第10話「騎士団の人間関係、婚活アドバイザーが解決します」
「お前はいつも勝手なんだよ!」
「そっちこそ、いちいち細かいんだ!」
訓練場の奥から、怒鳴り声が聞こえてきた。
……うわぁ。
これは、なかなか派手に揉めてるな。
セリスに案内されてやって来たのは、訓練場の端にある小さな広場だった。
そこでは、二人の若い騎士が顔を真っ赤にして言い争っていた。
一人は、短い金髪の青年。
体格がよく、いかにも体育会系といった雰囲気だ。
もう一人は、黒髪で細身の青年。
こちらは真面目そうで、少し神経質な印象を受ける。
「……また貴様らか」
セリスが低い声で言った。
その瞬間、二人はビシッと背筋を伸ばした。
「だ、団長!」
「お、お疲れさまです!」
……おお。
さすが騎士団長。
一声で空気が変わった。
「何度同じことを繰り返すつもりだ?」
「……申し訳ありません!」
二人が揃って頭を下げた。
しかし、その視線は互いを避けている。
……うん。
これは、根本的には解決していないな。
俺は二人を見つめた。
すると。
ピロン♪
【固有スキル《縁結び》発動】
対象者を検知しました。
名前:レオン・グランツ
年齢:24歳
職業:王国騎士団・第三小隊
性格:直感型・行動派・負けず嫌い
現在の感情:苛立ち・不満
名前:カイル・レイン
年齢:25歳
職業:王国騎士団・第三小隊
性格:慎重型・分析派・責任感が強い
現在の感情:苛立ち・焦り
【二者間の関係】
信頼度:12
協調性:18
潜在的相性:89%
「……ん?」
俺は思わず目を見開いた。
……相性89%!?
めちゃくちゃ高いじゃないか!
なのに、信頼度は12。
協調性は18。
……なんだ、この極端な数字は。
相性がいいのに、関係が悪い。
現実世界でも、たまにあるケースだ。
価値観や能力は噛み合うはずなのに、コミュニケーションのすれ違いで衝突してしまう。
……なるほど。
これは、ちょっと面白いかもしれない。
◇◆◇
「……セリスさん」
「なんだ?」
「少し、二人とお話ししてもいいですか?」
「……構わん」
セリスは頷いた。
「ただし、時間はあまりないぞ。午後には合同訓練がある」
「わかりました」
俺は二人に向き直った。
「初めまして。成田と申します」
「……はあ?」
金髪の青年、レオンが怪訝そうな顔をした。
「誰だよ、このおっさん」
……おっさん。
まあ、否定はしない。
46歳だし。
「セリス団長の知人だ」
黒髪のカイルが小声で言った。
「……そうなのか?」
「おそらくな」
俺は苦笑した。
「怪しい者ではありません。ちょっとお話を聞かせてもらえればと思いまして」
「……話?」
「はい。お二人が、どうして喧嘩になったのかを知りたいんです」
レオンが鼻を鳴らした。
「簡単だよ。こいつがいちいち俺のやり方に文句をつけるからだ!」
「文句ではない! お前が作戦を無視するからだろう!」
カイルが言い返す。
……ああ、なるほど。
典型的なパターンだな。
行動派と慎重派。
現実世界でも、職場でよく見る組み合わせだ。
「……なるほど。では、一人ずつお話を聞かせてください」
俺は穏やかに言った。
「まず、レオンさんからお願いします」
レオンは少し驚いた顔をした。
「……俺から?」
「はい。途中で口を挟まずに聞きますから」
俺がそう言うと、レオンは腕を組んだ。
「……俺は、敵が見えたらすぐに動くべきだと思ってる」
「はい」
「戦場じゃ、一瞬の判断が生死を分けるんだ」
「なるほど」
「なのに、こいつはいつも『待て』『確認しろ』『隊列を崩すな』って……」
レオンは不満そうに続けた。
「そんなことしてたら、助けられる仲間も助けられねえだろ!」
……なるほど。
俺は頷いた。
「つまり、レオンさんは、仲間を守るために素早く動きたいんですね」
「……そうだよ!」
レオンが大きく頷いた。
俺はカイルに向き直った。
「では、カイルさんは?」
「……私は、部隊全体の安全を優先したいんです」
「はい」
「一人が勝手に動けば、隊列が崩れます」
「なるほど」
「敵が罠を仕掛けていた場合、全員が危険にさらされる可能性もあります」
カイルは真剣な表情で続けた。
「だから、私は確認してから動くべきだと言っているんです」
……うん。
こちらも正しい。
俺は二人を交互に見た。
「……なるほど。お二人の考え、よくわかりました」
「……は?」
レオンが怪訝そうな顔をした。
「どっちが正しいんだよ?」
「……そうですね」
俺は少し考えた。
「どちらも、間違っていないと思います」
「「……はあ!?」」
二人の声が揃った。
……おお。
初めて息が合ったな。
◇◆◇
「レオンさんは、仲間を守るために素早く動きたい」
「……おう」
「カイルさんは、仲間を守るために慎重に判断したい」
「……はい」
「つまり、お二人とも、目的は同じなんですよ」
俺は微笑んだ。
「仲間を守りたい。それだけです」
