【第十話】三人
この街は、かつて血で栄えた。
そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。
彼は爆発犯だ、罪人だ。
それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。
――仮面の英雄、と。
俺の仕事は、その男を止めることだ。
午後、因子暴走事故が発生。
建設現場で配管が破裂し、赤い光が溢れていた。
取り残された作業員が床に倒れている。
「濃度上昇、暴走域!」
背後から聞こえる分析官の声で、グッと身体中の血に神経を集中させる。
天井のコンクリートが崩れ頭上に降ってくるが、仲間の隔壁が展開され、破片が弾かれる。
だが赤い光は止まらない。
「燃やすぞ!」
青白い炎が暴走因子だけを包む。
焦げる匂い、視界を遮る煙。
ーーそして、静寂。
作業員が咳き込みながら起き上がる。
「……助かった……ありがとうございます。」
俺は笑った。
胸の奥が熱くなった。
そのときは、本当に正しかった。
入局二年目の春。
ビルの屋上から見渡す空は、やけに青く感じられた。
「よっし!また称号ゲット〜!」
胸についた金色に輝くバッジを見て、誇らしげに胸を張る。
「ま、当然だろ!」
ハイタッチするとチリ、と火花が指先で小さく弾けた。
「出力制御、甘い。」
同チームの分析官が端末を見つめたまま、静かな声で言う。
「衝撃で因子が跳ねてる。」
「毎度細けぇな…」
「細かくない。」
「お前ら、ずっとそれやってんな!」
ケラケラと笑い合う少年達。
その間を、ビル風が吹き抜けていく。
「……なあ。」
「どうした?」
「俺たちの力って、この国にいる誰かからの血で成り立ってるだろ?」
「そりゃそうだろ。」
「だからその分、俺らが誰かを助ける。」
「そう。」
「これってさ、何ていうか…すごくいいことだと思うんだよ。」
「……語彙力、低すぎ。」
「しょうがねぇだろ、コイツ燃やすことしか出来ないんだから。」
「お前ら!!……でもこうやって因子暴走事故を止めて、誰かの命を救って、笑顔で『ありがとう』って言われると、なんだか誇らしいんだよ。」
「……そうだな。」
「だから、俺はこれからも全力で燃やし続ける!」
「だから物騒だって。」
笑い声が重なり、ベンチに三人並んで座る。
若い。
何も知らない。
街の裏も、地下も。
『三人なら、何とかなる』
ただその時は、そう思っていた。
その日の夜、宿舎に帰って制服を脱いだ瞬間、アドレナリンが切れたのか青白い顔でベッドに倒れ込んだ。
同室の男に、なんとも言えない顔をして見られた。
「毎度思うんだが、よく貧血でブッ倒れないよな。」
「慣れてんだよ。」
「慣れるな。」
短い言葉を返されると、何も言えなくなって話を逸らした。
「まあ明日も輸血日だし、明後日からはまたバリバリ勤務に戻れるし。」
「……無理すんなよ。」
「する。俺の力で助けられる命があるなら。」
真っ直ぐに相手の目を見て返事をした。
遠くでサイレンが鳴る。
街の灯りが揺れる。
誰も、あの地下を知らない。
まだ。
【登場人物】
新人1:???
新人2:???
新人3:???




