第2話 綾小路家の招待状 その3
遠く綾小路邸の森の向こう。
夕暮れに染まる森の中、1本の大きな樹が静かに立っていた。
その太い枝の上に、1人の少女の姿があった。
長い白髪が風に揺れる。
真紅のワンピースが、まるで血のように夕日を吸い込んでいた。
少女は枝の上で足を組み、静かに微笑んでいる。
まるで木の一部であるかのように、自然に、静かに。
紅い瞳が遠くの館の一室を見つめている。
分厚い壁も、大きな窓も。
まるでそこにいる者たちの心を、直接覗き込むかのように。
「ふふっ…」
少女は小さく笑った。
その声音は、風に溶けていくようにやわらかく、どこか楽しげだった。
「見つけた」
「ようやく会えたね」
その言葉は恋人を見つけた少女のように優しかった。
少女はゆっくりと身をかがめる。
枝の上に落ちる影を、指先で撫でた。
影は、まるで生き物のように波打つ。
ズルリーーー
影の中から黒い何かが這い出た。
それは…Noise。
影から産まれた、黒い異音の塊。
少女はその頭を優しく撫でる。
「いい子ね」
「遊んで来て」
Noiseは地面へ滑り降り、森の奥を抜け、街の方角へ走り出した。
少女はそれを見届けながら、木の幹へ腰かける。
「いっぱい泣いてね…」
「いっぱい悲しんでね…」
「そうしたら…」
少女は自分の胸へ、そっと手を当てた。
「私も、もっと大きくなれるから」
くすり。
また笑った。
その笑顔は、純粋で、無邪気で、そして底知れない。
風が吹く。
木々が大きく揺れた。
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次の瞬間、枝の上にはもう少女の姿は無かった。
ただ、残された影だけが、ゆっくりと消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……と、言うわけですの。」
数秒の沈黙。
ミソラはゆっくりと立ち上がった。
「……今ので伝わりませんでしたの?」
ピスケが小首を傾げる。
「**むしろ何で伝わると思ったの!?**」
思わずツッコミが部屋中に響いた。
「ドラム叩いただけだよね!?」
「説明ゼロだったよね!?」
「そこから何を理解すればいいの!?」
「……。」
ピスケは目をぱちぱちと瞬かせる。
「……やっぱり私は。」
少しだけ俯く。
「魔奏少女には、なれませんのね……。」
しゅん、と肩が落ちる。
「えっ。」
「え、いや、そういう意味じゃ……」
「うぅ……。」
ぐすっ。
「あっ、泣かないでください!」
ミソラは慌てて立ち上がる。
「誰か!」
「**誰かどうにかしてくださーーい!!**」
その瞬間だった。
**ビーッ! ビーッ! ビーッ!**
館内のスピーカーから鋭い警報音が鳴り響く。
『緊急警報。』
『羽波市内にて多数のNoise反応を確認。』
『周辺住民は直ちに避難してください。』
部屋の空気が一変する。
堂道が静かに窓へ歩み寄った。
「……お嬢様。」
その一言だけで十分だった。
ピスケの表情から笑みが消える。
彼女はゆっくりと立ち上がり、窓の外へ視線を向けた。
遠くの街の方角。
黒い煙が空へ昇っている。
「始まりましたわね。」
堂道は静かに一礼する。
「準備は、既に。」
「ええ。」
ピスケは小さく頷いた。
そして、ミソラの方を振り返る。
「識戸さん。」
「参りましょう。」
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第3話 『出鱈目なリズム』へ続く
魔奏少女ミソラシュピーレン
エンディングテーマ
「大切な人」
(Aメロ)
鏡に映る 知らない誰か
そんなふうに 世界を見てた
でも君に出会ってから 全部が変わったの
不器用な指先で 奏でた音色
(Bメロ)
どうしてこんなに 胸が苦しいの?
どうしてこんなに 君を探してる?
名前のない感情が 溢れ出しそうだから
言葉にするより先に 走り出してた
(Cメロ)
離れていく背中を 見送ることしか
できない私を 許さないで
それでも最後に 一つだけ言わせて
君に出会えて 本当に良かった
(サビ)
この気持ちはなんて言うのかな
君が笑うだけで心が晴れるよ
連絡も理由も要らない
ただ君と居たいんだ
この気持ちはなんて言うのかな
君が居るだけで心跳ねるよ
恋愛でも友情でも無い
いつも君と居たいんだ
私の大切な人
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### 第2話 おまけ『綾小路家のスケール』
「すっごーい!」
ミソラは窓の外へ身を乗り出す。
「ピスケちゃんのお家、おっきいねー!」
「うふふ。」
ピスケは上品に紅茶を一口。
「それほどでもありませんわ。」
「それほどでもあるよ!」
ミソラは庭の奥を指差した。
「あそこにある別荘なんて、すっごく立派だし!」
ピスケは首を傾げる。
「……犬小屋ですわ。」
「…………。」
「…………。」
「え?」
「犬小屋ですわ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
思わず立ち上がるミソラ。
「あれ東京ドーム〇・三個分くらいあるよ!?」
「ポメラニアンとチワワのミックス犬。」
「ポメチワワンの五郎丸ですわ。」
「名前ぇぇぇぇっ!?」
「とても良い子ですの。」
「サイズがおかしいよ!?」
「たまに迷子になりますわ。」
「屋敷の中で!?」
「いえ、犬小屋の中で。」
「広すぎるよぉぉぉぉ!!」
堂道が静かに紅茶を注ぎ足す。
「五郎丸様は昨日も三時間ほど行方不明でございました。」
「犬小屋で遭難してるじゃん!!」
「無事保護できましたので、ご安心ください。」
「安心できる要素どこぉ!?」
ピスケはにこりと微笑む。
「今度、ご紹介いたしますわ。」
「……ちょっと会ってみたいかも。」
「とても人懐っこい子ですの。」
「そこは普通なんだ!」
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