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第13話 月と星空 その5

 地下深く。


 崩壊した施設の最奥。


 巨大なスーパーコンピューターが鎮座する。


 ミソラとステラ。


 そして。


 その二人の前に立ちはだかるルナ。


「……。」


 ルナの身体から。


 世界中から集められた心奏力が、絶え間なく溢れ出している。


 金色。


 青。


 赤。


 緑。


 紫。


 数え切れない色が混ざり合い。


 巨大な光の渦となって、地下空間そのものを震わせていた。


「ミソラ。」


 ルナが静かに呼ぶ。


「最後にもう一度だけ聞くよ。」


「……。」


「本当に。」


「この世界を壊してでも、みんなに会いたい?」


 ミソラは。


 胸元のチップを握り締める。


「違う。」


「……?」


「世界を壊したいんじゃない。」


 一歩。


 前へ出る。


「世界を元に戻したい。」


「みんなが。」


「ちゃんと笑ってる世界に。」


「だから。」


「私は行くよ。」


「……そう。」


 ルナは目を伏せる。


「なら。」


 その身体を包む光が。


 一気に膨れ上がった。


「やっぱり。」


「止めるしかないね。」


「来ますよ!」


 ステラが叫ぶ。


 次の瞬間。


 ――ドォォォォォン!!


 巨大な心奏力の奔流が。


 地下施設を埋め尽くした。


「きゃあああっ!!」


 ミソラが吹き飛ばされる。


 床を何度も転がり。


 瓦礫へ叩きつけられる。


「ミソラ!」


 ステラが腕を伸ばす。


 だが。


 その前へ。


 光の壁が立ち塞がった。


「……っ。」


 ステラは舌打ちする。


「この出力。」


「解析不能です。」


「世界中の心奏力を、一つへ束ねている……。」


「だったら!」


 ミソラが立ち上がる。


「私も!」


 心奏力を解放する。


 桃色の光が。


 ミソラの身体から噴き上がった。


 だが。


 ルナの光と比べれば。


 あまりにも小さい。


「……。」


 ミソラ自身も。


 それを理解していた。


「やっぱり。」


「私一人じゃ……。」


 ルナが悲しそうに笑う。


「そうだよ。」


「君の力だけじゃ。」


「ボクには届かない。」


 その瞬間。


「なら。」


 ステラが。


 ミソラの隣へ立った。


「二人ならどうでしょう。」


「……ステラ?」


「私は。」


「貴女の心奏力を使える。」


「そして。」


 ステラの周囲に。


 無数の光が浮かび上がる。


「貴女の楽曲も生成できる。」


「……!」


「ステラ…Live出来るの!?」


「愚問ですね。」


「貴女たち魔奏少女の歌う楽曲は。」


「誰が用意していると思っているんですか。」


「えっ?」


「いつも頭の中に浮かんでくるでしょう。」


「あれって……。」


「私のプログラムの一部。」


「楽曲生成機能で作っています。」


「じゃあ……。」


 ステラは。


 一つの楽譜を空中へ表示した。


【未知なる明日へ】


「ここは。」


「これが相応しいでしょう。」


「……。」


 ミソラは。


 その楽譜を見つめる。


 それは。


 あの日。


 朝日が昇るまで皆で歌った曲。


 失ったものを抱えながら。


 それでも前へ進むための歌。


「……分かった。」


 ミソラが笑う。


「歌う。」


 ステラが微笑む。


「では。」


「私が演奏します。」


 光が弾ける。


 ステラの周囲に。


 ギター。


 ベース。


 ドラム。


 キーボード。


 そして。


 様々な音色が次々と形を成していく。


 ステラが一度だけ、ルナを見る。


「……。」


「ボクが言うのもなんだけど。」


「押し付けすぎじゃないかなぁ?」


「黙ってください。」


「ですよねぇ。」


 ミソラは。


 小さく笑った。


 そして。


 息を吸う。


 肺いっぱいに。


 心いっぱいに。


「行くよ。」


「未知なる明日へ。」


 ――――。


 最初の一音。


 静かなピアノ。


 地下施設へ。


 澄んだ音が響く。


 それに。


 ギターが重なる。


 ベースが支える。


 ドラムが鼓動を刻む。


 ステラが。


 完璧な演奏を組み上げていく。


 ミソラが。


 歌い始める。


『失ったものばかり』


 桃色の心奏力が。


 小さく揺れる。


『数えてしまう悲しみも』


 ルナの光が。


 それを押し潰すように迫る。


『前に進むと決めたなら』


 ミソラは。


 真正面からルナを見る。


『かけがえない強さになる』


 桃色の光が。


 一段階。


 強くなる。


「……。」


 ルナの表情が曇る。


『導かれた運命など 脆弱な刃で切り裂いて』


 ステラのギターが。


 巨大な心奏力の壁を切り裂く。


『もう迷わない もう挫けない』


 ベースが支える。


『真実を求めてる 心見つめて!』


 ミソラの歌声が。


 地下空間を震わせた。


「っ……!」


 ルナの光が。


 一瞬だけ後退する。


「ステラ……。」


「ええ。」


「効いてる。」


 それでも。


 ルナは笑った。


「でも。」


「まだ足りない。」


 ――ドォォォン!!


