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197 お買い物

「おいおいとりあえず、金だ、金! 俺様に寄越せ!」


追剥のようなことを行っているのは、一応私の保護者枠……なんだろうか。それとも、私が保護者だろうか。


「だめ」

「端的ぃ! お子様が金持っててもしょうがないでしょぉ!? 俺様がうま~く使ってあげるからさあ」

「だめ」

「美味しいお菓子が食べたいよなあ?」

「……」

「我、美味しいお菓子食べたい!!」


それはそう。

ちょっとためらったのを察して、肩のキンタロがぽんぽんと背中を叩く。

……大丈夫、ラザクに渡したりしない。


「らざくが選ぶ。りゅーが、ち払いする」

「じゃあ俺様が金持ってた方が便利だろがぁ! なんっでお前を通すひと手間がいるわけ!?」

「お金持ったら、しょのまま逃げるから」

「お、え、あ……いや、その、つまりィ、えっと、俺様どうせほら、契約があるから逃げられやしないわけでぇ」


大汗をかいて言い訳するラザクを、しょうがないなと見上げる。

 

「らざく、そんなちちんと考えて行動しない。りゅーは、らざく守ってる」

「はあ? 守られてませんけどぉ?」

「守ってる。らざく逃げたら、りゅーは笛吹く。そちたら、すぐりとにちゅかまる」

 

おぐっと妙な声で呻いたところを見るに、ちゃんとリトの怖さは骨身に沁みているよう。ただ、考えなしなだけで。


「ちちんと買い物する限り、好きなものを買える。らざくも、道中美味しいものが食べらえる。その方が、めりっとが大きいと思う」

「た、確かに……? リトの金で好きな食材買い放題……ふむ、ふむふむふむ!」


やっと食材を吟味し始めたラザクに、やれやれと溜め息を吐いた。

可能な限り良いものをたくさん買おうとするだろうし、概ね大丈夫だろう。高級食材を買わないかどうかだけは、注意する必要があるけれど。


「砂糖は、どうするか……金になるなら残りの金全部……」

「ひちゅような物を買って、残りはばたー、こむぎこ、砂糖、たまごにちゅかうといい」

「卵なんざぁ持ち運べ……あ、そうかリトの野郎、収納袋とか持ってやがるしな。けどよぉ、バターはこの暑さじゃなあ」


そうか。確かに。収納袋、温度の方はどうなんだろうか。

うーむと首をひねっていると、食料品の店主が何やら壺を差し出してきた。


「お客さん、荒野は初めてかい? そんなんじゃあ、餓死しちまうよぉ! 食料が尽き、獲物も獲れねえ、そんなときの命綱がこれだ!」

「おおっ、そんなものが!? ……んー? なんだァこれ」


飛びついたラザクが、期待外れの顔をしている。

覗き込んだ壺の中は、どろりとした液体が入っていた。ふわりと、微かにいい香りがする。


「溶けたばたー?」

「いいや、ちょっと違うんだな。食うだけでなく、身体に塗ることもできるとくらぁ! ふふふ、塗ったらどうなると思う?」

「おいちくなる?」


ぶほっと吹き出した店主が、慌てて首を振る。


「いやいやいや、そりゃ美味くなるかもしれねえが! 魔物向け調味料じゃないってんだ! こいつぁ肌を守る最高の薬になるって寸法よ!」

「おおっ、薬にも!? 買ったぁ!」

「まいどありぃ!」


……ラザク、いつもこうやって騙されるのか。

でも、ひとまずこれは大丈夫だろう。おそらく、バターを精製したギーのようなものと思われる。

随分買い込んだけれど、リトがクリームを塗ると言っていたから、それに使えるかもしれない。

ひとまず洋菓子作りには使える。私はそれでいい。

あとは乾物を中心に野菜類、多少の肉類を買って、砂糖や小麦粉にフルベットで構わない。


「え~、我、もっと肉類を所望する! でも菓子類も必要!」

「大丈夫、お肉はりとが獲る」

「おお、頭いいじゃねえか!」

「なるほど、過保護者も使い様、我も賛成!」


賛同を受けて、鷹揚に頷いた。荒野の魔物はきちんと調べた。甲殻類と言うべきか虫と言うべきか、そういう系統が多いけれど、食べられるものもそれなりにいる。あの触手だってそう。

いざとなれば、私がバターを塗って砂糖をまぶして佇むだけで、入れ食い状態になるのでは。


大量の荷物を次々収納袋に入れると、ラザクがヨダレを垂らしそうな目で袋を見ている。確か、リトの収納袋は大容量……これも、きちんと管理しておかなくては。

ラザクよりも私、私よりもパンの方がマシ、と判断して、パンの背中に収納袋を括り付けた。

ほぼ使い切った予算に満足しつつ、あとはドライフルーツでもあればと探しながら集合場所へ向かう。


「おいおい残りの金は、働いた俺様がもらうのが筋ってもんじゃねえか? なあ?」

「りゅーも、働いた」

「ピィッ!」


ふいに響いた鳴き声に、反応が遅れる。

ペンタ……これは、そう――警戒鳴き!

咄嗟に木剣に手をやって、戸惑った。だってここは町中。魔物なんて――


「馬鹿言え、俺様がお守りまでしてやって――え」


立ち止まった私にすら気付かず、ひとり先を歩いていたラザクが、足を止めて周囲を見回した。

そうか、こういう道を通ると、簡単に前後を塞がれてしまうのだな。

魔物はいないけれど、リトがいないとこういうことになる。

素早く踵を返したラザクが、私を見て目を剥いた。


「え、ちょ……ぶ、物騒じゃねえの、俺様何もしてないのに?!」


前後を挟まれたラザクが、だらだら汗を垂らして挙動不審になっている。

私はと言えば腕を掴まれ、背後から首元に何か当てられている。多分、定番で言うとナイフだろう。

つまり、誘拐より強盗の方だろうか。

 

「よう、見てたぜ。景気いいじゃねえか、コイツの命が惜しけりゃ財布ごと寄越せ」

「はい喜んでぇ! そのガキごとどうぞ差し上げまぁす!!」


即答したラザクに、一瞬悪党たちが戸惑った。


「……は? 財布を寄越せっつったろ」

「いやいやいや、だって財布はそいつがもってるんでぇ! 俺様、しがない使用人みたいなものでぇ!」

「てめえみたいな使用人がいてたまるか。ふざけてんじゃねえ!」


清く生きていないと、本当のことを言っても信じてもらえないものだ。

ひとまず、ラザクはいいとして……。


「ぱん、がるー、離れる! きんたろ、いいよ!」

「わうっ!」


ああそうだ、これを使えと言われたのだった。

必要かどうかは分からないけれど。

一応、握り込んだ手の中でパチンと弾ける感覚がした。


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キンタロばんがれ!
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