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「超高層ホテル52階バスルーム・謎の完全犯罪」  作者: 嘉宮 慶
第八章 江戸切り子に竜胆が一輪
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7話  秘密の暴露


 私は、事件当日、四十六階のラウンジで紅茶を飲みながら予め打合せした

通り、慶子さんからの連絡を待っていました。

 確か午前零時ちょっと前だったと思いますが、慶子さんから連絡が有り

ました。

 四十六階のラウンジにいますと応えると、慶子さんが客室から迎えに

来てくれました。

 一緒に部屋まで行くと、既に香坂はソファーでぐったりしていました。



 慶子と頼子は無様にソファーで寝込んでしまった香坂から着ていた

シャツ・ズボンと下着を剥ぎ取った。

 二人は梱包用ストレッチで足首から太腿までぐるぐる巻きにした。

 次に香坂の上体を起こした。

 不規則にぐらついている上体を慶子が押さえた。

 頼子は両腕を上体に密着するようストレッチを巻着付けた。

 仕上げは鼻から頭部に向ってきつく巻き、鼻腔からの呼吸を絶った。

 香坂は爆睡した木偶となった。もがくことも出来ない。

 呼吸出来るのは口だけになった。

 爆睡して脱力している男をバスタブまで引っ張っていくのは正直大変だった。

 木偶を何とかバスタブに放り込んだ。

 二人の冷淡な視線が、ストレッチテープでぐるぐる巻きにされた全裸の

香坂を見ていた。


 これから人の命を奪うのだと言う感情はなかった。

 慶子は、バスタブの縁に座り片手で香坂の顔を上に向かせ、睡眠薬を

 大量に溶け込ませたバーボンを無理矢理口に押し込み瓶を垂直に立てた。

 香坂は強い酒を呑まされているのが判ったのか、顔を左右に激しく振り

バーボンを吐き出し激しく咳き込んだ。

 顔に巻かれたストレッチの隙間から涙が流れた。



 同じ事を二度ほど繰り返すと顔を左右に振る力が弱々しくなった。

 三度目は、垂直に立てられたバーボンを嫌というほど呑まされていた。

 鼻からの呼吸はデキないため、息をするにはバーボンを飲み下す以外にない。

 瓶の半分程のバーボンが胃の中に強制的に流し込まれた。

 唇をこじ開け、差し込まれた瓶の注ぎ口が香坂の口から吐き出された。

「これでもか!」

 というほど目一杯開けた口で何度も大きな空気を吸い込んだ。

 腹の底から悲鳴にも似た喘ぎ声がバスルームに響いた。


 慶子は醒めた眼で香坂を凝視し、唇をこじ開けバーボンの残りを流し

込んだ。

 睡魔と酒の酔いが相乗的に作用し意識を失わずにいられる限界を

香坂は彷徨っていた。

 懇願するように「慶子!何故だ!止めてくれ!」

 その叫びを最後に香坂の意識は斬れた。


 慶子さんと私は暫く、痙攣して震えている香坂の口元を呆けた眼で見入った。

 痙攣が治まるのを見届けて

「頼子さん、終わったわ!」

 慶子さんが気の抜けた声でいった。

 私はストレッチテープを処理する鋏を持った。

 香坂に巻き付けたストレッチテープを慎重に切ると、巻き取りビニール袋に

押し込んだ。

 香坂には最初から全裸で浴槽に浸かっている姿勢を取らせた。

 私は浴槽の栓を確認するとカランを目いっぱい開き、ブルガリの

シャワージェルを注いだ。

 みるみる湯がバスタブに溜まり泡風呂になった。

 香坂の身体は自然に湯の中に沈んでいった。

 沈み行く途中で瞬時、両掌が湯の中から弱々しく突き出された。

 その掌は大きく開かれると、虚空を掴んだ。


 全てが終わると私は犯行に使ったストレッチテープ・鋏・バーボンの

瓶などを、大きな袋に詰め身支度を調えた後、慶子さんが睡眠薬を

飲んでベッドに横になるのを見届けて、部屋のカードキーを持って

ホテルを後にしました。

 表通りでタクシーを捕まえ自宅まで帰りました。 



 三森は、小早川頼子の告白を聴き終えると背広の内ポケットから香坂に

対する逮捕状をデスクに拡げて見せた。

「どうして、警察に任せてくれなかったんですか?」

 青ざめた顔の頼子に詰問調で問うた。

 頼子は、拡げられた逮捕状を隅々まで濡れた瞳で舐め回すと目線を

 ゆっくりと三森の瞳に止め瞠目した。

 大きく開いた唇を両手で覆うと泪が溢れていた。

 そして又、ゆっくりと逮捕状へ目線は這って行った。

 そこで目線は釘付けになった。

「自分の恨み辛みを自分の手で霽らしたかった」

 頼子は俯き自身の掌を凝視しながら、涙声で呟くように言葉を洩らした。

 言い終わると同時に大きな声で号泣しデスクに突っ伏した。




 慶子の夫・博嗣は玉川上水に放り込まれ葬られた。

 そして頼子の夫・瑛介は裏帳簿紛失の責を糾弾され、人格破壊の憂き目に

遇い自ら命を絶った。

 いずれも香坂の爪牙に懸っている。

 最愛の夫を理不尽にもこの世から葬られた。

 共通の動機を持つ二人が同気相求どうきそうきゅうした。

 だが、もう一人同じ動機を持った生駒恭子がいた。

 日々ふっくらしてくるお腹があの日を思い出させる。

 お腹の子の父親を葬ったのは誰なのか? 

 必死に探し求め、遂に突き止めた。


 忌明けの宴が、三人の同気相求どうきそうきゅうの場になった。

 司法の手に委ねることを拒んだ三人の怨恨が抱合(ほうごう)した。

 もとより償いを受け入れる覚悟での「意趣返し」である。


 禍根を残して生きていくのは、虚しい。

 それよりも罪を償うことで葬られた最愛の人への弔いになると信じた。

 善悪が捻れた思念に追い込まれ究極の選択であった。


 メルクス社長・藤堂尊たけるは、四年前、突然に最愛の一人娘・

藤堂梅美を失った。

 当初は、単なる交通事故と思っていた。

 しかし、突然車道に飛び出してタクシーに跳ね飛ばされたと聞いた。

 そんな自殺行為に等しい行動を梅美がする理由が見当たらない。

 藤堂は納得出来ない何かを胸に抱えた。

 梅美の謎の行動に疑問を感じた。

 日を追う毎にその思いがつのる。

 納得出来る理由がどうしても欲しい。

 このままでは、梅美に申し訳ない。

 そう思う様になった。

 香坂に調べさせた。

 時間が掛かった。だが、じっと我慢した。

 待った甲斐があった。



 梅美が、手を振りながら誰かの名前を歩道で呼び、車道に小走りで

飛び出しタクシーに跳ね飛ばされた。

 倒れている梅美に駈け寄った男がいた。

 その男が救急車に一緒に乗っていった。

 と事故現場の前の花屋の女が一部始終を見ていたと聴いた。

 梅美が車道に飛び出す原因になったのは、その男だと確信した。


 その男が榊だった。

 藤堂には、二人がどのようにして知り合ったのか見当も付かなかった。

 そんな事は、もうどうでも良くなった。

 最愛の娘を失った。が、理不尽にも奪われた。に一瞬で変わった。

 藤堂の思いは、榊の殺害へと向かった。


 香坂にその依頼をした。

 香坂の見返りは次期社長の座だった。

 藤堂は承諾した。



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