannot)。
だって。
いやだってさ、同じような内容(content)の会議、先週もやってなかったっけ?
そう思いはすれど、そんなことを口に出す勇気(courage)は瑛子にはない。
リモートで本部と繋がって(connect)いる会議では、本部エリートが自信ありげ(confident)に、プレゼンをしている。現場の実情とかけ離れた見積もりに、現場のこちらとしては混乱(confuse)するばかりだ。
いつもこうなのだ。
本部が新たなキャンペーン(campaign)を立ち上げる。
現場に無茶振りをする。
目標は達成できず、まあ常識(common sense)で考えれば無理だったよね、と結論を出す(conclude)。
しばらくすると、また本部が新たな(そして同じような)キャンペーンを始める。
そのサイクル(cycle)を延々と繰り返している。
でも、苦情を言った(complain)ところで、どうにもならないことは各教室も織り込み済み。
「がんばりまーす」とおざなりに返事をして、早々に接続(connection)を切る。カメラ(camera)も切る。そしてブラウザもしっかり閉じる(close)。
ついうっかり再接続なんてしてしまったら、面倒くさいことになるからだ。
やっと仕事が終わって外に出ると、どんより曇り空(cloudy)だった。黒い雲は、厚い。もしかしたら雨が降り出すかもしれない。早めに帰宅したほうがよさそうだ。
徒歩十分のスーパーのほうが安い(cheap)品物が多いが、瑛子は駅前のやや割高のスーパーで買い物を済ませると、家へと急いだ。
携帯電話(cellphone)から娘に『家にいるなら洗濯物をしまっておいて』とメッセージを送ったが、果たして読んでいるのだろうか。
帰宅すると、家はカオス(chaos)だった。
いつにも増してごちゃごちゃのリビングで、上の娘と下の息子が喧嘩をしている。
「おねえ、おねえったら!」
「馬鹿、うるさい! 電話してるんだから静かにしてよ!」
「おねえのほうがバカだしっ!」
二人して叫んで(cry)いる。
瑛子はこめかみを揉んだ。
「何やってるの、あんたたち」
瑛子は息子が床に放り投げたキャップ帽(cap)を拾いながら、声をかける。
「だって、ゆりと電話してるのにこいつがうるさいから」
「だって、おねえの足が僕の手にぶつかったんだよ!」
「あんたが変なとこに突っ立ってるからいけないんでしょ」
「おねえがソファーから足出してるのがいけないんじゃん!」
息子は娘をグーパンチで殴る。娘はソファーに寝そべったまま、息子を蹴り返す。
「Calm down, both of you!(二人とも、落ち着きなさい!)」
瑛子は手を叩き(clap her hands)ながら、命令口調(commanding tone)で言った。
一瞬静かになったが、娘はしらっとした顔で
「英語で話さないでくんない?」
と言い返してくる。続いて息子も
「そうだよ、ママ。ここは日本だよ」
と言ってくる。
「まじそれ」
「それな」
喧嘩をしていたことなどなかったかのように、子ども二人は頷き合う。
こういうときだけは、きょうだいの意見が合うらしい。
いきなり国(country)を引き合いに出してくるとは。
瑛子はため息をついた。
「Clean up. (片付けなさい)」
「いや」
「いや」
そしてこういうときだけ、声が揃うのだから困ったものだ。
「……わかった、片付けたらアイス買ってきていいから。でも、片付けなかったら夕食なしよ」
ご褒美のアイスか、それとも夕食なしか。
この飴と鞭のことを、英語でCarrot and stickと言う。
馬の鼻先ににんじんをぶら下げて走らせ、それと同時に棒で叩くという比喩表現だ。どちらも使うことで、言うことを聞かせる手段である。
二人は渋々と片付けを始めた。