 世界中から集められた心奏力が。


 一気に膨れ上がる。


「きゃあっ!」


 ミソラが再び押し戻される。


 ステラの演奏も。


 次々と光に呑み込まれていく。


「全力で中和してもこれほどとは…」


「ミソラ!」


「まだ!」


 ミソラは。


 足を踏ん張る。


『壊れそうな世界に1人きりでも』


 歌う。


『繋いだ絆を忘れない』


 ステラの演奏が。


 再び立ち上がる。


『ピリオドの向こうに突き抜けながら』


 ギターが。


 光の壁を撃ち抜く。


『まっ更な地図に描いてく』


 ベースが。


 道を作る。


『未知なる明日を!』


 ミソラの歌声が。


 桃色の奔流となって駆け抜けた。


「……!」


 ルナの身体が。


 初めて大きく揺らぐ。


「ミソラ。」


「どうして……。」


「ボクより。」


「ずっと小さな力なのに。」


「どうして。」


 ミソラは。


 息を切らしながら笑う。


「私。」


「一人じゃないから。」


「……。」


 ステラも。


 静かに頷く。


「私もいます。」


「……。」


「でも。」


 ルナが。


 静かに首を振る。


「それでも。」


「ボクには。」


「世界全部がいる。」


 光が。


 再び膨れ上がる。


「……!」


 ミソラは。


 一瞬。


 押し潰されそうになる。


 歌声が途切れかける。


「……くっ。」


 ステラが叫ぶ。


「ミソラ!」


「続けて!」


「……うん!」


 ミソラは。


 もう一度。


 歌う。


『壊れそうな夢のカケラ集めて』


 胸の奥。


 ピスケ。


 ミスティ。


 リーチェ。


 チカ。


 真理。


 そして。


 まだ会えていない。


 あの世界で生きている。


 たくさんの人たち。


 その一人一人を。


 思い浮かべる。


『新たな未来を紡いでく』


 桃色の光が。


 少しずつ。


 大きくなる。


『拓いた道に導など無くても』


 ステラの演奏が。


 さらに激しくなる。


『真っ直ぐに突き進んでいく』


 ミソラは。


 一歩。


 前へ。


「……。」


 ルナが。


 目を見開く。


『あなたと共に!』


 光が。


 ルナへ届く。


 ――ドンッ!!


「……っ!」


 ルナの身体が。


 初めて後ろへ下がった。


「届いた……!」


 ミソラが叫ぶ。


「まだ。」


 ステラが。


 静かに言う。


「ここからです。」


「うん!」


 曲は。


 最終盤へ入る。


『壊れそうな世界に2人きりなら』


 ステラとミソラ。


 二人の心奏力が。


 一つの光になる。


『どんな深い闇も怖くない』


 ルナの巨大な光を。


 真正面から押し返す。


『光り輝く星を目指して』


 ステラの光が。


 星のように。


 無数に瞬く。


『真っ直ぐに駆け抜けてく』


 その光の中心を。


 ミソラが走る。


 ルナへ向かって。


『未知なる明日へ!』


 ――――!!


 激突。


 桃色と。


 世界中の心奏力が。


 真正面からぶつかる。


 地下施設が。


 悲鳴を上げる。


「ミソラ!」


「押し返せぇぇぇぇっ!!」


 ステラの声。


 だが。


 ルナの光は。


 まだ強い。


「……!」


 ミソラの身体が。


 少しずつ。


 押し戻される。


「無理……。」


「私の力じゃ……。」


 ルナが。


 優しく笑う。


「そうだよ。」


「だから。」


「もう諦めよう。」


「みんなに会いたいなら。」


「この世界で。」


「また新しく作ればいい。」


「……。」


 ミソラの瞳が揺れる。


 それは。


 きっと。


 優しい提案だった。


 でも。


「嫌。」


「……。」


「私は。」


「新しく作られた世界で。」


「みんなに会いたいんじゃない。」


 ミソラは。


 拳を握る。


「今まで。」


「一緒に笑ったみんなに。」


「会いたい。」


「……。」


「ピスケちゃんに。」


「ミスティちゃんに。」


「リーチェちゃんに。」


「チカちゃんに。」


「真理ちゃんに。」


「それから。」


「まだ出会ってない。」


「これから出会う人たちにも。」


「ちゃんと会いたい。」


「その全部を。」


「私は諦めたくない!」


 金色の光が。


 爆発する。


「なっ……!」


 ステラが目を見開く。


 ミソラの心奏力が。


 これまでとは比べものにならないほど膨れ上がった。


「これは……。」


「増幅してる?」


 違う。


 誰かから力を受け取ったわけではない。


 ただ。


 ミソラ自身の中にあった力が。


 溢れ出している。


「私。」


「ずっと。」


「世界一の魔奏少女になりたかった。」


「……。」


「誰よりも強くなって。」


「誰よりも凄い歌を歌って。」


「みんなに認めてもらいたかった。」


「それが。」


「私の夢だった。」


 ルナが。


 静かに見つめる。


「でも。」


「今は違う。」


「……。」


「世界一じゃなくてもいい。」


「一番じゃなくてもいい。」


「私は。」


「私の大切な人たちが笑ってる世界が欲しい!」


 金色の心奏力が。


 さらに膨れ上がる。


「だから!」


「私は。」


「私のワガママを通す!」


 ミソラは。


 一歩。


 また一歩。


 ルナへ近づいていく。


「私は!」


「みんなに会いたい!!」


 ――――ッ!!


