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第12話 明日へ その1

 崩壊したビル。


 大量の瓦礫が、夜の街へ降り注いでいた。


「リーチェ……?」


 ミスティは立ち尽くしていた。


「嘘だよな……?」


 返事はない。


「いつもみたいに。」


「何でもないような顔で出てくるんだよな。」


 瓦礫の山を見つめる。


 その瞬間。


 脳裏を過った。


 三年前。


 あいつとデュオを解散した時のこと。


 あの時も。


 リーチェは――。


「リーチェ……!」


「リーチェェェェェェッ!!」


 その時だった。


「――あっぶなーい!!」


「!?」


 聞き慣れた声ではない。


 だが。


 確かに。


 倒壊したビルの方向から聞こえた。


「しっ……死ぬかと思ったぁぁぁ!!」


 土煙の向こうから、一人の少女が飛び出してくる。


「……?」


 ミスティは目を細めた。


「あ、あなたは……。」


 少女は肩で息をしながら振り返る。


「あっ!」


「あなた、ミスティさんですよね!?」


「……そうだが。」


「初めまして!」


「転部千佳って言います!」


「ミソラちゃんの友達です!」


「……知っている。」


「ですよね!」


「シリウスのライブTシャツ着てた人だな。」


「覚えてたんですか!?」


「当然だ。」


「……。」


「それより。」


 ミスティの視線が千佳の肩へ向く。


「……リーチェ。」


「はい!」


 千佳が少しだけ身体をずらす。


 その肩には。


 意識を失ったリーチェが担がれていた。


「…………。」


 ミスティは言葉を失う。


「無事か?」


「た、多分……。」


「一応、生きてます!」


「よかった……。」


 ミスティの肩から。


 ほんの少しだけ力が抜ける。


「……。」


「それにしても。」


 千佳はリーチェを見下ろす。


「リーチェさん……。」


「シリウスのリーチェさん……。」


「まさか生で見られる日が来るなんて……!」


「おい。」


「はい!」


「今はそれどころじゃない。」


「す、すみません!」


 千佳は慌てて姿勢を正す。


 だが。


 数秒後。


「でもやっぱりカッコいい……。」


「聞こえているぞ。」


「すみません!」


 ミスティは深くため息を吐いた。


「……お前。」


「本当に状況を理解しているのか?」


「してます!」


「今、羽波市が大変なことになってるんですよね!」


「それで!」


「リーチェさんを助けられて!」


「しかも!」


「ミスティさんと一緒にいる!」


「……。」


「……。」


「テンションがおかしい。」


「だってシリウスですよ!?」


「今それを言うのか。」


「だってシリウスですよ!?」


「二回言うな。」


「世界トップクラスの魔奏少女ですよ!?」


「分かった。」


「しかもリーチェさん!」


「分かったと言っている。」


「サインとか――」


「後にしろ。」


「はい。」


 千佳はしょんぼりと頷いた。


 その時。


「……う。」


 リーチェが僅かに身じろぎする。


「リーチェ!」


 ミスティが駆け寄る。


「……んー。」


「……。」


「……ミスティ?」


「ああ。」


「そっかー。」


「また助けに来てくれたんだな。」


「……。」


 ミスティは一瞬、言葉を失う。


「……違う。」


「え?」


「今回は。」


 千佳を見る。


「私じゃない。」


「この子だ。」


「えっ!?」


 千佳が目を丸くする。


「お前が助けたんだろう。」


「えっと……。」


「……はい!」


「よく分からないけど!」


「助けたんです!」


「よく分からないのか……。」


 リーチェが小さく笑う。


「はい!無我夢中でした!」


「ははっ。」


「相変わらずだなぁ。」


「何が?」


「何でもない。」


 ミスティは空を見上げる。


 羽波市を覆い尽くす無数のNoise。


「……。」


 まだ終わっていない。


「リーチェ。」


「動けるか?」


「ちょっと休めばな。」


「なら。」


 ミスティはジェミニを握り直す。


「休んでいろ。」


「私が行く。」


「おいおい。」


 リーチェが笑う。


「アタシ抜きで行くつもりか?」


「……。」


「三年前と同じことする気じゃないだろうな?」


「……。」


