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第8話 「それが君だ。」 その4

 リーチェがミソラシュピーレンへ加入してから数日後。


 四人は、とある温泉旅館を訪れていた。


「うわぁぁぁ!」


「温泉だぁぁぁ!」


 旅館の前でミソラが両手を広げる。


 山々に囲まれた静かな温泉街。


 川のせせらぎと木々のざわめきだけが聞こえる。


「やっぱり日本の温泉は最高だねぇ。」


 リーチェは大きく背伸びをした。


「世界中回ってきたけど、これだけは恋しかったんだ。」


「ライブ終わったら来る予定だったのに、色々ありましたからね。」


 ピスケが苦笑する。


 アノマリー襲撃。


 シリウス解散。


 リーチェ加入。


 この数日だけで、あまりにも多くの出来事が起こっていた。


「奏音先生が『少し休んで来い』って。」


「旅館まで手配してくれるなんて太っ腹だね!」


「先生も皆さんが無理をしていると分かっていたのでしょう。」


 ミスティが静かに呟く。


「心も身体も。」


「休める時に休め。」


「それが長く戦う秘訣だ。」


「ミスティちゃんが先生みたいなこと言ってる。」


「経験談だ。」


「重い!」


 四人は思わず笑った。


 その笑い声が、静かな温泉街へ溶けていく。


「さぁ!」


「今日は何も考えない!」


「温泉入って!」


「美味しいご飯食べて!」


「卓球して!」


「夜更かしするぞー!」


「最後だけ休養じゃありませんわ!」


 ピスケのツッコミが旅館中へ響いた。


◇    ◇    ◇


 ◇お風呂のシーンは各自脳内補完して下さい◇


「えーっ!?」


「夕飯まだ出来てないの!?」


 旅館の仲居さんは申し訳なさそうに頭を下げる。


「誠に申し訳ございません。」


「厨房で少々不手際がございまして……。」


「食材は全て揃っておりますので、お時間だけ頂ければ……。」


 その時。


「ならば。」


 ミスティが腕を組む。


「やるしかあるまい。」


「え?」


「お前たち三人。」


「誰が一番か。」


「カレー作り対決だ。」


「なんでカレーなの!?」


「私が食べたいからだ。」


「理由が自由すぎるよ!?」


「そして!」


「なんでミスティちゃんは参加しないの!?」


 ミスティは真顔で首を横に振る。


「私に料理をさせるのか?」


「死人が出るぞ。」


「どういう意味!?」


 リーチェが遠い目をする。


「あぁ……。」


「血のバレンタイン事件を思い出す……。」


「お二人の過去に何があったんですの!?」


「チョコを作ろうとしてな。」


「キッチンが半壊した。」


「鍋も二つ逝った。」


「火災報知器が三回鳴った。」


「料理ですわよね!?」


「爆発物じゃありませんのよ!?」


 ミスティは小さく咳払いをする。


「それ以来。」


「私は食べる専門だ。」


「開き直ってるぅ!」


「では。」


 ミスティは静かに三人を見渡した。


「制限時間、一時間。」


「審査員は私。」


「優勝者には。」


「温泉まんじゅう三つ。」


「微妙な景品ですわね。」


「じゃあ負けた人は?」


 リーチェがニヤリと笑う。


「皿洗いで!」


「決まり!」


「勝ちますわ。」


「負けないよ!」


「望むところだ!」


「審査員が一人では不公平だろう。」


 ミスティが腕を組む。


「だから。」


「その辺を歩いていた人を捕まえてきた。」


「こんにちは。」


 眼鏡を掛けた青年が丁寧に頭を下げる。


「田辺倉(たべくら) 鈴人(べると)です。」


「めっちゃ食べ比べそうな名前の人がよく居たねぇ!?」


「温泉巡りと食べ歩きが趣味です。」


「設定まで完璧なんですの!?」


 鈴人は少し照れくさそうに笑う。


「審査は公平に務めます。」


「よし。」


 ミスティは静かに頷く。


「評価が分かれた場合。」


「審査員長である私の判断を優先する。」


「じゃあこの人いる意味無いよね!?」


「あります。」


 鈴人が真顔で返す。


「私はコメント担当です。」


「担当あった!?」


「味。」


「香り。」


「コク。」


「余韻。」


「総合的にレビューします。」


「食レポ番組始まりましたわ!?」


「なお。」


 ミスティが付け加える。


「最終決定権は私だ。」


「だから意味無いって言ってるんですのぉぉぉ!!」


「いや。」


 鈴人は落ち着いた様子で首を振る。


「コメントが盛り上がるので。」


「納得しちゃいましたわ……。」


 こうして。


 謎の一般人を巻き込んだ。


 第一回ミソラシュピーレン・カレー王決定戦が幕を開けた。







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