【第十一話】地下
この街は、かつて血で栄えた。
そして今も、誰かが自分の血を燃やしている。
彼は爆発犯だ、罪人だ。
それでも一部の人間は、彼をこう呼ぶ。
――仮面の英雄、と。
俺の仕事は、その男を止めることだ。
きっかけは、数字だった。
同チームの分析官が眉をひそめる。
「因子供給量と、事故発生率が合わない。」
「どういうことだ?」
「供給が増えてるのに、暴走事故は減ってる。」
「良いことだろ。」
だが心の奥がざわついた。
その夜、物静かな分析官が違和感を強く訴えかけてきたので、三人で自動運転の搬送トラックを追った。
すると途中から正規ルートを外れ、裏道の地下搬入口と書かれた所へ進んでいった。
「おい、そろそろ消灯時間だぞ。」
止める声が聞こえたが、でも足は止まらなかった。
トラックの影に隠れながら見えた開かれた扉の向こうには──。
冷たい空気と全体を包みこむ白い光。
簡素なベッドが、整然と並んでいた。
間隔は異様に狭い。
その上にはホームレスと思わしき老人、不法就労者であろう女性、そして、先日助けたはずの作業員の顔もあった。
全員の腕から管が伸びている。
血。
ゆっくりと、抜かれながら生かされている。
だが目は虚ろで、時折呻き声が聞こえた。
「……なんだ、これ」
声が震えた。
分析官が息を呑む。
同室の男は動かない。
モニターに表示される数値。
奥に、濃縮槽と注ぎ込まれている赤黒い液体。
ラベルにはこう書いてあった。
“国家支給精製因子液”
理解が追いつかない。
「……違うだろ!?」
喉が焼ける。
「俺たちの因子は、志願者の献血だって!」
「志願者だって言ったよな……?希望者だけだって……!」
誰も答えない。
ベッドの一つで、見覚えのある作業員だった男が目を開ける。
唇が動く。
「……ころ、し、てくれ。」
その目は俺を覚えていた。
あの日、助けたはずの現場。
俺が“救った”はずの命。
膝が震えて、喉が乾く。
「……違う。」
違う。
これは違う。
「違うだろ……」
血が、熱い。
指先から火花が散る。
俺の中で、何かが切れた。
身体中から青炎が漏れる。
「止めろ!」
同室の男の声。
狼狽える分析官。
青炎が濃縮槽を包み、配管を焼き、天井を舐める。
「……俺たちは、何を燃やしてきた?何をしてきたんだ!?」
答えはない。
そのとき初めて、俺は理解した。
燃やしても終わらないものがある。
構造。
搾取。
血。
「……燃やす。」
声が低い。
「全部、燃やす。」
青炎が立ち上がる。
同室の男が隔壁を展開する。
だがそれは、外部からの攻撃を遮る壁。
内部で流れる血は、止められない。
地下が揺れる。
誰かが叫ぶ。
その夜、A都で最初の“青い爆発”が起きた。
【登場人物】
新人1:???
新人2:???
新人3:???




