外伝 ミスティ〜蒼に染まるまで〜 その4
それから。
二人はデュオとして活動するようになった。
「右!」
「分かっている!」
ギターと鍵盤。
二つの音が重なる。
ミスティがNoiseを削り。
リーチェが逃げ遅れた人々を導く。
「こっちは任せろ!」
「無茶するな!」
「ミスティこそ!」
いつしか。
二人のSessionは、街では有名になっていた。
「最強の魔奏少女コンビ!」
「世界最年少のミスティ!」
「新人ながら人々を救い続けるリーチェ!」
賞賛される。
取材される。
それでも。
二人にとっては。
ただ一緒に歌うことが、少しずつ当たり前になっていた。
「なぁ、ミスティ。」
「何だ。」
「今日のLive終わったらさ。」
「一緒に飯食いに行こうぜ!」
「任務報告が先だ。」
「真面目か!」
「お前が不真面目すぎる。」
「じゃあ報告終わったら!」
「……好きにしろ。」
「よっしゃ!」
そんな日々が。
半年。
一年。
続いた。
ミスティは気付かない。
自分が。
誰かといることを、少しも嫌だと思わなくなっていたことに。
◇ ◇ ◇
ある日の任務。
大量のNoiseが街を襲った。
二人はいつものように戦う。
しかし。
「まだ人が残ってる!」
リーチェが瓦礫へ駆け寄る。
「待て!」
ミスティが叫ぶ。
「Noiseを先に倒す!」
「でも、あそこに人がいる!」
「救助している間に被害が広がる!」
「だからって見捨てるのか!?」
「一人を助けるために、十人を危険に晒すつもりか!」
「……!」
リーチェは歯を食いしばる。
「私は行く!」
「リーチェ!」
瓦礫へ飛び込む。
「……馬鹿が。」
ミスティも追う。
結果。
二人は無事に人々を救出した。
だが。
その代償として。
リーチェは大きな怪我を負った。
「……だから言っただろ。」
ミスティの声が震える。
「無茶をするな。」
「でも。」
「助けられた。」
「それでいいだろ?」
「よくない!」
ミスティが初めて声を荒らげた。
「その傷は何だ!」
「お前が死んだら!」
「……。」
リーチェが目を見開く。
「ミスティ……。」
「……。」
ミスティは拳を握る。
「Noiseを倒せばいい。」
「それで十分だ。」
「そんなの……。」
リーチェが静かに首を振る。
「違う。」
「魔奏少女は。」
「人を助けるために歌うんだ。」
「そんな綺麗事で……。」
「綺麗事じゃない!」
「私はそう信じてる!」
「……。」
ミスティの中で。
何かが崩れる。
怒り。
憎しみ。
戦う理由。
それらを否定されるような気がした。
「……無駄だ。」
「え?」
「人を助けても。」
「またNoiseが現れる。」
「街はまた壊れる。」
「それでも!」
「私は助ける!」
リーチェが叫ぶ。
「目の前にいる人を見捨てるくらいなら!」
「私は何度だって傷つく!」
「……。」
ミスティは俯く。
本当は。
そんなリーチェが羨ましかった。
誰かのために。
迷わず走れることが。
自分にはできないことが。
羨ましくて。
だから。
「……だから、お前は弱い。」
「……。」
リーチェの表情から笑顔が消える。
「そうか。」
短い沈黙。
「……もういい。」
「ミスティ。」
「私たち。」
「もう一緒に歌えないな。」
そう言って。
リーチェは背を向けた。
ミスティは。
引き止めなかった。
「……ああ。」
それだけだった。
遠ざかっていく背中を見つめる。
胸の奥が。
ひどく痛かった。
なのに。
その痛みを。
怒りへ変えることしか。
ミスティにはできなかった。
――こうして。
二人のSessionは終わった。
それから数年。
ミスティは世界各地を巡り続けた。
戦って。
移動して。
戦って。
眠って。
また戦う。
そんな日々の中。
ある海外コンサートで、ミスティは日本から遠征してきた魔奏少女たちと共演した。
その中に。
「……君。」
「随分と無愛想だな。」
静かなヴァイオリンの音色を奏でる少女がいた。
「伊藤サダメだ。」
「……ミスティ。」
それが。
二人の最初の出会いだった。
演奏を終えた後。
サダメはただ一言。
「君の音は。」
「どこか寂しいな。」
「……。」
ミスティは何も答えなかった。
◇ ◇ ◇
さらに数年。
相変わらず。
ミスティは一人だった。
そんなある日。
担当教師から呼び出される。
「ミスティ。」
「はい。」
「君は。」
「何のために戦っている?」
「……Noiseを倒すためです。」
「そうか。」
教師はしばらく黙った。
「なら。」
「日本へ行ってみないか。」
「日本?」
「君の求めていたものが。」
「見つかるかもしれない。」
「……。」
ミスティは窓の外を見る。
「分かりました。」
◇ ◇ ◇
そして。
日本。
「……これが日本の魔奏少女か。」
ミスティは静かに戦場を見つめる。
「随分とレベルが低いのだな。」
あの程度のNoiseも仕留めきれない。
「本当に。」
「ここで何か見つかるのか?」
その時。
「魔奏少女は!」
「皆の笑顔のために歌うんだよ!」
「……。」
ミスティの脳裏に。
あの日の少女が浮かぶ。
(……あいつと似たようなことを言うんだな。)
そして。
「Noiseが増えたぞ!」
「数が多いな……。」
ミスティはジェミニを構える。
(こんな時。)
(どうするんだっけ。)
考えるより先に。
体が動いていた。
「お前たちは全力で行け。」
「私が合わせる。」
演奏が始まる。
Noiseが次々と消えていく。
「……。」
これが。
一番合理的だ。
なのに。
(……本当に?)