二人は黙った。
俺は続けた。
「ただ、方法が違うんです」
レオンは直感で動く。
カイルは情報を整理してから動く。
どちらも長所であり、短所にもなる。
「例えば、レオンさんの行動力と、カイルさんの判断力を組み合わせたらどうでしょう?」
「……組み合わせる?」
「はい」
俺は地面に落ちていた小枝を拾い、土の上に簡単な図を描いた。
「カイルさんが状況を分析して、レオンさんが素早く動く」
「……ふむ」
「逆に、レオンさんが現場で異変に気づいたら、カイルさんにすぐ伝える」
カイルが少し考えた。
「……なるほど」
「お互いの得意なことを生かせば、もっと効率よく動けると思うんです」
レオンが腕を組んだ。
「……でもよ」
「はい?」
「こいつ、俺のこと信用してねえんだよ」
カイルが反論しかけた。
だが、俺は手で制した。
「……カイルさん」
「……はい」
「レオンさんのこと、どう思っていますか?」
カイルは少し迷った。
そして。
「……無茶をする人間だと思っています」
「……おい!」
「ただ……」
カイルは続けた。
「……剣の腕は、第三小隊でも一番だと思っています」
「……え?」
レオンが驚いた顔をした。
「……お前、そんなこと思ってたのか?」
「……事実だからな」
カイルは少し照れたように視線をそらした。
俺は微笑んだ。
「レオンさんは、カイルさんのことをどう思っていますか?」
「……俺?」
「はい」
レオンは頭をかいた。
「……まあ、頭はいいと思うぜ」
「……え?」
「作戦とか、地形の把握とか。そういうのは、こいつの方が得意だ」
カイルが驚いた顔をした。
「……そう思っていたのか?」
「……まあな」
……よし。
いい感じだ。
その瞬間。
ピロン♪
【固有スキル《縁結び》発動】
対象:レオン・グランツ
対象:カイル・レイン
相互理解が進みました。
信頼度:12 → 48
協調性:18 → 55
【経験値獲得】
経験値:250
「……おお」
俺は心の中でガッツポーズした。
やっぱり。
この二人、相性がいい。
ただ、お互いの長所を認める機会がなかっただけなんだ。
◇◆◇
「……よし」
俺は立ち上がった。
「それじゃあ、せっかくですから、一度試してみませんか?」
「……試す?」
レオンが首を傾げた。
「はい。お二人で協力して、簡単な模擬戦をしてみるんです」
カイルが考え込んだ。
「……模擬戦、ですか」
「はい。実際にやってみた方が、わかりやすいと思います」
俺はセリスに向き直った。
「セリスさん、お願いできますか?」
「……ふむ」
セリスは腕を組んだ。
そして、にやりと笑った。
「……面白い」
その目が、鋭く光る。
「では、私が相手をしてやろう!」
「「……えっ!?」」
レオンとカイルの声が揃った。
……あ。
まずい。
この人に頼むんじゃなかった。
「……セリスさん?」
「なんだ?」
「いや、できればもう少し手加減できる方が……」
「安心しろ!」
セリスは満面の笑みを浮かべた。
「今日は本気の三割で相手をしてやる!」
「…………」
……三割。
王国最強クラスの三割。
それって、普通に危なくない?
俺は二人の騎士を見た。
レオンは顔を引きつらせている。
カイルも青ざめていた。
……ごめん。
俺のせいで、とんでもないことになった。
しかし。
次の瞬間。
ピロン♪
【固有スキル《縁結び》発動】
対象:レオン・グランツ
対象:カイル・レイン
【特殊条件達成】
相互理解による協力関係が成立しました。
【新たな能力を解放】
《連携支援》
信頼関係のある対象者同士の連携を、一時的に強化できます。
「……え?」
俺は画面を見つめた。
……連携支援?
ちょっと待て。
これって。
もしかして。
「……チートシステム来たー!!」
思わず叫んでしまった。
「……成田?」
セリスが不思議そうに俺を見た。
「……何を叫んでいる?」
「あ、いえ! 何でもありません!」
俺は慌てて手を振った。
……いやいや。
これは、かなりすごいぞ。
人間関係を改善するだけで、戦闘の連携まで強化できる。
つまり。
俺自身が強くならなくても。
仲間を強くすることができるってことじゃないか!
……これ、もしかして。
異世界で無双する方法、見つけちゃった?
俺は思わず笑った。
46歳。
運動不足。
戦闘能力ほぼゼロ。
そんな俺でも。
人の縁を結ぶことで、誰かの力になれる。
……よし。
これは、ちょっと面白くなってきたぞ。
ただし。
「……では、始めるぞ!」
セリスが木剣を構えた。
レオンとカイルが慌てて構える。
俺は少し離れた場所から見守った。
……頼む。
どうか、二人とも無事でいてくれ。
こうして。
王国騎士団第三小隊の、運命の模擬戦が始まろうとしていた。
――第10話・完――
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