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第12話 明日へ その5

 ――――時は戻り、現在。


「ミソラちゃん……。」


 アノマリーが。


 静かに口を開いた。


「本当に、ごめんなさい。」


「……え?」


「あなたも……。」


「あなたの友達も。」


「たくさん傷付けた。」


 少女の声が。


 少しだけ震える。


「謝っても。」


「許されないことをした。」


「それでも。」


「伝えたかったの。」


「あなたのことを。」


「大切に思ってるって。」


 その瞬間。


 アノマリーの姿に。


 小さな乱れが生じた。


 赤いワンピース。


 白い髪。


 その輪郭が。


 ノイズのように揺らぐ。


「……。」


 そして。


 そこに立っていたのは。


「真理……ちゃん。」


 阿部野真理だった。


 ミソラは。


 ただ。


 その姿を見つめていた。


「こんな私だけど……。」


 真理が。


 小さく笑う。


「あなたのそばに。」


「居ちゃダメかな……?」


「……。」


 ミソラは。


 少しだけ目を伏せる。


 そして。


 ゆっくりと。


 真理を見る。


「もし……。」


「またあなたが。」


「誰かを傷つけるようなことがあれば。」


 ミソラは。


 涙を拭う。


「その時は。」


「全力で止めるよ。」


「……!」


「だから。」


「それまでは。」


 ミソラが手を差し出す。


「一緒に歌おう。」


「真理ちゃん。」


「……。」


 真理の顔が。


 ぱぁぁぁ、と明るくなる。


「うん!」


「うん……!」


 二人が。


 並んで立つ。


 そして。


 歌い始めた。


♪たとえ世界が書き換わっても

♪この鼓動だけは忘れないから


 その瞬間。


 世界中へ。


 金色の光が広がった。


 心奏力。


 それだけではない。


 ミソラと真理。


 二人の心が重なったことで生まれた。


 新たな旋律。


 ――Noiseキャンセリング。


 光が。


 羽波市を越えて。


 世界中へ広がっていく。


♪刻んだ傷も 紡いだ音色も

♪全部抱きしめて


 崩れた建物が。


 壊れた道路が。


 失われた街並みが。


 次々と光に包まれていく。


 そして。


♪次のステージへ!


「……!」


 その光景を。


 ステラは呆然と見つめていた。


「アノマリー……。」


「……あの失敗作が……!!」


 その瞬間。


 真理の身体に。


 ――ビシッ。


 小さな亀裂が走った。


「……え?」


 ――ビシビシビシッ!!


 亀裂が。


 瞬く間に全身へ広がっていく。


「真理ちゃん!?」


「……あはは。」


 真理は。


 少し困ったように笑う。


「ステラ。」


「逃げられないみたい。」


「そんな……!」


「ミソラちゃん。」


 真理が。


 もう一度。


 ミソラを見る。


「少しだけだったけど。」


「楽しかったよ。」


「……。」


「だから。」


「……負けないでね。」


 そして。


 最後に。


 笑った。


「私の……とも――」


 言葉は。


 最後まで届かなかった。


 ――パァンッ!!


 真理の身体が。


 無数の光の粒となって。


 四散する。


「……。」


 ミソラは。


 ただ。


 その光を見つめていた。


 握り締めた拳が。


 小さく震える。


「……。」


 そして。


 顔を上げる。


♪前を向いて 涙を拭いて

♪私 一人じゃないよ!!!


 震えていた歌声が。


 再び。


 力強く響き渡った。


 金色の心奏力が。


 世界を包み込んでいく。


 ミソラは。


 涙を流しながら。


 それでも。


 歌い続けた。


 ――次のステージへ。


 ♪exciting&Emotional!


 ♪心弾むリズムを!


 ミソラシュピーレンの歌は、まだ終わらない。


 アノマリーが消えた今も。


 Noiseキャンセリングの光は、世界中へ広がり続けていた。


 傷付いた人々を。


 壊れた街を。


 そして。


 長い間、Noiseに苦しめられてきた世界そのものを。


 優しく包み込んでいく。


 ♪届けてあげるよ 勇気は無限大!


 その歌声に。


 遠くから。


 声が重なった。


「ミソラ!」


「ミソラ!」


「……ミソラさん?」


「ミソラちゃん!」


「識戸さん!」


 世界中から。


 ミソラを呼ぶ声が届く。


「……!」


 ミソラは目を見開く。


 聞こえる。


 たくさんの声が。


 たくさんの想いが。


 歌声へ重なってくる。


 ♪exciting&Sensational!


 ♪見たこともない奇跡起こすよー!


 ♪私 夢が叶うまでぇぇぇ!!


 その瞬間。


 世界中で。


 途切れていた通信が、少しずつ復旧し始めた。


 スマートフォン。


 テレビ。


 ラジオ。


 ネットワーク。


 あらゆる画面へ、次々と光が戻っていく。


「通信が……!」


 田辺倉がモニターへ飛びつく。


「戻ってきてる!」


「世界中からアクセスが来てるぞ!」


 画面に。


 無数の接続が表示されていく。


「このアクセスを通して……。」


「心奏力が流れ込んでいる!」


 ミソラの身体を包む光が、さらに強くなる。


「ミソラ殿!」


「世界中の人々が!」


「貴女の歌を聴いている!」


 ♪exciting&Emotional!


 ♪心震わすメロディ!


 ♪響かせあうなら 強さは無限大!


 世界中から届く。


 声。


 祈り。


 願い。


 笑顔。


 その全てが。


 ミソラの歌へ重なっていく。


「ミソラ。」


 静かな声。


 識戸龍玄だった。


「お前の歌は。」


 その顔に。


 初めて、穏やかな笑みが浮かんでいた。


 ♪exciting&センセーショナル!


 ♪誰も見たことない景色見よう!


「世界中の人を。」


「笑顔に出来たんだな。」


「……!」


 ミソラの瞳から。


 一粒だけ涙が落ちる。


 けれど。


 今度は泣かなかった。


 笑った。


 ♪私 夢を飛び越えて! 絶対負けない!


 その歌声と共に。


 世界中へ広がっていたNoise Shift Hが。


 少しずつ。


 消えていく。


 一つ。


 また一つ。


 世界中の画面から。


 黒いノイズが消えていく。


 やがて。


 最後の一つが。


 静かに消えた。


 ――――。


 一瞬。


 世界が静寂に包まれる。


 そして。


 次の瞬間。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 世界中から。


 歓声が上がった。


 泣きながら笑う人。


 抱き合う人。


 空を見上げる人。


 画面越しに拳を突き上げる人。


 誰もが。


 同じ歌を聴いていた。


 同じ光を見ていた。


 そして。


 ミソラは。


 その全てを。


 笑顔で受け止めていた。


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