表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「超高層ホテル52階バスルーム・謎の完全犯罪」  作者: 嘉宮 慶
第八章 江戸切り子に竜胆が一輪
105/110

3話  江戸切り子・一輪挿しの竜胆


 六月十八日


 捜査本部は縮小された。

 再捜査に必要な物的証拠は所轄の赤坂署から引き継いだ。

 現場のホテルの客室は事件の翌日から営業を開始しており現場を再度検証

することは難しい。

 死体も荼毘に付され骨だけになった。



「三森さん検察官の云う、平仄が咬合わないという事はどういうことですか?」

 五十嵐が怪訝な顔で云う。

「事件の辻褄が合わないと云っている」

 渋面になった三森が窓の外の虚空を睨んで応えた。

「香坂が死んだ経緯は事故死ではないと?」三森の背中に訊いた。

「もっと突っ込むと、事故死では辻褄が合わないと――――」

「やっぱり! 自分もそうではないかと?」

 肯定する口吻だが視線が浮遊していた。

「どの辺が?」三森はものうい声で訊き返した。

「それが判ったら事件解決ですよ!」

 半分漫言めいて云い始めた声が尻窄みになった。

「そうだな……?」

 小さく呟くと沈黙が辺りの空気を軋ませた。


「一輪挿しの江戸切り子……」

 三森が黙考を破って囁くように独りごちた。

「え! 今なんと?」五十嵐は聞き返した。

「榊慶子の病室にあった」

「それがどうしたんですか?」

「うん―――― どこかで見た。だが思い出せない」

 

 五十嵐がネットで探した江戸切り子の一輪挿しをモニターに引っ張り出した。

「三森さん、こんな格好でしたか?」PCを三森に向けた。

「ウーン、首がもっと長いのは無いか?色は瑠璃色だ」

「こんなんでどうですか?」

 画面一杯に江戸切子の一輪挿しが並んでいた。 

「おお、これだ!」

 かなり首の長い一輪挿しを指差した。

 五十嵐も指さされた江戸切り子の一輪挿しをどこかで見た記憶が有る。

「そうだ! これと同じ型の江戸切り子を小早川の家の確か書斎で……。

あの時、竜胆りんどうが生けられていた江戸切り子の一輪挿しと、

三森さんが榊慶子の病室で見た一輪挿しが同じ型だ」

「三森さん、これはどういうことですか?」

 五十嵐が息を飲んだ。尚も続けて

「確か榊慶子が入院した病院は、警察の関係者以外は知り得ないはずですよ」

「そこだよ! 平仄が合わない」

 三森が真顔で疑問を呈した。

「慶子本人が連絡を取る以外に入院した病院を知る術がない」

 五十嵐が真面目くさった顔から言葉を捻り出した。

「慶子は睡眠薬の後遺症に見られる群発性頭痛と激しい嘔吐感その上、薬が

抜けきらず身体がふらふらしていた。果たして歩くことが出来たのか? 

そのような状態でも、連絡をする差し迫った事情は何か?」

 三森は続ける。

「慶子は、それでも小早川頼子に連絡を取った。知らせを受けた頼子は

江戸切り子の一輪挿しと赤い薔薇を持って見舞いに駆けつけた」


 三森の方向性を持った疑問は慶子の底意を見据えているようだ。

「頼子は、何を話す為に見舞いに駆けつけたのか?」

 五十嵐は穿った見方をしている様だ。

 強ち的外れではないかもしれない。

「慶子の携帯電話! 所轄の押収した物的証拠に無いか?」

 三森が突如、証拠について問うた。

「携帯電話がどうしましたか?」

 五十嵐は虚を衝かれた。

 敏腕刑事と云われる所以は何処に行ったのか。

 シュールな思考回路は混線したのか? 

 唖然とした眼差しで応えた。

「携帯電話はありません。ホテル備え付けのシャンプー・リンス・タオルが

一式有ります」

「証拠品の中に無いか……? 携帯電話は慶子のバックに最初から入ってい

た……。さて?」

 三森は顎に手をやり二度三度と無精髭を擦った。

「慶子の携帯電話を押収しますか?」

 五十嵐が勢い込んだ。

「小早川頼子の携帯電話も一緒に押収するぞ。それから物的証拠と現場

遺留品が、何故か未だ科捜研に送られていない。至急送って鑑定検査を依頼

してくれ」

 

 三森は所轄の橋本刑事と慶子の入院している病院へ向った。

 一方、五十嵐は玉野刑事と自由が丘の小早川頼子を尋ねた。




竜胆の花言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」

学名の「Gentiana」は、リンドウの薬効を発見した人物、

アドリア海沿岸のゲンチアナ王の名前に由来する。


夫・瑛介は悲しみを抱え、自らの命を投げ出した。

妻・頼子は「悲しんでいるあなたを愛する」の花言葉を持つ

竜胆を日々捧げ、最愛の夫を偲んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