↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/75

第13話 月と星空 その1

 ◇ ◇ ◇


 ピピピピピ。


 ピピピピピ。


 ピピピピピ。


「……ん。」


 ガチャ。


 ミソラは。


 けたたましく鳴り響く目覚まし時計を止めた。


 時計を見る。


 朝のホームルームまでは、あと三十分。


 急いで行けば。


 余裕で間に合う時間だ。


「ふぁ……。」


 大きく欠伸をする。


 そして。


 いつもの朝が始まった。


 いつもの朝食。


 いつもの母親。


 いつもの家。


「いってきまーす!」


「いってらっしゃい。」


 いつもの言葉。


 いつもの通学路。


 何も変わらない。


 ――少なくとも。


 ミソラには。


 そう見えていた。


 街頭の大型モニターに。


 一組のデュオユニットが映し出されている。


『私たちの新曲、聴いてください!』


 緑髪のキーボード担当が。


 楽しそうに演奏している。


 その隣。


 銀髪のギター担当は。


 演奏しながら、どこか険しい表情を浮かべていた。


「……?」


 ミソラは。


 一瞬だけ足を止める。


 何故か。


 その二人から。


 目を離せなかった。


「……なんだろ。」


 でも。


 理由は分からない。


 歩き出す。


 その先。


 駅前のスポーツショップ。


 店頭に並んだスポーツ雑誌の一面には。


 最近プロデビューしたという。


 とある国の女子サッカー選手が大きく取り上げられていた。


『デビュー以来、驚異の連続ハットトリック!』


「すご……。」


 ミソラは思わず呟く。


 その写真の隣には。


 白髪の少女が映っていた。


 何故か。


 その少女は。


 ベースを肩に担いでいる。


「……?」


 また。


 胸の奥が。


 ほんの少しだけざわついた。


 けれど。


 その理由は分からない。


「…ラさん…」


「ミソラさん!」


ハッと我に返り目の前の少女に声をかける。


「ピスケちゃ…ん?」


「もう!またそれですの!?」


「私の名前は綾小路 雲雀」


「そんなどこの誰かも解らないような名前じゃありませんわ!」


「あっそうだった…雲雀ちゃ…雲雀さん?」


「なんでそんなに言い淀んでますの?」


「いや…だって…」


「?」https://51629.mitemin.net/i1274828/


「なんか色々デッカイねぇ!?」


「何がですの!?」


 雲雀は頬を膨らませる。


「背とか!」


「声とか!」


「あと態度とか!」


「最後のは悪口ですわよね!?」


「ご、ごめん……。」


 ミソラは苦笑する。


「それじゃ、妹の世話がありますから帰りますわねー。」


 ひらひら。


「あっ、うん……。」


 雲雀はそのまま歩き去っていく。


「……。」


 ミソラは。


 しばらくその背中を見つめていた。


「……何しに来たんだろ、あの人。」


 それから。


 ミソラは学校へ向かった。


 いつも通りの授業。


 いつも通りの昼休み。


 いつも通りの友人たちとの時間。


 何も変わらない。


 何も。


「……。」


 放課後。


 帰り支度をしていたミソラの口から。


 ふと。


「あっ。」


 声が漏れた。


「そう言えば……。」


「ミスティちゃんは……?」


「……?」


 友人たちが顔を見合わせる。


「誰それー?」


「ミソラのいつものやつでしょー。」


「あははー。」


「まだ言ってんのー?」


「……。」


 ミソラは。


 何も言えなかった。


 ◇ ◇ ◇


 夕暮れの帰り道。


 ミソラは一人で歩いていた。


 いつもの道。


 いつもの景色。


 いつもの帰り道。


 なのに。


「……。」


 胸の奥だけが。


 妙に落ち着かなかった。


 忘れちゃいけないのに。


 何かを忘れている気がする。


 思い出さなきゃいけないのに。


 思い出しちゃいけない気がする。


 時々。


 記憶に霧がかかる。


 その向こうで。


 誰かと笑っていた気がする。


 誰かと歌っていた気がする。


 誰かの手を。


 強く握っていた気がする。


 でも。


 誰だったのか。


 何を歌っていたのか。


 どうしても思い出せない。


「……。」


 ミソラは空を見上げる。


 夕焼けが。


 ゆっくりと夜へ変わっていく。


「……明日も、頑張ろう。」


 そう呟いた。


 ーあなたは……


「……?」


 ふと。


 声が聞こえた気がした。


 ミソラは足を止める。


「……誰?」


 振り返る。


 誰もいない。


 静かな道路。


 遠くを走る車。


 風に揺れる街路樹。


 それだけ。


「……気のせいかな。」


 前へ向き直る。


 その瞬間。


 ーーあなたは。


 ーーそれで良いの?


「……!」


 不意に。


 誰かに後ろから抱きしめられたような感覚がした。


「えっ……。」


 温かい。


 懐かしい。


 けれど。


 どうして懐かしいのか分からない。


 視界の端。


 風に揺れる。


 白いワンピースの裾。


「……!」


 ミソラは勢いよく振り返った。


 けれど。


 誰もいない。


 ただ。


 夕暮れの風だけが。


 静かに吹き抜けていた。


「……。」


 ミソラは。


 しばらくその場に立ち尽くす。


 そして。


 ゆっくりと。


 鞄へ手を伸ばした。


「……行かなきゃ。」


 何故そう思ったのか。


 自分でも分からない。


 ただ。


 このままでは。


 何か大切なものを。


 本当に忘れてしまう気がした。


 ミソラは鞄の中から。


 小型の収納機を取り出す。


「よいしょっと。」


 収納機が淡く光る。


 その中から現れたのは。


 少し古い型のエアロバイク。


 空気圧を利用して僅かに宙へ浮き上がり。


 そのまま走行を可能にする。


 風圧式キックスクーター。


「久しぶりに乗るなぁ。」


 ミソラは愛機へ足を乗せる。


 そして。


 地面を。


 強く蹴った。


 ――ブォンッ!!


 風圧が弾ける。


 車体が浮き上がる。


「行くよ!」


 夕暮れの街を。


 ミソラは駆け抜けていく。


 向かう先は。


 ――識戸龍玄の家。


 ◇ ◇ ◇


「おじいちゃん!」


「おお。」


「ミソラか。」


 扉を開けた龍玄は。


 まるで来ることを知っていたかのように笑った。


「そろそろ来る頃だと思ってたぜ。」


「おじいちゃん!」


「私……。」


「皆まで言うな。」


「……え?」


 龍玄は。


 ゴソゴソと棚の奥を探る。


「お前が欲しがっていたのは。」


「多分、こいつだろ。」


 そう言って。


 龍玄が取り出したのは。


 一冊の古びたノートだった。


 表紙には。


 長い年月を経た文字で。


 こう記されていた。


 ――相模不荒・記録ノート。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。