↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/75

第10話 始めよう もう一度 その1

###


 街中のゲームセンター。


 筐体の前に立つミスティが、画面を見つめながら小さく息を吐く。


「ふぅー。」


 結果画面には、すべてのノーツを完璧に捌いた証。


 FULL COMBO。


「おー!」


 隣からリーチェが身を乗り出す。


「またフルコン取ってるんだな!」


「……。」


「ん?」


「どうかしたのか?」


 ミスティは画面を見つめたまま、少しだけ表情を曇らせる。


「いや……。」


「ミソラが元気無かったのが気になってな……。」


「あー。」


 リーチェも腕を組む。


「まぁな。」


「上級生の遠征を見送る時も元気なかったし。」


「先生と話した後だったみたいだし。」


「それに関係していることだろう。」


「なら……。」


 ミスティは小さく呟く。


「さっきので元気づけられたらいいんだが。」


「あー、動画で流してたアレな。」


 リーチェが苦笑する。


「大分めちゃくちゃ言ってたな。」


「……少しやり過ぎたか?」


「いや。」


「面白かったぞ。」


「そうか。」


 ミスティがほんの少し笑う。


「ま、なんとかなるさ。」


 その時だった。


 ――ピリリリリリッ!


 二人のスマートフォンが同時に鳴る。


「ん?」


「これは……。」


 画面を見る。


 そこには。


【アノマリーが出た!】


【ピスケちゃんの家に急いで!】


「「!!」」


 一瞬。


 二人の表情から、先ほどまでの穏やかさが消えた。


「リーチェ。」


「ああ。」


「急ぐぞ。」


「分かってる。」


 二人は同時に立ち上がる。


 ゲームセンターを飛び出し、街中を駆け抜けていく。


 その向かう先は。


 綾小路邸。


 そして。


 そこで待っているのは――。


◇    ◇    ◇


 夕暮れを走る1台の車。


 激しく揺れる車内。


 ――ガタタッ!


 ――ガタガタガタッ!


 路面の凹凸に合わせて、古びたクラシックカーの車体が大きく揺れる。


「ぶあぁぁぁっ!?」


 助手席でミソラの身体が跳ねる。


「堂道さぁん!」


「もっといい車、無かったんですかぁ!?」


「申し訳ございません。」


 ハンドルを握る堂道は、いつも通り落ち着いた声で答える。


「屋敷にアノマリーが現れたと同時に、電子制御の車両は全て乗っ取られてしまいまして。」


「現在動かせるのが――」


「相棒(コイツ)だけでございました。」


「読ませ方ぁ!」


 ミソラがシートへしがみつく。


「うわぁぁぁっ!」


 ――ガタンッ!


「ぐえっ!」


「……申し訳ございません。」


「謝るならもっとスピード落としてぇぇ!」


「それは出来かねます。」


「なんで!?」


「一刻を争いますので。」


「ですよねぇぇぇ!」


 堂道は前を見据えたまま尋ねる。


「ミスティ様とリーチェ様には連絡が付きましたか?」


「大丈夫だよ!」


「既読スルーされてる!」


「……。」


「些か不安でございます。」


「だよねぇ!?」


 ミソラはスマートフォンを握り締める。


 画面には。


『ミスティ:既読』


『リーチェ:既読』


 それだけ。


「もう!」


「なんでこういう時だけ二人とも既読スルーなの!?」


「遊んでいたのでしょう。」


「……。」


「……。」


「絶対そうだ。」


 ミソラは遠い目をした。


 その時。


 前方に見慣れた門が見えてくる。


「綾小路邸、間もなく到着いたします。」


「……!」


 ミソラの表情が変わった。


 屋敷からは黒い煙が立ち上っている。


 遠くからでも分かる。


 明らかに、普通ではない。


「ピスケちゃん……。」


 ミソラは拳を握り締めた。


 クラシックカーが急停止する。


 ――キィィィッ!


