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「超高層ホテル52階バスルーム・謎の完全犯罪」  作者: 嘉宮 慶
第八章 江戸切り子に竜胆が一輪
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6話  「シャワージェルは凶器にならんぞ!」


 科捜研からの報告


 現場遺留品・押収品からブルガリのシャワージェル容器に小早川頼子の

指紋検出。

 客室カードキーから、小早川頼子の指紋検出。

 江戸切り子の一輪挿し花瓶より小早川頼子の指紋検出。

 指紋鑑定は同人の携帯電話に付着していた無数の指紋と符合。

 その他タオル類・シャンプー類については未使用を確認。

 携帯電話の履歴は時系列に沿ったデータがプリントアウトされていた。

 履歴の中で目を引くのは、死亡推定時刻のほぼ一時間前に慶子発信、

頼子受信の履歴が有る。



「客室のカードキーから頼子の指紋を検出した事は共犯を示しているが殺害は

証明できない。ただの状況証拠に過ぎん!」

 村上は証拠品を前に答えの出ない自問自答を繰り返した。

「主任、シャワージェルの容器に付着していた頼子の指紋は有力な証拠になり

ませんか?」

 三森が苦し紛れで訊いた。

「シャワージェルは凶器にはならんぞ」

 眉根に寄せた皺を指で擦りながら応えた。

 数々の物的証拠と状況証拠が香坂の死亡時刻に小早川頼子を現場に立たせた。 


 検死官の報告に依ると死因は溺死である。

 だが、どう溺死させたのか……? 

 言うまでもなく真相を知り得るのは二人以外に無い。

 二人が黙して語らない時は、索漠たる闇に潜む真実を弄る以外に遣り用は

無い。

「主任、任意で引っ張っても良いですか?」

 三森が鄭重に訊いた。

「止むを得ないな」

 村上の眼に覇気溢れる光が宿った。



 自由が丘の小早川頼子の自宅を訪ねた。

 

 任意で事情を聴きたい旨を伝えると、素直にその言葉に従った。

 頼子は、取調室に入っても動揺する様子も見せず毅然としていた。

 事件の核心である客室カードキーの疑問に応える事は、犯行の全容を明かす

事になる。

 そう思った三森は、直接的に尋ねた。

「小早川さん、榊さんのバックから出てきたホテルのカードキーに貴方の指紋

が付着していた。この件を説明して頂けますか?」

 三森はビニールパックに入れたカードキーをテーブルの上に出し頼子の前

まで、静かに滑らせた。

 頼子はそのカードキーに視線を釘付けにしたまま

「私は、全てが終わると、慶子さんからカードキーを預かりホテルを後にし

ました。後で慶子さんに返す予定でした。病院にお見舞いに行った時に返し

ました」

 頼子は何の躊躇いも無く吐露した。

 だが、視線はカードキーの一点から剥がせずにいた。


 三森は躊躇いの無い犯行と詠んだ。

 裏を返せば躊躇いなど不用な犯行となるが……。

「江戸切り子の一輪挿しを慶子さんの見舞いに持って行かれましたね……?」

「それは亡き主人がとても大切にしていた花瓶です。季節の花を絶やさずに

飾っていました。亡き主人の魂が少しでも宿っている花瓶を枕元に起き癒や

して差し上げたいと思って持って行きました」

 頼子の視線は既にカードキーから剥がされ漠然とした空隙を見ていた。


 人を殺害した人間が、他人を慈しむ気持ちが存在するのか? 

 三森は嚥下出来なかった。

 犯した罪の大きさに悔恨と慚愧の念に踏み躙られ憔悴しきってもおかしく

無いはずだ。

「頼子さんはご主人が何故自殺に追い込まれたのか、もうご存じなんですね」

確かめるように訊いた。

「既に知っていました」

 小さな声で呟くと瞳を閉じた。

 きつく閉じられた瞼から泪が一筋溢れた。

 溢れた滴が頬を滑りテーブルで撥ねた。

「それは、いつですか? どのような経緯で知られたんですか?」

 三森は構わず問うた。

「確か五月二十日前後ですが…… 秘書課の生駒さんからUSBが簡易書留

で届きました。USBに録音されたデータのフォルダを開くと主人の

声が―― うっ……」

 頼子の声が語尾を曇らせ消えた。 

 両手で口元を鬱ぎ噎び泣いた。

 

 三森は、二之宮から提供されたUSBの内容を思い出した。

 おそらく同じ内容のUSBだ。

 香坂が小早川を怒鳴り声で叱責した場面が蘇った。

 唇を強く噛み締め曇った顔が天を仰いだ。

 頼子が落着くのを待って

「犯行当日、慶子さんと何をしたのか話して頂けますね?」

 三森が諭すように云った。


 頼子は鼻を啜りながら、弱く弱しく頷き、ゆっくりと話し出した。



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