第13話 月と星空 おしまい
「ほら!ルナもいっしょに行くよ!」
「えっ?」
「ルナが居なきゃ私歌えないじゃない!」
くすりとルナが笑った。
体を丸め、ミソラの肩にピョンと飛び乗る。
「ほんと、世話が焼けるなぁ」
◇ ◇ ◇
超特急で。
仕度を済ませる。
「髪!」
「よし!」
「衣装!」
「よし!」
「魔奏器!」
「よし!」
「心の準備!」
「……。」
「無理ぃぃぃぃ!!」
「ミソラさん!」
「落ち着いてくださいませ!」
「だってぇ!」
「こんな大勢の前で歌うなんて初めてだしさ!」
「そういう時は。」
ミスティが真顔で言う。
「手のひらに『人』と三回書いて。」
「ぎゅっと握り締めた後。」
「顔面に叩き込むんだ。」
「色々違うよね!?」
「全然違いますわね。」
リーチェが笑う。
「あははっ!」
「味噌ラー。」
「誰!?」
「ミソラだよ!」
「緊張、少しは解れたか?」
「……。」
ミソラは。
四人を見つめる。
「うん。」
少しだけ。
笑った。
「ありがとう。」
そして。
Live会場へ。
扉が開く。
――――。
「「「「ミソラーーーーッ!!」」」」
割れんばかりの歓声。
会場から溢れんばかりの人の波。
無数のペンライト。
その全てが。
ステージへ立つ四人を見つめている。
「うのっ……と〜あーわぁー……のぉー〜。」
「ミソラさん!」
「緊張しすぎですわ!」
「仕方ないじゃん!」
「こんな大勢の前で歌うなんて初めてだしさ!」
「ほら。」
リーチェが。
ミソラの背中を軽く叩く。
「いつも通りでいい。」
「……。」
ミスティも。
静かに頷く。
「私たちがいる。」
「ピスケちゃんも。」
「ルナも。」
「……うん。」
ミソラは。
大きく息を吸う。
そして。
「皆ーーー!!」
リーチェが観客を煽る。
「今日は来てくれてありがとうーーー!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」
「こっちはこっちで手慣れたMC始めてるし!」
「わ、わたくしもボケないと!」
「ピスケちゃんはそのままで居て!」
「あははっ!」
会場からも笑い声が起こる。
その瞬間。
ミソラは気付いた。
さっきまで。
あれほど怖かった。
何万人もの視線。
巨大なステージ。
自分の声を待っている。
世界中の人たち。
でも。
「……。」
もう。
怖くなかった。
だって。
皆がいる。
ピスケがいる。
ミスティがいる。
リーチェがいる。
ルナがいる。
そして。
今。
この場所には。
歌を聴きたいと思ってくれている人たちがいる。
「よーし!」
ミソラは。
笑う。
「それじゃあ!」
「早速、一曲目!」
「行ってみようかーーー!!」
「えっ!?」
「もう!?」
「こういうのは。」
ピスケが。
スティックを構える。
「とっとと始めた方が。」
「肝が据わりますわ。」
「急に格言みたいになった!?」
――ドンッ!
ドラムが鳴る。
「一曲目はもちろん――!」
リーチェが鍵盤へ指を置く。
ミスティがジェミニを構える。
ミソラは。
マイクを握り締める。
そして。
会場中から。
割れんばかりのコールが響いた。
「「「「「「exciting&Emotional!!!!」」」」」」
イントロ。
十年間。
歌い続けてきた曲。
幼い頃から。
何度も。
何度も。
繰り返してきた。
夢の歌。
その音が。
今。
現実のステージで鳴り始める。
――眩しい。
無数のスポットライトが。
一人の少女を照らしていた。
「ミソラーーーッ!!」
「世界一ぃぃぃぃーーー!!!」
地鳴りのような歓声が。
夜空を震わせる。
見渡す限りの観客席。
色とりどりのペンライトが。
波のように揺れている。
その全てが。
ステージ中央へ向けられていた。
桃色のフリルを基調としたライブ衣装。
長い髪飾りが照明を受けてきらめく。
スカートの裾が。
ふわりと舞う。
その隣には。
黄金のドラムセットへ腰掛けるピスケ。
青き光を纏い。
ギターを構えるミスティ。
翠の鍵盤へ。
静かに指を添えるリーチェ。
四人は。
一度だけ顔を見合わせた。
そして。
笑った。
「みんなー!」
ミソラは。
マイクを高く掲げる。
「盛り上がっていくよーーーーーっ!!」
――――!!
歓声。
光。
音。
歌。
全部が一つになる。
ミソラは。
笑っていた。
幼い頃。
まだ何も知らなかった少女が。
ずっと夢見ていた景色。
歌で。
誰かを笑顔にする。
歌で。
誰かを救う。
世界中のみんなが。
笑ってくれる。
銀色の髪の少女が。
こちらに微笑む。
「世界一の魔奏少女になる。」
それが。
識戸ミソラの夢だった。
大きく息を吸う。
イントロが終わる。
そして。
歌い出す。
かつて。
夢を見ていた少女は。
もう。
ここにはいない。
そこにいるのは。
長い道のりを歩き。
失って。
泣いて。
迷って。
それでも。
自分のワガママを貫き通した少女。
仲間と出会い。
友達と笑い。
何度も立ち上がった。
そして。
今。
夢を叶えた者だけが魅せる。
最高の笑顔が。
ステージいっぱいに咲いていた。
――――。
終わらない歌が。
始まる。
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