「到着いたしました。」


 堂道が扉を開ける。


「ミソラ様。」


「私はミスティ様とリーチェ様を迎えに参ります。」


「ミソラ様は、少々こちらでお待ちください。」


「うん!」


「分かった!」


 ミソラは勢いよく車から降りる。


「では。」


 堂道もアクセルを踏み込む。


 クラシックカーはそのまま走り去っていく。


「……。」


 ミソラはその背中を見送る。


 そして。


 ゆっくりと屋敷へ向き直った。


 巨大な門。


 その向こう。


 静まり返った綾小路邸。


 黒煙だけが、夕焼け空へ昇っている。


「……よし。」


 ミソラは小さく息を吸う。


「行くよ!ルナ!」


 鞄の中から、ひょこっと小さな顔が出る。


「ま、君はそうするだろうねぇ。」


「えへへ。」


「褒めてないよー。」


 ミソラは笑った。


 しかし。


 その目には、もう迷いはなかった。


「ピスケちゃんを助ける。」


 一歩。


 屋敷へ向かって歩き出す。


 その背中を。


 夕暮れの長い影が追いかけていた。


 綾小路邸の中を、ミソラは必死に走っていた。


「ピスケちゃん……!」


 廊下を抜ける。


 大広間へ飛び込んだ、その瞬間。


「……!」


 ミソラの足が止まった。


 広間の中央。


 赤いワンピースを着た少女が、静かに佇んでいる。


 その足元には。


 金髪のツインテール。


 見慣れた少女が倒れ伏していた。


「ピスケちゃん!」


「あはぁ。」


 アノマリーが振り返る。


「もう来ちゃったんだ。」


「ピスケちゃんから……。」


 ミソラの周囲で心奏力が渦を巻く。


「離れろ!!!」


 黄金の奔流が一気に放たれる。


 アノマリーは紙一重でそれを躱した。


「わぁっ。」


 そのまま大きく跳び上がる。


 空中で身体を捻り。


 ――ドンッ!


 巨大な衝撃波がミソラへ放たれた。


「くっ!」


 ミソラは心奏力を展開して受け止める。


「またいっぱい遊んでくれるんだぁ。」


 アノマリーは嬉しそうに笑う。


「ミソラちゃんは優しいねぇ。」


「……!」


 ミソラは衝撃波を弾き返す。


 そして。


 倒れているピスケへ向かって駆け出した。


「ピスケちゃん!」


 しかし。


「だめ。」


 アノマリーが手を振る。


 ――ズドォン!!


 衝撃波が床を抉る。


「もっと。」


 もう一発。


「こっちを見てよ。」


「じゃまを……。」


 ミソラの瞳に怒りが灯る。


「しないで!!」


 膨れ上がった心奏力が一気に解き放たれる。


 黄金の光が大広間を満たし、アノマリーの身体を捉える。


「きゃっ……!」


 赤いワンピースが光の中へ消えていく。


 身体が黒い粒子へと変わり。


 そのまま霧散していった。


「……。」


 静寂。


「ピスケちゃん!」


 ミソラはすぐに倒れている少女へ駆け寄る。


「大丈夫!?」


「……。」


 ピスケがゆっくりと目を開く。


「ミソラ……さん?」


「うん!」


「よかった……。」


 弱々しく微笑む。


「ええ。」


「ありがとう、ミソラさん。」


「ピスケちゃん……!」


 ミソラは安堵する。


 そして。


 そっと手を伸ばした。


 その瞬間だった。


「……。」


 身体が強張る。


「え……?」


 伸ばしかけた手が止まる。


 胸の奥に。


 説明のつかない違和感が走った。


(……なんだ?)


(何なんだろう……この感じ。)


 目の前にいるのは。


 間違いなくピスケのはずなのに。


 どこか。


 何かが。


 決定的に違う。


 まるで。


 得体の知れないものが。


 目の前にいるような――。


「どうしたの?」


 ピスケが首を傾げる。


「ミソラさん?」


「……。」


 ミソラは、目の前の少女を見つめる。


 金色の髪。


 いつもの笑顔。


 いつもの声。


 何一つ違わない。


 それなのに。


「……あなた。」


 喉が震える。


「誰……?」


「……。」


 ピスケの笑顔が。


 ほんの僅かに歪んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。