プロット3:タイトル未定
書こうかと思っている話その3です。
分かる人には分かる話です。分からない人は雰囲気で読んでくだされば助かります。
「ねえ、望来。やっぱり貴方も、普通の学園生活に憧れとかあるの?」
ハンドルを握り、視線は向けずにアイリスは訊ねた。望来は何故いきなりそんな事を聞かれたのか戸惑うが、すぐに、先程行った高校が理由だろうと思い至る。視線を上向け、その言葉を反芻する。
「別に、憧れはしてないです。こうして使命を果たすのが、私達信徒の役目ですから。」
それは、望来の本心だった。除霊は命を落とす危険もあるし、誰にでも務まるわけではない大変な役目ではあるが、だからこそ使命なのだと。
「真面目ね、貴方。」
呆れたようにそう言ったアイリスの口角は上がっている。まるで嘲るような口調だが、これが彼女の愛情表現である事は望来は理解していた。
「そういうアイリス姉様は、憧れていたのですか?」
まるでそうである事が当たり前であるかのようなアイリスの言い方に疑問を覚え、そう訊ねる。数瞬黙りこくった後、アイリスは答えた。
「まあ、そういう時期もあったわね。同い年の友達もいなかったし、やっぱり大変だったし、なにより、憧れていた人と会う機会も減ったし。ま、貴方よりは不純な動機で始めたから。」
その口調は、未熟だった自分を恥じるようであり、どこか懐かしんでいるようにも望来の目には移った。
「その動機ってーーー。」
「知っているでしょ。そんな事どうでもいいから、これで遊んでなさい。」
アイリスが懐から放り投げた何かを慌ててキャッチした。自分から話を切り出したくせに、と腑に落ちない心持で一瞥をした後、投げられたそれに目を向けた望来は首をかしげる。
「なんで、ルービックキューブ……?」
「教会から出る前に黎明が渡してきたのよ。『貴方はもう少し考えて行動する癖をつけなさい』とか偉そうに言ってきたのよ!?本当に鬱陶しいわ、あいつ……!」
心持ち、先程よりもアクセルを強く踏むアイリスを望来は苦笑いで見つめる。そういえば、今朝喧嘩していた事を望来は思い出した。
ああ、これはあの時貰っていたのかと納得しかけた望来は、だからと言ってルービックキューブを渡すだろうか、と疑問が過るが、連花ならしてもおかしくはないだろう、と再び考え直す。
望来は連花を真面目で優秀だが、変わっている、と認識していた。実際、いきなり知人にルービックキューブを渡すような人間はどう考えても変わっている。
「あいつ、本当にうるさいのよ?ネチネチネチネチ、『もっと集中しろ』だの、『規範たれ』だの。何時までも私の事、15歳くらいに思っているのかしら!?」
その後もぶつぶつと文句を言い続けるアイリスは、普段よりも子供っぽく望来の目には移り、彼女はまるで歳の離れた兄弟のようだと、羨ましく感じた。
「た、多分、連花司祭はこの前アイリスお姉様が怪我をしていたのを心配しているんだと思いますよ。」
そんな思いから連花側に立ったが、横目で一瞥して、吐き捨てるように舌打ちをしたアイリスに委縮して、それ以上何かを言うのを躊躇った。
「そんなんどうでもいいのよ。とにかく、私はそれいらないから、貴方にあげる。たまにはそれで遊んで、気分転換でもしなさい。」
「それはいらないです。修行の邪魔ですし。」
そう言って、望来がルービックキューブを助手席の前の棚に置くと、運転中にも関わらずアイリスは二度見した。
「……貴方、普段おどおどしているのに、そう言う時だけとはっきり言うわよね……。まあいいわ、今度涼太にでも押し付けるから。」
「それって、結局連花司祭に気付かれるような……。」
「いいのよ。黎明も私がやる事をそこまで期待してなかったと思うし。」
「そう、なんでしょうか……?」
「そうよ。それにしても、今回の件、少し厄介そうね。」
アイリスは話題を切り替えると同時に気持ちを切り替え、落ち着いた口調でそう言った。
「『李綾子』さんの、件ですか?」
望来からすると、いつもの霊障現場のように思えた。しかし、憂いた表情のアイリスから、冗談を言っているわけではない事は分かる。
「ええ。もしかしたら、少し時間がかかるかもしれないわね。それに……。」
そこまで言って、アイリスは言い淀んだ。
「それに、何ですか?」
「いえ、何でもないわ。これを機会に、貴方にお友達でも出来ればいいと思っていたのよ。」
必要ない、そう答えようかとも思ったが、これもアイリスなりの愛である事は理解していた。だから、余計な事は答えず、先程渡されたルービックキューブをみて、彼女はある事に気が付いた。
ルービックキューブの一部だけ、ある程度揃っている。人から渡されたとしたら、大体全ての面が揃っているか、反対にバラバラになっているか。この中途半端な状態で渡されたとは、考えづらい。
思わず、笑みを溢した。アイリスお姉様、揃えようと挑戦はしたんだ。
「望来、もうすぐ着くわよーーー、って、なにニヤニヤしてるのよ?」
「あっ、いえ!!」
慌てて笑いを堪え、彼女は言った。
「やっぱり、アイリスお姉様とペアになれて、良かったなって。」
「何言ってるのよ?変ね、望来は。」
馬鹿な事を言うなとでも言いたげな言い方をして、彼女は再び車の運転に集中する。だが、その口角は、少しだけ上がっていた。




