↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/37

第22話「異世界の遺物、どう見ても日本製なんですが」

【異世界由来と思われる物品を、一点発見】


 俺は報告書のその一文を、三回読み直した。


 ……異世界由来。


 つまり、この世界のものじゃない。


 俺と同じように、別の世界から来た何かが存在するということだ。


「……総監」


「何だね?」


「その物品は、今どこにあるんでしょう?」


「王宮の保管庫だ」


「見せていただくことは?」


「それは、もう少し報告書を読んでから判断したい」


 ……なるほど。


 いきなり見せてもらえるほど、甘くはないか。


 俺はページをめくった。


【発見物の概要】


 材質:不明


 形状:薄い長方形


 大きさ:約十五センチ


 表面:黒色の平滑な板状


 魔力反応:なし


「…………」


 ……ん?


 薄い長方形。


 十五センチ。


 黒い板。


 魔力反応なし。


 ……いやいや。


 まさかね?


 俺は次のページをめくった。


 そこには、発見物の簡単なスケッチが描かれていた。


 角の丸い長方形。


 片面には黒い画面のようなもの。


 側面には小さな突起。


 そして、下部には細い穴。


「…………」


 ……おい。


 これ。


 どう見ても。


「……スマートフォンじゃないですか」


 俺は思わず呟いた。


「……すまあと、ふぉん?」


 アルベルト総監が首を傾げた。


 ……しまった。


 つい、声に出してしまった。


「いえ、その……俺の故郷にある道具に、よく似ているんです」


「……故郷?」


 総監の目が細くなった。


「君の故郷では、これが一般的なのか?」


 ……ああ。


 これは、もう。


 ごまかせないかもしれない。


 ◇◆◇


「……総監」


 俺は報告書を閉じた。


「少し、長い話になります」


「構わん」


「ただ、信じていただけるかどうか……」


 総監は椅子に深く腰掛けた。


「君は、これまで騎士団のために働いてくれた。少なくとも、話を聞く理由は十分にある」


 ……ありがたい。


 俺は深く息を吐いた。


「俺は、この世界の人間ではありません」


 総監は何も言わなかった。


「別の世界から来ました。そこには魔法も、スライムも、エルフもいません」


「……ふむ」


「俺には、妻と子供が二人います」


 その言葉を口にした瞬間、胸が少し痛んだ。


「家族を残して、こちらの世界に来てしまいました」


 総監は、静かに聞いていた。


「だから、帰る方法を探しているんです」


 ……言った。


 ついに、話してしまった。


 総監はしばらく黙っていた。


 そして、ゆっくり口を開いた。


「……それが、君が境界の神殿にこだわる理由か」


「はい」


「なるほど」


 ……え?


 それだけ?


