第13話 おまけ
【~13話 おまけ~】
ミソラシュピーレンLive終了後。
楽屋へ戻ってきた四人は。
「はぁ~~~……。」
ミソラはソファへ倒れ込んだ。
「終わったぁぁぁ……。」
「お疲れ様ですわ。」
ピスケがタオルを差し出す。
「初Live。」
「大成功でしたわね。」
「うん……!」
ミソラが笑う。
「みんなが来てくれて。」
「本当に良かった……。」
その時。
「ピスケちゃーーーん!!」
廊下から。
聞き覚えのある声が響いた。
「Live良かったよぉーーー!!!」
「え?」
ピスケが振り返る。
「あら。」
「雲雀おねぇ様、来てらしたのね。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
四人の視線が。
ゆっくりと。
入口へ集まる。
そこには。
金色の髪。
オレンジの瞳。
そして。
ピスケよりも少し大人びた雰囲気の少女が立っていた。
「……。」
「……。」
「……。」
「えええええーーーーーー!!!???!!??!」
ミソラの絶叫が楽屋を揺らす。
「なんで!?」
「なんで雲雀ちゃんがいるの!?」
「あっ!」
雲雀はミソラを見ると。
「ミソラちゃんも最高だったよぉー!」
「ご褒美のチュー!」
「いやいやいやいやいや!」
雲雀がミソラへ抱きつき。
そのまま唇を寄せてくる。
ミソラは間一髪で顔を逸らした。
「ちょっとstella☆さーん!?」
「世界のバグが生まれてるんですけどー!?」
「なんですか騒々しい。」
どこからともなく。
ステラの声が響く。
「一日に二度も世界改変が行われたんです。」
「全てが元通りになると思っているほうがおめでたいんですよ。」
「それにしたって!」
「どうしたってことなのねー!?」
「おそらくですが。」
ステラは淡々と答える。
「彼女の生死には。」
「Noiseの関わりが薄かったのでしょう。」
「……?」
「今回削除されたNoiseキャンセリングが直接書き換えたのは。」
「Noiseによって改変された事象が中心です。」
「ですから。」
「彼女が生存していた可能性までは。」
「完全には失われなかったのでしょう。」
「つまり。」
「Noiseキャンセリング消去の際に。」
「世界の状態が、そこまで巻き戻らなかった。」
「……。」
「……。」
「……。」
「それにしたってんんんんん!?」
「何の話をしてるの、ミソラちゃーん?」
グイグイ。
「おねぇ様ばかりズルいですわー!」
グイグイ。
「ちょっ!」
左右から雲雀とピスケに挟まれる。
「待って待って!」
「なんで二人とも私に抱きつくの!?」
「ミソラちゃん可愛いから!」
「ミソラさんは可愛いですもの。」
「理由になってないよぉぉぉ!」
その様子を。
少し離れたところから。
堂道が静かに見守っていた。
「……。」
そして。
何かを思い出したように。
「それでは。」
「僭越ながら、私からも補足を。」
「堂道さん!?」
堂道はいつもの燕尾服姿のまま。
淡々と説明を始める。
「かつてNoiseによって引き起こされた交通事故により。」
「意識不明の重体となった雲雀様ですが。」
「その後。」
「ピスケ様が生み出された後に。」
「意識を取り戻されたのです。」
「…………。」
全員が固まる。
「つまり。」
ミソラが恐る恐る尋ねる。
「ピスケちゃんが作られた後も。」
「雲雀ちゃん本人は生きてたってこと?」
「はい。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「堂道さんが締めるんかーーーい!!」
ミソラのツッコミが。
楽屋中へ響き渡った。
「いや、待って!」
「じゃあピスケちゃんって何だったの!?」
「それは。」
ステラが淡々と答える。
「世界のバグです。」
「雑ぅぅぅぅぅ!!」
「でも。」
雲雀が笑う。
「ピスケちゃんはピスケちゃんでしょ?」
「……!」
ピスケが目を見開く。
「私はお姉ちゃん。」
「ピスケちゃんはピスケちゃん。」
「それでいいじゃん。」
「……。」
ピスケは。
ほんの少しだけ。
笑った。
「……ええ。」
「そうですわね。」
「わたくしは。」
「わたくしですもの。」
「よし!」
雲雀がミソラへ振り返る。
「じゃあ改めて!」
「ご褒美のチュー!」
「なんでそうなるのぉぉぉぉ!?」
「おねぇ様ぁぁぁ!」
「ミソラさんは渡しませんわよーーー!!」
「ちょっとぉぉぉぉ!!」
楽屋に。
三人の声が響き渡る。
その様子を見ながら。
ミスティとリーチェは。
「……。」
「……。」
「楽しそうだな。」
「そうだなー。」
ほんの少しだけ笑った。
こうして。
長かった一日は。
最後まで。
騒がしく。
そして。
いつも通りに終わった。
◇ ◇ ◇
ピピピピピ。
ピピピピピ。
静かな病室に。
規則正しい電子音が響いている。
窓の外では。
小鳥の囀りが、朝の街へ溶けていた。
病室の入口。
その名札には。
――「阿部野」
そう記されている。
「真理さーん。」
「今日もお食事の時間ですよー。」
看護師が声を掛ける。
「……。」
返事はない。
ベッドの上。
一人の少女が、ただ静かに横たわっていた。
虚ろな瞳。
力の入らない身体。
あの日。
心を壊され。
全てを奪われた少女は。
まるで抜け殻のようになっていた。
「失礼しますね。」
看護師が点滴を確認する。
その時だった。
病室のテレビから。
聞き覚えのある歌声が流れ始めた。
「……あっ。」
看護師がテレビへ振り返る。
「これ、この前のLiveの映像ね。」
「ミソラシュピーレンだっけ?」
「凄かったみたいねー。」
画面の中。
ステージの中央で。
一人の少女が歌っている。
金色の心奏力。
笑顔。
仲間たちと重なる音。
そして。
「――――。」
ベッドの上。
少女の指が。
ピクリ。
ほんの僅かに動いた。
「……。」
看護師は気付かない。
テレビの歌声だけが。
病室へ流れ続けている。
「ミソラ……ちゃん?」
か細い声。
「……え?」
看護師が振り返る。
少女は。
ゆっくりと身体を起こしていた。
「真理さん……?」
震える腕で。
ベッドの柵を掴む。
そして。
テレビへ顔を向ける。
「……ミソラちゃん。」
その瞳に。
ほんの僅かに。
光が戻っていた。
「せんせいーーー!」
「阿部野さんが!」
「阿部野さんがぁーーー!!」
看護師が慌てて病室を飛び出していく。
しかし。
少女は。
もうテレビから目を逸らさなかった。
「……行かなくちゃ。」
小さな声。
けれど。
今までとは違う。
そこには。
確かな意志があった。
「ミソラちゃんに。」
「会いに行かなくちゃ……。」
少女の瞳に。
かつての光が。
少しずつ戻っていた。