♪『君と共に!』


 金色の光が。


 ルナの巨大な光を。


 押し返した。


 ミソラの心奏力に押され。


 ルナを包んでいた巨大な光が。


 急速に縮んでいく。


「そんな……。」


 ルナが目を見開く。


「たった一人で……。」


 その様子を。


 ステラは静かに見つめていた。


「当然でしょう。」


「不完全とは言え。」


「世界を包むほどのNoiseキャンセリング機能を発動させたんです。」


「その力の大部分は。」


「既に使われていたのですよ。」


「……。」


 ステラは淡々と続ける。


「あなたとしたことが。」


「詰めが甘かったですね。」


「……まだだ。」


 ルナの身体から。


 再び光が噴き上がる。


「まだだ!」


「ルナ……。」


「この世界は……。」


「不荒に託されたんだ!」


 声が震える。


「ボクが。」


「守らなきゃいけないんだ!」


「……。」


 ミソラは。


 真っ直ぐルナを見る。


「その不荒が。」


「私に選んでくれって言ったんだよ?」


「……!」


 ルナの動きが止まる。


「だったら……。」


「だったらボクは。」


「今まで。」


「なんのために……。」


 その声は。


 もう。


 戦う者の声ではなかった。


 ただ。


 自分が信じてきたものを失いたくない。


 そんな子供のような声だった。


「そんなの。」


 ミソラは。


 優しく笑う。


「決まってるよ。」


 金色の心奏力が。


 ステラの演奏によって作られた道を走る。


 ギター。


 ベース。


 ドラム。


 キーボード。


 四つの音が。


 最後の道を作っていく。


 その中心を。


 ミソラは歩いた。


 一歩。


 また一歩。


 ルナへ近づいていく。


「……ミソラ。」


 ルナは。


 もう。


 逃げなかった。


 ミソラは。


 ただ。


 真正面から。


 ルナを抱き締めた。


「……!」


 小さな身体を。


 両腕で。


 ぎゅっと。


「ルナ。」


「私と出会ってくれて。」


「ありがとう。」


「……。」


「私に。」


「歌わせてくれてありがとう。」


 ルナの身体が。


 ほんの少し震える。


「貴方が居てくれたから。」


「ここまで来れた。」


「貴方が。」


「ずっと居てくれたから。」


「私は。」


「とっても幸せだった。」


「……ミソラ。」


「だから。」


 ミソラは。


 もう一度だけ。


 強く抱き締める。


「それだけで。」


「良かったんだよ。」


「……。」


 ルナは。


 ミソラの肩へ。


 小さな手を置く。


「君は……。」


「本当に。」


「……。」


 言葉が。


 続かない。


 ミソラは手を伸ばす。


「だから。」


「私は。」


 笑う。


「行くね。」


「……。」


 ルナは。


 もう止めなかった。


 ミソラが手を伸ばす。


 指先が。


 ステラのスーパーコンピューターへ届く。


「……これで。」


 握り締めていた。


 メモリーチップ。


 その先端を。


 端末のスロットへ差し込む。


 ――カチッ。


 瞬間。


 世界が。


 光に包まれた。


 ――――――――ッ!!


 スーパーコンピューターの全画面が。


 一斉に白く染まる。


『製作者認証コードを確認。』


『これより。』


『Noiseキャンセリング機能のデリートを開始します。』


「……。」


 ステラは。


 その表示を静かに見つめる。


「なるほど。」


「そこ以外の管理者権限領域には。」


「触れないようにしているのですか。」


「器用なことをしますね。」


 不荒から託されたコードは。


 Noiseキャンセリングだけを。


 正確に削除していく。


 世界そのものへ干渉していた。


 世界を百年前から書き換えた機能が。


 一つずつ。


 消えていく。


 ルナの周囲に残っていた光も。


 少しずつ。


 ほどけていく。


「ルナ……。」


 ミソラが。


 小さく呟く。


「ごめんね。」


「……。」


 ルナは。


 目を伏せる。


「謝るなよ……。」


「君って……。」


「本当に……。」


 ほんの少し。


 笑った。


「ワガママだなぁ……。」


「……うん。」


 ミソラも笑う。


「ワガママだよ。」


「だから。」


「行ってくる。」


「みんなのところへ。」


「……。」


 ルナは。


 小さく頷いた。


「……いってらっしゃい。」


 その瞬間。


 視界が。


 真っ白に染まった。


 音も。


 光も。


 何もかもが。


 白へ溶けていった。


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