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暇時書短編集  作者: 案山子 劣四


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10/11

プロット2:断頭台から愛を込めて

次に書こうと思っている話その2です。内容がLoversより煮詰まっていません。

これも雰囲気で読んでください。

「あんた、随分余裕じゃない。」


不機嫌な様子を隠すでもなく、マキナは私を見下ろす。見下すような目線で。


「今日はもう『フリークス』来ないでしょ。」


少し前までは警戒していたけれど、『開演(カーテンライズ)』されないという事は、周囲2キロには誰もいないという事だ。それに、もう夜明けまで1時間もない。正直、今出会ったとしても、逃げてもいいくらいにはモチベーションがない。



だったら、こうして高所を取って、もし『開演』されたとしても不意打ちされづらい位置取りで、刀は仕舞ってお客さんに貰ったおもちゃで遊びながら気持ちを休めた方が有意義だ。


ビルの屋上から足を放り出して眼下に再び目をやるが、相変わらず灰色の人達を、何が楽しいのか街灯がスポットライトを当てている。



「というか、何やってるの?」


「え?ルービックキューブ。」


今日、常連さんから『いらないから』ともらった。忘年会の景品だかでもらったらしい。以前テレビで見た事のある、芸能人が隠し芸で10秒くらいで揃えるものと同じような、中心の角が丸いキューブだ。ちゃんとした箱に入っていたし、安物ではないのだろう。



だからこそ、常連さんは処分に困っていたのだろう。捨てるに捨てられず行きつけのガルバ店員に、ご機嫌取りにもならないのに渡すくらいなのだから。実際受け取った私は、表面上は面白いと喜ぶ演技をしたけれど、実際は困惑の方が勝った。ランクとしては、食べ物よりは幾分かマシな程度だ。



「そうじゃなくて。『なんでそんな事してるのか』って聞いてんのよ。」



マキナは、私の頭上付近に膝を揃えて座り、呆れたように私を見下ろす。白い和服が、夜空にはっきりと輪郭を移した。


これだけ存在感があるのに、私達『フリークス』にしか認識されないというのは、どうにも不思議な感覚だ。そんな事を考え、彼女を見上げながら言い訳をするように口を開いた。



「だって暇なんだもん。それに、もう時間もないし。それならここで営業努力でもしながら、待ち構えている方がいいでしょ。」


「営業努力?」


「うん。営業努力。次会った時に、ちょっとでも揃えられるようになってたら、たけっち喜ぶでしょ。」



そう言いつつ、一向に一面も揃う気配はないルービックキューブを私はカラカラと回す。『ここまでは出来たんだけれどここからが難しくてー』作戦から、『あーん揃えられなかったー』作戦に移行しようかと思うくらい、全く手応えがなかった。


マキナは、そんな呑気な様子を見て、呆れたようにため息をついた。


「ほんと、よくやるね。いつ死ぬかも分からないのに、やる気もない仕事を営業時間外にも頑張るなんて。」



「いいじゃん別に。願いが叶っても、どうせこの仕事は続けなきゃいけないんだから。それとも、私の事、心配してくれてるの?」


「……本当、気持ち悪い。」


からかうように言った私を侮蔑するような目つきで睨み付け、わざとらしくそっぽを向く。


このデレない感じが、懐いていない猫ちゃんみたいで可愛いけれど、きっとそれを言ったら彼女はまた機嫌を悪くするだろう。仕方がないから再びルービックキューブに意識を向ける。十数分格闘して、ようやく下の1面が揃った。これだけで大分達成感はあるけれど、あと5面も揃えなければいけないのか。


いくら企業努力とはいえ、割に合わない気がしてきた。それに、よしんば揃えられるようになったとしても、これを披露できるようになるまで、相当時間がかかりそうだ。



「ね、ルービックキューブの揃え方とか、知らない?」


「知る訳ないでしょ。」


そっぽを向いたまま、彼女は短くそう答えた。まあ、そうだろうな、と落胆よりも納得の方が大きい。そんな事より、不機嫌なのにちゃんと答えてくれるマキナが可愛らしい。




なんて事を考えているうちに、気が付いたら先程まで揃っていた面すら崩れてしまった。


落胆から肩を落とし、私は改めてルービックキューブと向き合う。


ぐちゃぐちゃで、どれだけ頑張っても、揃う気がしない。仮に一瞬揃ったとして、すぐにまたぐちゃぐちゃになってしまう。まるで、私の心のようだ。眼下に広がる雑踏に透かすと、まるで馴染まない色をしているのもそれらしい。


所詮社会のはみ出し者が、パズルなんて出来るわけがない。竹中さんも私を馬鹿にするためにこんなおもちゃを渡したのかも。次会った時、揃えられなかったらきっと馬鹿にされる。というか、本当は私に渡すつもりなんてなかったのかも。娘さんとかにあげるつもりで、私に話しただけで、『これあげようか?』って言うのも、軽い冗談だったんだ。ああ、最悪。なんで死んでないんだろ、私。本当に気持ち悪い。目先の餌に釣られて、今も生きてる。私なんかの願いが叶う訳ないのに。



ぐちゃぐちゃになったそれが指先から落ちて、クルクルと回り、雑踏に呑まれた時、ようやく私は自分の指先が震えていたことに気付いた。



あ、やばい。


気が付いたら体の先端は冷えて、気持ち悪いほど頭が熱い。落ち着けようと深呼吸をするが、肺まで息が入ってこない。胃が逆流しそうな程ムカムカする。


ああ、ダメだ。本当にダメなやつだ、これ。


刀を取り出して、手首に当ててゆっくりと引いた。鋭い痛みが走って、一瞬間を置いて皮膚の下から血が流れ出て、流血と共に身体の悪いのが流れ出されて、荒い呼吸はゆっくりと少しずつ落ち着いた。


「ちょっと、何してんの!?」


マキナは、急に驚いたように声を荒らげた。


「んぇ……?リスカ。」


「そうじゃないわよ!落としてるじゃない、ルービックキューブ!後で遊びたいと思ってたのに!」


「あぁ……はは、ごめんごめん。」


そりゃそうだ、マキナが私の心配をするわけがない。


「すぐに取ってくるよ。ちょっと待ってて。」


ここで待っていても、また気持ちが落ち込みそうだ。それなら、少しでも気晴らしをした方がいい。立ち上がり、ビルから身を投げると、私は首に刃を押し当てた。



やっぱり、これが1番、『生きてる』って思える。







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