「……信じていただけるんですか?」


「すぐに信じるとも、嘘だとも言えん」


 総監は落ち着いた声で答えた。


「だが、君の話と、あの遺物の存在には接点がある」


 ……なるほど。


 さすが総監。


 感情だけで判断しない人だ。


「それに」


 総監は、少しだけ笑った。


「君がこの国の常識に疎い理由も、説明がつく」


「……ああ」


 それは、そうですね。


 ◇◆◇


「その道具について、詳しく説明してもらえるか?」


「はい」


 俺はポケットから、自分のスマートフォンを取り出した。


「……これです」


 総監の目が大きく見開かれた。


「……同じ形だな」


「ええ」


 俺は画面を点けた。


 薄暗い執務室に、光が浮かぶ。


「……光った!?」


 総監が思わず立ち上がった。


 ……おお。


 珍しく驚いてる。


「これは、俺の世界で使われている通信道具です」


「……通信?」


「離れた人と話したり、文字を送ったり、写真を撮ったりできます」


「……魔法を使わずに?」


「はい」


 総監は、しばらく画面を見つめていた。


「……信じがたいな」


「ですよねぇ」


 俺は苦笑した。


「ただ、この世界では通信できません。故郷とつながっていないので」


 総監は静かに頷いた。


「……そうか」


 俺は画面を消した。


 電池は貴重だ。


 充電できる保証もない。


「保管庫にある物品が本当にスマートフォンなら、俺の世界から来た可能性が高いです」


「……なるほど」


「できれば、実物を確認させていただけませんか?」


 総監は、しばらく考えていた。


 ◇◆◇


「……わかった」


 総監が頷いた。


「ただし、私の一存で保管庫を開くことはできん」


「……ですよね」


「宮廷魔術師と保管責任者の立ち会いが必要だ」


「承知しました」


 ……うん。


 それくらいなら、いくらでも待てる。


「明日の午後、確認の場を設けよう」


「……ありがとうございます!」


 俺は深く頭を下げた。


 ……よし。


 一歩前進だ。


 ◇◆◇


 執務室を出ると、廊下でセリスが待っていた。


「成田殿」


「……セリスさん?」


「総監から、君の故郷について聞いた」


「……え?」


 俺は思わず固まった。


「すまない。立ち会いが必要になるため、私にも共有された」


 ……なるほど。


 そういうことか。


「……驚きました?」


「もちろんだ」


 セリスは真剣な顔で頷いた。


「だが、君が家族のもとへ帰りたいという気持ちは、理解できる」


「……ありがとうございます」


「君の妻と子供たちは、今も向こうで待っているのだな」


 ……待っている。


 そうであってほしい。


 俺は小さく頷いた。


「はい」


 セリスは、少しだけ微笑んだ。


「ならば、帰る方法を探さねばならんな」


 ……ああ。


 なんだろう。


 ちょっと、泣きそうだ。


「……ありがとうございます」


 俺はもう一度、頭を下げた。


 ◇◆◇


 翌日の午後。


 俺は、王宮の地下保管庫に案内された。


 分厚い石の扉。


 壁には魔法陣。


 入口には二人の衛兵。


 ……うわぁ。


 完全に重要アイテムの保管場所だ。


 セリスとアルベルト総監に加え、白いローブを着た宮廷魔術師が立ち会っている。


「成田殿。こちらへ」


 保管責任者が、小さな箱を机の上に置いた。


 そして、慎重に蓋を開けた。


 中には、黒い板状の物体が入っていた。


「…………」


 ……間違いない。


 スマートフォンだ。


 しかも。


 俺は、その背面を見て息を呑んだ。


 そこには、見慣れた文字が刻まれていた。


 『日本製』


「……日本語だ」


 思わず声が震えた。


 総監が尋ねる。


「読めるのか?」


「……はい」


 俺は頷いた。


「俺の故郷の文字です」


 ……本当に。


 日本から来たものが、ここにある。


 十年前。


 境界の神殿で見つかったスマートフォン。


 ……ということは。


 少なくとも、俺以外にも。


 日本とこの世界をつなぐ何かが存在したということだ。


「……成田殿」


 宮廷魔術師が声をかけた。


「この物品について、一つ確認したいことがあります」


「……何でしょう?」


「我々は十年間、これを調べてきました。しかし、どうしても理解できない点があるのです」


 魔術師は、スマートフォンの側面を指さした。


「この物品には、魔力がありません。にもかかわらず、発見当初は内部に光が灯っていたそうです」


「……それは」


 電池だ。


 魔力じゃなくて、電気で動く。


 そう説明しようとした時。


 魔術師が続けた。


「そして、光が消える直前に、奇妙な文字が表示されたと記録されています」


「……文字?」


「はい。調査員が、その形を写し取っていました」


 魔術師は、一枚の古い紙を取り出した。


 そこには、震えるような筆跡で、短い文章が書き写されていた。


 『帰還座標を検索中』


「…………」


 ……え?


 帰還座標?


 そんな表示、普通のスマートフォンには出ないぞ?


 俺は、目の前の黒い端末を見つめた。


 ……何なんだ、これ。


 ただのスマートフォンじゃないのか?


 それとも。


 この世界から日本へ帰ろうとした人間が、すでにいたということなのか?


 ――第22話・完――

最後まで読んでいただきありがとうございます。

評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。