第11話「おじさんの縁結びスキル、騎士団を強くしてしまう」
「では、始めるぞ!」
セリスが木剣を構えた。
その向かいには、レオンとカイル。
ついさっきまで喧嘩していた二人が、今は肩を並べて立っている。
……いや、待って。
ちょっといい雰囲気になったからって、いきなり騎士団長と戦わせる必要ある?
「団長、本当に三割でお願いしますよ!」
レオンが叫んだ。
「安心しろ。約束は守る!」
セリスは堂々と答えた。
……その笑顔が一番怖いんだよなぁ。
俺は訓練場の端まで下がった。
足元ではミドリがぷるぷる震えている。
『――おじさん、あの人、強いですね!』
「うん。俺の三十人分くらい強そうだね」
『――もっとじゃないですか?』
「……否定できない」
そんなことを話していると、視界の端に青い画面が浮かんだ。
ピロン♪
【固有スキル《縁結び》】
【新能力《連携支援》】
対象:レオン・グランツ/カイル・レイン
発動条件:相互の信頼と協力意思
効果:互いの意図を読み取りやすくし、行動のずれを軽減する
※身体能力そのものは上昇しません。
※対象者の同意が必要です。
「……なるほど」
これは、なかなか面白い。
攻撃力アップでも、防御力アップでもない。
あくまで、連携を助ける能力か。
……って、同意が必要なのね。
そりゃそうだ。
勝手に人の感覚をいじるような能力だったら、ちょっと怖い。
「レオンさん! カイルさん!」
俺は二人に声をかけた。
「少しだけ、お二人の連携を助ける魔法を使ってもいいですか?」
「魔法?」
レオンが振り向いた。
「おっさん、魔法使いだったのか?」
「いえ。剣も魔法も、ほぼ素人です」
「じゃあ何なんだよ!」
「……相談員です」
「ますますわかんねえ!」
ごもっとも。
俺も、自分の職業がよくわからなくなってきた。
カイルが慎重に尋ねた。
「危険はないのですか?」
「今わかっている範囲では、身体能力を無理に引き上げるものではありません。ただ、初めて使う能力なので、少しでも違和感があれば中止してください」
「……わかりました。私は構いません」
「カイルがいいなら、俺もいいぜ!」
二人が頷いた。
よし。
「では、お願いします」
俺は心の中で念じた。
――《連携支援》。
ピロン♪
【《連携支援》発動】
対象者双方の同意を確認しました。
信頼関係に基づく連携補助を開始します。
すると。
レオンとカイルの間に、淡い青色の光が走った。
「……おお」
俺には《縁の可視化》で見えているけど、二人にはどう見えているんだろう。
「……なんだ?」
レオンが首を傾げた。
「カイルが、次にどっちへ動こうとしてるか……なんとなくわかるぞ」
「私もだ。レオンが飛び出す方向を、以前より予測しやすい」
……よし。
どうやら成功したらしい。
「準備はいいか?」
セリスが尋ねた。
二人は顔を見合わせた。
「……行くぞ、カイル」
「ああ。今度は勝手に突っ込むなよ」
「わかってるって!」
レオンが笑う。
カイルも、ほんの少し口元を緩めた。
……うん。
さっきより、ずっといい顔だ。
◇◆◇
「始め!」
セリスの号令と同時に、レオンが飛び出した。
「うおおおっ!」
速い!
俺の目では追いきれないほどの勢いで、木剣を振り下ろす。
だが。
カンッ!
セリスは片手で受け止めた。
「いい踏み込みだ。だが、単調だぞ!」
「くっ!」
レオンが押し返される。
その瞬間。
「レオン、右へ!」
カイルの声が飛んだ。
レオンは迷わず右へ跳んだ。
直後、セリスの木剣が、さっきまでレオンのいた場所を通り抜ける。
「ほう?」
セリスが目を細めた。
カイルはその隙に横へ回り込む。
「今だ!」
「おう!」
レオンが再び踏み込んだ。
正面からレオン。
側面からカイル。
二方向からの同時攻撃。
……おお!
すごい!
なんか、ちゃんと連携してる!
さっきまで口喧嘩していた二人とは思えない。
「面白い!」
セリスが笑った。
そして。
カン! カンッ!
木剣を二度振るだけで、二人の攻撃を弾き返した。
……いや、強すぎない?
せっかくいい連携ができたのに、普通に防がれてるんですけど。
「カイル、次はどうする!」
「左から回れ! 私が注意を引く!」
「了解!」
二人は動き続けた。
以前なら、レオンが勝手に突っ込み、カイルが怒鳴っていたはずだ。
でも今は違う。
レオンがカイルの指示を聞く。
カイルもレオンの判断を信じている。
互いの長所を、ちゃんと使っている。
……いいなぁ。
俺は思わず笑った。
こういう瞬間が、好きなんだ。
婚活の相談でも、同じだった。
考え方の違う二人が、相手を理解しようとする。
自分にないものを、相手の欠点ではなく長所として見る。
それだけで、関係は大きく変わる。
……まあ、今は婚活じゃなくて模擬戦なんだけど。
「はああっ!」
レオンが木剣を振り抜いた。
カイルが絶妙なタイミングで踏み込む。
その瞬間。
――カンッ!