 ミスティは振り返る。


「違う。」


「今度は。」


「置いていかない。」


 リーチェの目が僅かに見開かれる。


 そして。


「……そっか。」


「なら、安心だな。」


 ミスティは小さく頷いた。


「行ってくる。」


「おう。」


「……ミスティ。」


「何だ。」


「死ぬなよ。」


「そっちこそ。」


 二人は。


 昔とは違う言葉を交わした。


 そしてミスティは。


 再びNoiseの渦巻く街へ駆け出した。


「……。」


 千佳はその背中を見送る。


「かっこいい……。」


「おい。」


「はい?」


「私もいるぞ。」


「え?」


 リーチェが苦笑する。


「シリウスのリーチェだぞ?」


「……。」


「サインいる?」


「いります!!」


「即答かい。」ハハッ


 瓦礫の街に。


 ほんの少しだけ。


 いつもの笑い声が戻った。


◇    ◇    ◇


「リーチェちゃん…良かった…」


「ミソラさん…いつまでもここに居るわけには。」


「解ってるよ…でも!」


カツン…カツン…。


「!誰…?」


「…何のようですか、風雅。」


「あなたの入室は許可して居ません。」


「学園長…?」


「なぁに…もう茶番はおしまいにしようと思いましてね」チャキっ…


その右手には大型の拳銃が握られていた。


「学園長…何を!?」


「勝手な真似は控えなさい風雅。」


「今ここでこの2人を失うわけには」


「なにか勘違いしてるみたいだが。」


「終わるのはお前だ、ステラ。」


地下深くに大きな銃声が鳴り響く


思わず目を伏せてしまったが、再び目を開けると、


ステラのスーパーコンピューターがバチバチと音を立てて崩れ去ろうとしていた。


「えっ!?」


「風雅…貴様!」


「私はこの学園の長だ。」


「生徒を守る義務が私にはある。」


「学園長…どうして?」


「この程度であいつは消えんさ。」


「ステラのデータ因子は既にネットワークを通じて世界中にばら撒かれている。」


「ここに本体を残しておいたのはむしろ楔の意味が強い。」


「それでも、時間稼ぎくらいにはなるはずだ。」


「ステラを……裏切ったんですの?」


 ピスケの問いに。


 風雅は静かに銃を下ろした。


「裏切った?」


「……少し違うな。」


 破壊されたスーパーコンピューターを見上げる。


「私は。」


「これまでステラを倒そうとはしなかった。」


「えっ……。」


「倒す必要も。」


「倒す手段も無かっただけだ。」


 その声には、悔しさも怒りもなかった。


 ただ。


 長い年月を生きてきた人間だけが持つ、重い諦めがあった。


「ステラはあまりにも巨大だった。」


「一つのコンピューターを破壊したところで意味はない。」


「そしてNoiseが存在することで利益を得る者も多かった。」


「……。」


「私自身。」


「若い頃は魔奏少女に夢中だった。」


 ミソラが顔を上げる。


「え……?」


「憧れていた。」


「歌って戦う少女たちを。」


「人々のために戦い、世界を救う存在を。」


 風雅は苦笑する。


「だからこそ。」


「その裏側を知った時には、もう若い頃のように夢を見ることは出来なくなっていた。」


「ステラの存在も。」


「学園の利益も。」


「魔奏少女を取り巻く世界の仕組みも。」


「全部知った。」


 銃を握り直す。


「それでも。」


「私一人では何も出来なかった。」


「だから見ていた。」


「いつか。」


「本当にステラを止められる存在が生まれる日を。」


「……。」


 ミソラは息を呑む。


「そして。」


 風雅が二人を見る。


「その日が。」


「今日だった。」


「……!」


「ステラ。」


 風雅はステラのモニターへ銃口を向ける。


「お前が私の生徒に手を出した。」


『……。』


「それだけで十分だ。」


 ――ズドンッ!!


 二発目の銃声。


 ステラの映っていたモニターが完全に砕け散る。


「風雅……。」


『あなたが自分の生徒をそこまで大切にするとは。』


『意外ですね。』


「私も意外だよ。」


「だがな。」


 風雅は背を向ける。


「教師ってのは。」


「生徒を守るためにいるんだ。」


「……。」


「識戸君。」


「綾小路君。」


 二人へ振り返る。


「ここから先は。」


「君たち自身が決めろ。」


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