第10話 始めよう もう一度 その7
【第10話 おまけ】
「……。」
「やほやほー♪」
「……真理ちゃん……?」
「そだよー♪」
「いや出て来ちゃダメでしょ!?」
「おまけだからって、やっていいことと悪いことあるよ!?」
「おまけだからこそ。」
「本編でやっちゃいけないことをやるんだよ。」
「反論出来ねぇ!」
ミソラ、敗北。
「でもさぁ。」
真理は頬杖をつく。
「本編ではあれだけ綺麗に消えたんだから。」
「立つ鳥跡を濁さないで欲しいよね。」
「……。」
「じゃあやろうか!」
「何を!?」
「アツアツおでん早食い対決ー!」
「濁すなって言ってんだろ!!」
「確かに!」
真理はポンと手を叩く。
「今の時代、おでん早食いはもう古いって言いたいんだね!」
「会話にならない!」
「それは元からだけど!」
「仕方ないなぁ。」
真理がにっこり笑う。
「じゃあ!」
「焼きたてパンケーキ早食い対決ー!」
「なんで熱さを増した!?」
「はい、スタート!」
「ホイ。」
じゅわぁぁぁぁぁ……。
「…………。」
「…………。」
「……あっ。」
「ちょっと待――」
「アツアツすぎ――」
「やめ――」
「「「あっつぅぅぅぅぅい!!!!! 」」」
――第10話、おしまい。
「……何これ。」
「おまけだよー♪」
「便利な言葉だなぁ!?」
修復された綾小路邸。
静まり返った大広間へ、慌ただしい足音が響く。
「ピスケ!」
「お父様!?」
綾小路家の父親が駆け込んでくる。
その後ろには堂道の姿もあった。
「堂道から連絡が来た。」
「お前が危ないと……。」
「大丈夫ですわ。」
ピスケはいつものように笑う。
「もう、危機は去りました。」
「……そうか。」
父親は。
しばらく何も言わなかった。
そして。
「……すまなかった。」
「え?」
「今まで。」
「私は、お前を……。」
言葉が詰まる。
「本当の娘だと思うことが、出来なかった。」
「雲雀を重ねて。」
「違うと気付くたびに、逃げていた。」
「忙しいからと理由をつけて。」
「お前と向き合おうとしなかった。」
「……。」
ピスケは黙って父親を見つめる。
「でも。」
「今日。」
「お前が危ないと聞いた時。」
父親は拳を握る。
「怖かった。」
「また。」
「娘を失うのかと思った。」
「……お父様。」
「私は。」
「もう二度と、お前を失いたくない。」
ピスケは。
少しだけ目を伏せた。
「……そうですか。」
そして。
いつもの笑顔で笑う。
「では。」
「これから、ですわね。」
「……ああ。」
「はい。」
「これからですわ。」
その様子を。
堂道は少し離れた場所から静かに見守っていた。
「うう……。」
ミソラは目元を拭う。
「良かったね、ピスケちゃん……。」
大広間では。
綾小路家の父親とピスケが、ゆっくりと言葉を交わしている。
「お邪魔するのも悪いし。」
リーチェがミスティへ振り返る。
「私達も帰ろうか。」
「そうだな。」
「礼として、一宿くらいさせてくれないだろうか。」
「思ってても言うな、そんなこと。」
「……。」
リーチェは無言でミスティの肩へ手を伸ばす。
「おい。」
「引きずるな。」
「おい、リーチェ。」
ズルズル。
「リーチェ。」
ズルズルズル。
「……。」
「本当に引きずるな。」
こうして。
三人は綾小路邸を後にした。
◇ ◇ ◇
夜道。
街灯に照らされながら、三人は並んで歩いていた。
「あっ、そうだリーダー。」
「ふえっ!?」
ミソラが振り返る。
「今日、元気無かっただろ?」
「元気づけるために、やっといたことがあったんだった。」
「……え?」
ミスティがリーチェを見る。
「おい。」
「いつまで引きずるんだ。」
「リーチェ。」
「おいリーチェ。」
ズルズル。
「……。」
「もう大丈夫だよ。」
リーチェがようやく立ち上がる。
「ピスケちゃんとも和解できたし。」
「……そうか。」
「うん。」
「じゃあ、これ。」
リーチェがスマートフォンを差し出した。
「ん?」
画面には一本の動画。
そして。
【投稿日 今日】
【再生数 16,000,000】
「えっ。」
「……。」
「一千六百万!?」
「再生数だけじゃないぞ。」
「コメントも凄い。」
「な、何の動画!?」
「これ。」
再生ボタンを押す。
画面の中。
見慣れた緑髪の少女が、満面の笑みで叫んでいた。
『私が移籍したミソラシュピーレンの初Live!』
『来週やるから、皆見に来てくれよなーーー!!』
動画が終わる。
「……。」
「……。」
「……。」
ミソラの顔が。
ゆっくりと引きつる。
「来週……?」
「うん。」
「来週ぅぅぅぅぅ!?!!?!!」
夜の街に。
ミソラの絶叫が響き渡った。
「初Liveって……!」
「私、何も聞いてないよぉぉぉぉぉ!!」
「まぁまぁ。」
「楽しみじゃないか。」
「ミスティちゃんは落ち着きすぎぃぃぃ!!」
夜空へ。
三人の声が消えていく。
――そして。
ミソラシュピーレン。
初めてのLiveの日が。
すぐそこまで迫っていた。
「やっちまったかな?」
リーチェが首を傾げる。
「いや。」
ミスティが淡々と答える。
「なんでそう直ぐにLiveをやりたがるんだ!?」
「だって。」
リーチェは悪びれもせず笑う。
「Live出来なくて落ち込んでるのかと思って……。」
「既成事実ってやつだよ。」
「既成事実!?」
「これで開催出来なきゃ。」
「姫嶋学園の責任問題だろうしなー。」
「アッハッハ!」
「笑ってる場合かなぁ!?」
その時。
リーチェのスマートフォンが。
――ピコン。
画面を見る。
【着信 奏音先生 102件】
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「めっちゃ鬼電来てるー!?」
ミソラが叫ぶ。
「そりゃそうだろ。」
ミスティが画面を覗き込む。
「学校の許可も取らずに。」
「会場も確保せずに。」
「開催日だけ発表したんだからな。」
「やっちまったなー。」
「だから笑ってる場合じゃないってばぁ!」
そんな二人を横目に。
ミスティはスマートフォンを眺めながら。
「……。」
「お腹すいたなー……。」
「こっちはこっちで少しは慌てろぉぉぉぉ!!」
夜の街に。
三人の声が響き渡った。
――こうして。
ミソラシュピーレン初Liveまで。
残り一週間。
そして。
姫嶋学園の胃痛の日々が始まった。




