第13話 月と星空 その2
何故 何故だろう。
初めて見るはずなのに。
そのノートから。
得体の知れない不安を感じる。
心がざわつく。
頭の中で。
逃げろという声が渦巻く。
「それでも……!」
ミソラが。
そのノートへ手を触れた。
瞬間。
「――――ッ!!」
頭の奥を。
何かが突き抜けた。
「いっ……!」
視界が真っ白になる。
次の瞬間。
洪水のような情報が。
一気に頭の中へ流れ込んできた。
魔奏少女。
Canon。
ルナ。
ピスケちゃん。
「……っ!」
笑っている。
隣にいる。
いつものように。
そして。
その笑顔が。
光の中で消えていく。
「ピスケ……ちゃん……?」
胸が締め付けられる。
息ができない。
次の記憶。
ミスティちゃん。
冷たい声。
それでも隣にいてくれた。
その背中。
遠ざかっていく。
「待って……。」
手を伸ばす。
届かない。
次の記憶。
リーチェちゃん。
笑っている。
一緒に歌っている。
そして。
消える。
「やめて……。」
頭を押さえる。
次から次へと。
思い出が押し寄せてくる。
楽しかった時間。
怒られた日。
笑った日。
一緒に戦った日。
全部。
全部。
その先にある。
別れまで。
「やだ……。」
涙が零れる。
「もう……やだ……。」
それでも記憶は止まらない。
ミソラシュピーレンってなに?
ダサいな!
「……っ。」
リーチェちゃん。
ステラ。
真理ちゃん。
そして――。
「はっ!」
「あっ、はぁ……!」
「はぁ……はぁ……!」
ミソラは胸を押さえた。
身体が震えている。
涙が止まらない。
「……やっぱ、思い出したみたいだな。」
「おじいちゃん……。」
龍玄は静かに頷く。
「これって……。」
「不完全なNoiseキャンセリングの影響だ。」
「不完全な……?」
「ルナのやつが無理やり発動させちまったせいでな。」
「色んなところが不安定なまま、世界が書き換わっちまった。」
「……。」
「おそらく。」
「そのノートが、世界を元に戻す鍵だ。」
ミソラがノートを見つめる。
龍玄は。
少しだけ目を伏せた。
「……すまなかった、ミソラ。」
「えっ?」
「それしか無かったとは言え。」
「お前の気持ちも考えずに、何もかも押し付けちまった。」
「だから。」
「ここからは、お前の好きにしろ。」
そして。
真っ直ぐにミソラを見る。
「お前は。」
「この世界を、どうしたい?」
「世界を……?」
「それよりも!」
ミソラは顔を上げる。
「説明して!」
「今、この世界はどうなってるの!?」
「……話すと長くなるから、掻い摘んで言う。」
龍玄は腕を組む。
「Noiseキャンセリングは、確かに発動した。」
「今この世界は。」
「Noiseの影響が、全て消え去ってる。」
「それに伴う悲しみも。」
「事故も。」
「全部、無かったことにされてる。」
「でも。」
「それだけだ。」
「えっ?」
「Noiseがあろうが無かろうが。」
「不幸の数が減るわけじゃねぇ。」
「どっちが良いも悪いもねぇんだよ。」
「だから。」
「この世界のことなんか、深く考えなくていいぞ。」
「お前がどうしたいかだ。」
「私は……。」
ミソラは俯く。
(このままで。)
(ホントにいいの?)
また。
あの声が聞こえた気がした。
「私は……?」
さっきまで忘れていたはずの記憶。
思い出すたびに。
胸が締め付けられる。
「ピスケちゃんに……。」
失ったものの大きさを噛みしめる。
「リーチェちゃんに……。」
「ミスティちゃんに……。」
一際大きな涙が。
瞳から零れた。
「みんなに……。」
「会いたいよ……。」
「そうか。」
龍玄は。
ただ、それだけを言った。
「なら。」
「それでいい。」
「うっ……。」
ミソラは涙を拭う。
「でも……。」
「どうやって……。」
「そのノートの最後のページを見てみろ。」
「?」
古びたページを。
一枚ずつめくっていく。
そして。
最後のページ。
「……?」
そこに。
小さなメモリーチップのようなものが。
貼り付けられていた。
「これは……?」
「そいつは。」
「俺の記憶の中にも無いもんだ。」
「だから、おそらく。」
龍玄はチップを見つめる。
「改変が起きた後に。」
「不荒が何かを残した。」
「……。」
「そいつに。」
「頼ってみようぜ。」
「古い型だが。」
「読み込める機材なら、奥に置いてある。」
「覚悟が出来たら持っていきな。」
「おじいちゃんは……?」
「……オレには。」
「そいつを使う資格はねぇよ。」
「世界をこんなにしちまったのは、オレにも責任はある。」
「それに……。」
(可愛い孫娘泣かせちまったからなんて。)
(口が裂けても言えねぇな。)
「?」
「どうしたの?」
「なんでもねぇよ。」
「ほれ。」
「行くならとっとと行く。」
「行かないなら帰れ。」
「わ、分かったよぉ。」
「行くよぉ!」
ミソラは。
メモリーチップを握りしめ、奥の部屋へと向かう。
◇ ◇ ◇
部屋の中には。
年代物のPCが一台。
電源を入れる。
――ウィィン……。
しばらく時間を置いて。
ようやく画面が立ち上がった。
「古っ……。」
ミソラは思わず呟く。
そして。
恐る恐る。
メモリーチップを差し込む。
――ピッ。
「ドライブは……。」
「これだね。」
読み込まれたデータを開く。
瞬間。
画面いっぱいに。
一人の女性が映し出された。
どこか懐かしい。
けれど。
ミソラが直接会ったことのない女性。
それなのに。
何故か。
胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。
「ああ。」
「やっぱり君が来たんだね。」
女性が。
画面の向こうから微笑む。
「貴女は……?」
「初めまして、ミソラちゃん。」
「識戸不荒って言います。」
「相模不荒の方が、聞き覚えがあるかな?」
https://51629.mitemin.net/i1274840/