乾いた音が響いた。
「……おっ?」
セリスの肩当てに、カイルの木剣が軽く触れていた。
訓練場が静まり返る。
「……当たった?」
俺は目を瞬かせた。
セリスは自分の肩を見た。
そして、ゆっくり笑った。
「……見事だ」
レオンとカイルが顔を見合わせる。
「……やった?」
「……ああ。一本、取れた」
「よっしゃあああ!」
レオンが飛び跳ねた。
カイルも、珍しく大きく拳を握った。
……よかった。
本当によかった。
俺は胸をなで下ろした。
その時。
「では、次は五割で――」
「待ってください!」
俺は反射的に叫んだ。
セリスが振り向く。
「なんだ?」
「今のところで終わりにしましょう!」
「なぜだ?」
「二人とも、もう十分頑張りましたから!」
……というか。
この人、放っておいたらどんどん出力を上げそうだ。
セリスは少し考えた。
「……ふむ。確かにな」
そして、木剣を下ろした。
「本日の模擬戦は、ここまでとする!」
……助かった。
俺は心の底から安堵した。
◇◆◇
「成田さん!」
模擬戦を終えたレオンが駆け寄ってきた。
「すげえな、あの魔法!」
「いえいえ。お二人が協力したからですよ」
「でもよ、なんかカイルの動きがわかるようになったんだ!」
カイルも頷いた。
「確かに、不思議な感覚でした。ただ、私たち自身が考えて動かなければ、意味はなかったと思います」
「そうですね」
俺は微笑んだ。
「魔法は、あくまでお手伝いです。これからも、お二人で話し合ってください」
「……ああ!」
「……はい!」
二人が笑顔で頷いた。
その瞬間。
ピロン♪
【固有スキル《縁結び》】
対象:レオン・グランツ/カイル・レイン
信頼度:48 → 72
協調性:55 → 81
関係性:《対立する同僚》→《信頼できる戦友》
【経験値獲得】
経験値:400
【称号獲得】
《戦友の絆を結びし者》
「……おお」
新しい称号まで手に入った。
……やっぱり、このスキル。
恋愛だけじゃないんだな。
人と人の関係そのものを、支える力なんだ。
俺が感心していると。
「……成田」
セリスが近づいてきた。
「はい?」
「貴様の力、実に興味深い」
「……ありがとうございます」
「剣を振らずに、騎士たちの動きを変えた」
「まあ、俺は話を聞いただけですけど……」
「それができる者は、そう多くない」
セリスは真剣な表情で言った。
「私は、強さとは剣の腕だと思っていた」
「……はい」
「だが、今日の二人を見て、少し考えが変わった」
彼女は訓練場を見渡した。
「一人では届かない相手にも、力を合わせれば届くことがある」
「……そうですね」
俺は頷いた。
「強い人が一人いるより、お互いを信頼できる人が何人もいる方が、うまくいくこともありますから」
セリスはしばらく黙っていた。
そして。
「……なるほど」
小さく頷いた。
……おっ。
これは、婚活の方にもいい影響があるかもしれない。
結婚だって、一人で全部を背負うものじゃない。
得意なことも、苦手なことも。
お互いに補い合えればいい。
セリスも、少しずつそういう考え方を受け入れ始めているのかもしれない。
……よし。
いい流れだ。
そう思った、その時だった。
「……成田」
「はい?」
「一つ、頼みがある」
……ん?
なんだろう。
嫌な予感がする。
「貴様に、騎士団の特別相談役をお願いしたい」
「…………はい?」
俺は固まった。
「第三小隊だけではない。他の小隊にも、似たような問題がある」
「……はあ」
「貴様の力があれば、騎士団全体の連携を高められるかもしれん」
……いやいやいや。
ちょっと待って。
俺、昨日ようやく冒険者登録したばっかりなんですけど。
しかもランクF。
職業、相談員。
そんなおじさんが。
王国騎士団の特別相談役?
「……あの、セリスさん」
「なんだ?」
「俺、まだこの世界のことも、よくわかっていないんですが……」
「問題ない!」
「……いや、問題ありますよね?」
「人の心を理解する力に、国境も階級も関係ない!」
……うっ。
なんか、いいこと言われた。
こういう正論っぽい言葉、断りにくいんだよなぁ。
「もちろん、報酬は出す」
「……報酬?」
俺の耳が、ぴくりと動いた。
……いや。
別に、お金に釣られたわけじゃない。
ただ。
この世界で生活するには、お金が必要だ。
宿代も食費もかかる。
それに、いつか家族のもとへ帰る方法を探すにしても、資金があった方がいい。
「……ちなみに、どのくらいでしょう?」
俺が尋ねると、セリスはにやりと笑った。
「詳しい条件は、王城で話そう」
「……王城?」
「うむ。まずは上官に紹介する必要がある」
「…………」
……王城。
つまり、王様とか貴族とかがいる場所。
……え?
ちょっと待って。
俺、まだ異世界に来て数日なんだけど。
もう王城に行くの?
「明日の朝、迎えを寄越す!」
「……いや、ちょっと!」
「では、楽しみにしているぞ!」
セリスは満足そうに笑い、訓練場へ戻っていった。
俺は、その背中を呆然と見送った。
『――おじさん、すごいですね!』
ミドリが楽しそうに跳ねる。
「……そうかなぁ」
『――お城に行けるんですよ!』
「……そうだねぇ」
俺は遠い目をした。
異世界に来て、まだ間もない。
冒険者ランクF。
戦闘能力、ほぼゼロ。
そんな46歳のおじさんが。
なぜか王国騎士団の特別相談役候補になってしまった。
……いや。
俺にできるのは、婚活相談くらいなんだけどなぁ。
こうして。
俺の異世界生活は、ますます予想外の方向へ進んでいくのだった。
――第11話・完――
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