沈黙の反撃 (かつての3分間)
1度、順番を間違えて投稿してしまいました。
いつもと違う書き方をしています。
遠い昔のことに思える。
たった半年や1年そこらの時間しか経っていないのに。
男は今、校舎裏で青年を殴ろうとしていた。
いつものことだった。
妬ましかった。
あの青年の、真っすぐな目も、努力がにじむ言葉も。
そして、爽やかな汗すら、自分には酷くベタついた何かに見えていた。
絶対に勝つ。
——去年の夏、彼は燃えるような決意を持っていた。
あの日、県大会の決勝戦。
——その日から、彼の世界は止まった。
スコアは開いていった。
味方は疲れ、動きは鈍くなり、
誰も彼もが顔を伏せた。
それでも彼は、声を出し続けた。
「まだいける」
「下を向くな」
「俺がいる」
……でも。
誰も、目を合わせてくれなかった。
ベンチを振り返った。
監督がいなかった。
あのときすでに、諦めていたのだろう。
ひとり、ベンチを外していた。
味方のひとりが小さくつぶやいた。
「もう……無理だろ」
——その瞬間、世界が止まった。
スコアボードの数字が静止し、
会場のざわめきも、ホイッスルも、何もかもが消えた。
観客席に目をやった。
父がいた。
そして——立ち上がり、背を向けていた。
帰ろうとしていた。
それを見たとき、胸がズキリと痛んだ。
誰も、俺を信じていなかった。
チームも、監督も、観客も、家族さえも。
孤独だった。
叫びたくても、声が出なかった。
膝に手を置き、ただ呼吸だけをしていた。
……そして世界が、動き出した。
再び動いたとき、もう立ち上がる力は残っていなかった。
あの3分間。
時間が止まったあの瞬間に、
彼の世界は、本当に止まってしまった。
そして——今。
校舎裏。
殴るはずだった拳が、ふと、止まる。
目の前にいるのは、あの日の「敵」。
自分たちを圧倒し、コートの上を走り続けた男。
でも、あの時の彼が羨ましかった。
華麗に、でも泥臭く、勝利を信じて全力でプレーしていた。
いま、その彼が拳をふりあげている。
けれど、そこには怒りがなかった。
——決意。
そんなものが、拳の中にこもっていた。
拳を振るわず、彼は言った
「……お前、まだバスケ……好きなんだな」
その一言が、あの日の静寂を破った。
誰にも届かなかった心の声が、ようやく届いた気がした。
青年は言葉を返さなかった。
ただ、じっと彼を見ていた。
男はそっと目を伏せる。
そして、不意に笑った。
「……もう一度だけ、やってみようかな。
——今度は、誰も裏切らないチームで」
今日、ふたたび世界は動き出した。
——あの日、世界は3分間だけ止まった。




