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4. 邂逅




当然ながら、エレオノーラよりも背の高いハルベルトに見下ろされると身も竦む思いだ。煌めくような琥珀の瞳は何もかもを見透かすようにエレオノーラを見ていた。


相手が“赤持ち”のハルベルトであるため、魔道に関しては何を根拠に、と笑い飛ばすこともできず目に力を込めて見返す。…ほとんど睨むような格好になってしまったが、それで動じるハルベルトではなかった。


「…虚勢だな」


その一言で、カッと頭が熱くなる。どこか小馬鹿にしたような言い草も、エレオノーラには気にくわない。


「魔力に乱れがある。…なんだ、分かりやすいじゃないか」


…何を言っているのだろうか。ロザーリアが危うい人を見る目でハルベルトを見ている。しかし、何かに思い至ったように呟いた。


「魔眼…?」


伝承のように囁かれているその力は魔力を見抜き、意のままに操れるとも言われる。『魔力』とは全く違う異能の力…。


当のハルベルトはと言うと、ロザーリアの言葉に否定も肯定もしない。それが最大の肯定だというのことは、言わずとも知れた。


「…あなたが知りたいことは、もう分かっているのでしょう?私は逃げも隠れもしない」


エレオノーラが母から受け継いだ力を恥じ入ることはない。大切なことは、いつだってひとつなのだから。


「どうぞ、お好きなように」


「エレオノーラ!?」とロザーリアは止めるが、ハルベルトはスッと目を眇める。見透かすようにエレオノーラを凝視するハルベルトは、エレオノーラの手を取った。それに驚く暇もなく、まるで身体の内を撫でられたような、妙な感覚に背筋が凍る。


そしてしばらくすると、ハルベルトの魔力が流れ込んできた。“赤持ち”らしく、純度の高い魔力は心地いいぐらいだ。


「…っ!!?」


しかし、繋がっていた手が唐突に振りはらわれる。心地よさに身を委ねていたエレオノーラは現実に引き戻された。


驚きに見開かれる琥珀色の瞳が、再びエレオノーラをみとめるまで10秒と少し。ハルベルトが繋がっていた自分の手を見て、そしてエレオノーラをみた。


「……まさか、な」


それが何を意味するのかは分からない。ただ、先程まで鋭かったハルベルトの目が少し柔らかくなったような気がした。あの、と声をかけようとしたエレオノーラの声はロザーリアに遮られる。


「…幾ら何でも面識のない女性の手に触れるなんて、あんたバカなの!?」


と、素でハルベルトに叩きつけた。もともと、キリリとした美貌のロザーリアである。その彼女が怒気を滲ませ詰め寄ると、さすがのハルベルトも一歩引いた。


「いや、これは…」


「あーだこーだと仰るなら筋を通しなさい!筋を!仮にもあなたは伯爵家のご子息でしょう?」


言い返そうとしたハルベルトをロザーリアはぴしゃりとはたき落す。たじろいだハルベルトは「…すまなかった」とぼそりと言うだけにとどめた。


「目的は達成されましたわね?私たち、これから昼食ですので失礼します」


ぐいっとエレオノーラの手を引いたロザーリアが扉へ向かって歩き出す。ハルベルトの返事も聞かずに歩き出したが、当の本人はぼんやりと自分の掌を見つめていた。






◆◇◆◇◆◇






何かとお金を掛ける場所が多い学生にとって、「安くて美味しい」学食は絶対的な味方と言える。例に漏れず、ヴィル・ハーツ魔導学院でもリーズナブルな学食が供されている。


しかし、幼少期を市井で暮らした自分はいいとして、幼い頃から貴族の食事に慣れているロザーリアが学食《ここ》へ来るとは思っていなかったエレオノーラだ。


適当なものを見繕い、窓際の席に着いたところでロザーリアはため息をつく。


「…生きた心地がしなかったわよ?エレオノーラ」


責められる、と思っていたエレオノーラは殊の外呆れた様子の声色に肩の力を抜いた。


「…ごめんなさい。ただ、後になって言われるよりマシかと思って」


「まさか、魔力までお見通しだなんて思わないものね…」


魔眼、なんて本当に存在するかもわからないもの。それを使いこなすハルベルトの“赤持ち”としてだけではない圧倒的な素質。


…この場合、伝承レベルの話であった『魔眼』について知っているロザーリアの知識に驚くのだが。


「…でも、ちょっといいすぎたかも…」


ロザーリアは肩をすくめてアールグレイを口に含んだ。高圧的な態度で終始ハルベルトに対応していたが、“自分らしくない”態度に違和感を感じていた様である。だが、そうさせてしまったのはエレオノーラにも責任があった。


「ううん、そんなことない。…あの方は有名人だろうから、もう関わらないでくれる方がありがたいもの」


オムレツにナイフを入れたエレオノーラはその味に目を見張る。伯爵家《うち》のシェフにも引けを取らないなんてすごいなぁ、と。それはロザーリアも同じだった様で一口大にカットされたバゲットサンドを口にして驚いた顔をしていた。




「…ねぇエレオノーラ。私、毎日ここに通いつめるわ」


オムレツを頬張りながら、エレオノーラが大きく頷いたのは言うまでもない。






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