戦いが終わった後。
「ミスティさん!」
「私たちとバンド組んでください!」
「……。」
断るのは簡単だ。
「断る。」
そう言えばいい。
なのに。
(アタシとデュオ組もうぜ!)
あの日の声が。
また蘇る。
「……。」
ミスティは目を伏せる。
その時。
「私の夢は!」
「世界一の魔奏少女になることだから!」
識戸ミソラ。
その少女の瞳を見つめる。
真っ直ぐで。
迷いがなくて。
己を信じて疑わない。
あの少女と。
よく似た輝き。
(私は……。)
(何を求めてここに来た?)
答えは。
出てこない。
(いや。)
(何のために戦っている?)
それすら。
分からない。
ミソラは。
ただ笑っている。
(その答えを。)
(お前は持っているのか?)
ミスティは。
ゆっくりと息を吐いた。
「……分かった。」
「えっ?」
ミソラが目を丸くする。
「本当!?」
「ただし。」
ミスティはミソラを見据える。
「リーダーは。」
「お前だ。」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
驚きの声が響く。
ミスティは。
ほんの少しだけ笑った。
(答えが自分の中にないのなら。)
(自分にないものを。)
(求めてみよう。)
それが。
日本へ来た理由だった。
◇ ◇ ◇
「ミスティーーーー!!!!!」
道の向こうから。
聞き覚えのある声が響いた。
「……。」
ミスティの足が止まる。
そして。
バスから飛び出してきた少女を見て。
「ミスティ!」
「久しぶりだな!」
「……。」
ミスティは無言で見つめる。
「……リーチェ。」
「そう!」
「アタシだ!」
「元気だったか!」
「うるさい!」
「ひどっ!?」
昔と。
何も変わっていない。
その隣では、サダメが静かにヴァイオリンケースを持っていた。
「久しぶりだな。」
「……サダメ。」
「覚えていたか。」
「一度会っただけだ。」
「それでも十分だ。」
「……。」
ミスティは二人を見回す。
(なんで居るんだこいつ。)
日本に来た理由。
自分の中にない答えを探すため。
そのために来たはずなのに。
まさか。
最初から。
昔の答えそのものが待っているとは。
「ミスティ!」
「今日一緒に飯食おうぜ!」
「断る。」
「即答!?」
「昔から変わらないな。」
サダメが小さく笑う。
「……。」
ミスティは。
ほんの少しだけ。
口元を緩めた。
――日本での新しい生活は。
どうやら。
静かには始まりそうになかった。
シリウスのLive。
圧巻だった。
あれほど巨大なステージで。
あれほど大勢の観客を前にして。
リーチェは。
堂々と歌っていた。
「……。」
私は。
ずっと。
立ち止まったままだった。
(お前が。)
(それほどまでに成長していて。)
(私は……。)
悔しくて。
眠ったふりまでした。
そんな自分が。
情けなかった。
けれど。
あの日。
「リーダーが……危ない!」
アノマリーへ立ち向かっていくリーチェを見て。
(何をやってるんだ、お前は。)
メンバーを逃がすために。
一人で残った。
命を懸けて。
仲間を守ろうとした。
(……結局。)
(何も変わっていないじゃないか。)
昔と。
何も変わらない。
馬鹿みたいに真っ直ぐな。
私の知っているリーチェだった。
そして。
「久しぶりに君と歌える。」
「……。」
やめろ。
そんなことを言うな。
(私は。)
(お前と並べるような奴じゃない。)
そう思っていた。
なのに。
数日後。
「シリウス解散してきた!」
「……。」
「……マジで何をやってるんだ、お前は。」
「いやー!」
「これで正式にバンド組めるな!」
「そういう問題じゃない!」
リーチェは。
昔と変わらず笑っていた。
◇ ◇ ◇
そして。
「ついに初ライブ明日だなー!」
「そうだな……。」
ミスティはスマートフォンを眺める。
「……ん?」
画面が震えた。
ミソラからのメッセージ。
【今日の放課後、おじいちゃんの家に来てください】
「……。」
嫌な予感がする。
「……何故だ。」
隣でリーチェが覗き込む。
「おー!」
「ミソラからだ!」
「何て?」
「……。」
ミスティは画面を見つめる。
「今日。」
「ミソラの祖父の家へ行く。」
「へぇー。」
リーチェは楽しそうに笑った。
「何が待ってるんだろうな!」
「……。」
ミスティは小さく息を吐く。
「……碌なことではない気がする。」
第11話へーーー。




