第12話 明日へ その3
「えー、田辺倉鈴人chをご覧の皆様。」
羽波市。
異常な静寂に包まれた街の中で、一人の男がカメラを回していた。
「今、緊急で動画を回しております。」
背後では。
無数のShift Hが空を舞っている。
「私は現在、新型Noiseの発生源と思わしき場所。」
「羽波市へと来ております。」
カメラを向ける。
その先には。
魔奏器を構えた四人の少女。
「そして。」
「その中心で、これからLiveを始めようとしている魔奏少女たちを発見いたしました。」
電子機器は軒並み機能を停止している。
街頭モニターも。
駅の電光掲示板も。
人々のスマートフォンも。
「電子機器が異常を起こし、今この映像を見られない方々も多いでしょう。」
「ですが。」
田辺倉はカメラを少女たちへ向ける。
「この世界にはまだ。」
「戦い続けている少女達が居る。」
「そのご様子を。」
「余すことなく伝え続けていく所存です。」
――カチッ。
録画ランプが点灯する。
その映像は。
電子機器を支配するShift Hの影響を受けることなく。
世界へ向けて発信され続けていた。
◇
その頃。
『……。』
無数の電子機器を通して状況を把握していたステラは。
ほんの一瞬。
処理を停止した。
『……何故?』
田辺倉鈴人のカメラ。
通信。
配信。
すべてが正常に稼働している。
『電子妨害が……効いていない?』
そして。
初めて。
ステラの演算に。
理解不能という文字が浮かんだ。
『……こわ。』
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――羽波市。
夜は、まだ明けない。
街中を埋め尽くすNoise。
その中心で。
ミソラたちは歌い続けていた。
「はぁっ……はぁっ……。」
「倒しても……倒しても湧いてくる……。」
息を切らしながら、それでも歌を止めない。
その戦いを。
世界中の人々が見つめていた。
そして。
世界各地の魔奏少女たちも。
◇ ◇ ◇
――フランス。
「かぁー!!!」
「なんなんだよこいつらぁ!」
ブレェネリがレオを掻き鳴らす。
吹き飛ばしたNoiseが消える。
だが。
「また来たぁぁぁ!!」
「ブレちゃん、後ろ!」
「分かってる!」
アイネのベースが重なり、二人の心奏力がNoiseを吹き飛ばす。
「アイネェ!そっちはどうだ!」
「う、うんなんとか防げてる。」
「心奏力も戻ってきたし、まだやれるよ。」
「そっか…良かったな!」
「よっしゃ!」
ブレェネリが笑う。
「ミソラたちも頑張ってんだ!」
「だったらオレらも負けてられねぇ!」
画面の向こう。
♪【憧れさえ捨ててまで 守りたいものはなんだい】
リーチェの姿を見つめる。
「……リーダー。」
アイネが小さく呟いた。
◇ ◇ ◇
――ロシア。
紫髪の少女。
ペトルーシュカがサックスを吹き鳴らす。
押し寄せるNoiseを、一体ずつ確実に消し去っていく。
「ミソラ・シュピーレン……。」
映像に映る少女を見つめる。
「随分と……強くなったな。」
♪【与えられた安寧など 穢れた夜空に打ち上げて】
そして。
ほんの少しだけ口元を緩める。
「負けるなよ。」
◇ ◇ ◇
――アメリカ。
「ミソラちゃーーーん!」
「喜歌! 前を見ろ!」
「だってぇ!」
喜歌は演奏しながら画面を見る。
(あんなに頑張ってる……。)
♪【壊れそうな夢の欠片集めて 新たな未来を紡いでく】
胸の奥が熱くなる。
「よーし!」
「私も頑張るよ!」
「その意気だ。」
サダメが静かに笑った。
◇ ◇ ◇
――日本。
そして。
世界中の様々な場所で。
魔奏少女たちが。
人々が。
ミソラたちの姿を見つめていた。
田辺倉鈴人の配信。
そこには。
たった一つの映像だけが映っている。
♪【未知なる明日へーーーー!!!!】
羽波市。
戦い続ける四人の少女。
「……。」
田辺倉はカメラ越しに、その姿を見つめる。
「頑張れよ。」
「カメラはこのまま回し続ける。」
「世界中に届けるぞ。」
カメラの向こう。
四人の少女が歌っている。
その歌声は。
Noiseによって途切れることなく。
世界へ届き続けていた。
◇ ◇ ◇
――羽波市。
「はぁっ……。」
ミソラは膝に手をつく。
「まだ……。」
「まだ終わらない……。」
街を埋め尽くすNoise。
どれだけ倒しても。
次から次へと現れる。
「ミソラさん。」
ピスケが隣へ並ぶ。
「大丈夫ですわ。」
「私たちがいますもの。」
「うん……。」
ミスティもジェミニを構える。
「まだ動ける。」
「私もだ。」
リーチェが笑う。
「だったら。」
「まだ歌えるな。」
「……!」
ミソラは三人を見る。
そして。
小さく笑った。
「うん!」
再び歌声が響く。
金色。
黄金。
深緑。
二重螺旋。
四つの心奏力が、夜の街を照らした。
◇ ◇ ◇
時間だけが過ぎていく。
一時間。
二時間。
三時間。
それでも。
四人は歌い続けた。
倒して。
歌って。
走って。
また倒して。
世界中から届く声援が。
少しずつ四人の心へ積み重なっていく。
「頑張れ!」
「負けないで!」
「ミソラちゃん!」
「あの時のおねぇちゃん!」
「魔奏少女!」
その声は。
直接届いているわけではない。
それでも。
確かに。
心奏力となって伝わっていた。
ルナが驚いたように呟く。
「……すごい。」
「世界中の人たちの想いが。」
「少しずつ、こっちに集まってる。」
「これが……。」
ミソラは空を見上げる。
「みんなの応援……。」
胸の奥が熱くなる。
「だったら。」
「もっと歌わなきゃ。」
歌声がさらに強くなる。
◇ ◇ ◇
――そして。
東の空。
ほんの少しだけ。
暗闇が薄くなった。
「……あれ?」
ピスケが空を見る。
「ミソラさん。」
「朝ですわ。」
「え……。」
ミソラも振り返る。
夜空の向こう。
薄い光が滲み始めている。
「……朝。」
長い夜が。
終わろうとしていた。
しかし。
Noiseは。
まだ消えていない。
街には。
まだ黒い影が残っている。
「……。」
ミソラは。
その光を見つめる。
そして。
笑った。
「そっか。」
「今日なんだ。」
「今日……。」
ピスケが首を傾げる。
「何がですの?」
ミソラは三人を振り返る。
「私たちの。」
「初ライブ。」
「……。」
三人が顔を見合わせる。
「この状況で?」
ミスティが呟く。
「会場も。」
「もう無いぞ。」
「衣装もボロボロですわね。」
「機材も大変なことになってるなー。」
「みんな自由すぎない!?」
ミソラは笑う。
「でも。」
「世界中の人が見てくれてる。」
その言葉に。
ルナがふわりと浮かび上がる。
「……うん。」
「今なら。」
「きっと。」
ミソラは。
魔奏器ルナを強く握った。
「だったら。」
「ここで始めよう。」
「私たちの。」
「初ライブを。」
朝日が。
羽波市を照らし始めていた。




