C as in Cool(涼しいのC)、II
電車はゆっくりと速度を上げていく。外の風景をぼんやりと見つめながら、瑛子は今日のスケジュールを頭の中で反芻する。
今日は一日みっちりレッスンが入っている。
瑛子の勤める英会話教室は、オールイングリッシュのレッスンを売りにしている。つまり、会話(conversation)はすべて英語で行うのだ。
当たり前であるが、英会話というのは会話だ。つまり、講師である瑛子は一日中ずっと話しっぱなしだということだ。
しかも、立ち仕事。
生徒さんの椅子(chair)はあれど、講師の椅子(chair)はない。
スーパーのレジ(Cashier)にしろ、英会話講師にしろ、なぜ日本人はこれほど働く人を立たせたがるのか。
お客様(customer)に対して誠意を見せるには、起立状態が一番良いアピールとなるからか。
立っても座ってもさほどパフォーマンスには影響しないと思うのだが。
おそらくそういう声もあるだろうが、単純に椅子を導入するコスト(cost)が企業(company)で調達できないからだろう、と瑛子は思っている。
ああ、転職したい。
エアコン(air conditioning、もしくはA/C)の効いた、パーテーションで区切られたオフィス(cubicle)で、ホワイトカラー(white collar)の仕事がしたい。
「チーフ(chief)、書類ができました」
「ありがとう。きみはいつも仕事が早いね」
なんて会話を、イケメン上司としてみたかったものだ。
でも悲しいかな。転職(career change)をするには、瑛子は少し時が経ち過ぎてしまっている。完全に(completely)不可能というわけではないだろうが、難しい(challenging)だろうなと思う。
そもそも瑛子が大学(college)卒業後に新卒で就職する時は、それほど選択肢(choice)がなかったのだ。
今の仕事だって、別にイヤイヤやっているわけではないのだが。
人は、時として今の自分とは違う人生に思いを馳せる生き物だ。
いわゆる、「たられば」ってやつだ。
そうこうしているうちに勤務地まで着いた。
瑛子はお腹の中に籠った熱い空気を吐き出すと、笑顔を作って教室のロビーに入っていった。
バックオフィスにカバンを置いたら、まずパソコン(computer、もしくはPC)で生徒さんの今日の出欠席を確認する(confirm)。
自分の名前をクリック(click)すると、担当の生徒さんの一覧が出てくる。
事前にお休みの連絡をくれる生徒さんもいれば、連絡がつかない方もいる。
あまり休みが続く生徒さんには、電話をする(call、もしくはmake a phone call)。生徒さんはたいてい皆、「あー……すみません、忙しくて……」と気まずそうに言ってくれるが、もちろん瑛子は叱るために電話をしているのではない。
「レッスンの振替もできますので、お時間がある時にご連絡お待ちしておりますね」とだけお伝えする。
次回来ていただいたときに、快適に(comfortable)レッスンを受けてもらうためだ。
素早く出欠席の見当をつけると、ロビーに行く。
ロビーには、『新規入会キャンペーン(campaign)』のカラフル(colorful)なポスターが貼ってある。なんちゃらキャンペーンなんてものは年中続けて(continue)やっているので、誰も気にも留めないが。
もう少しクリエイティブ(creative)な戦略をねった方がいいのではと思うが、企業の文化(culture)はそれほど劇的に変わるものではない。
ロビーでは、複数名の生徒さんがソファー(sofaでもいいが、couchという言葉もよく使われる)に座っている。
レッスンの予習をしたり、復習をしながらレッスン開始を待っているのだ。




