第7話 Sirius その4
「友達……?」
ブレェネリが鼻で笑う。
「何言ってんだ、お前。」
ペトルーシュカは右目を押さえたまま、小さく呟く。
「……Noise。」
「ルーが言うなら間違いねぇ。」
ブレェネリはレオを構える。
「テメェもNoiseだろ!!」
一歩、踏み出す。
ギターを振り上げる。
その瞬間。
「え?」
ブレェネリの視界が反転した。
何が起きたのか理解できない。
次に見えたのは。
遠ざかる天井だった。
ドォォォン!!
轟音。
ブレェネリの身体がステージを何度も跳ね、壁へ激突する。
「ブレェネリ!?」
リーチェが叫ぶ。
しかし。
少女はそこから一歩も動いていない。
ただ立っていただけ。
「えへへ。」
嬉しそうに笑う。
「もっと遊ぼ?」
その声と同時に。
ズ……。
空気が歪んだ。
耳障りな不協和音。
今までNoiseが纏っていた黒い靄とは比較にならないほど濃密なディソナンスが、会場全体へ染み渡っていく。
「……ッ!」
アイネの身体が震えた。
目の前には。
誰よりも強いはずの親友。
ブレェネリが、まるで子どものように一撃で吹き飛ばされている。
「そんな……。」
心が揺らぐ。
恐怖。
焦り。
理解できない現実。
その隙間へ。
黒い靄が音もなく入り込んだ。
「ぁ……。」
視界が滲む。
呼吸が苦しい。
胸の奥から、抑え込んでいた負の感情が溢れ出してくる。
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
アイネの悲鳴が、羽波ドームへ響き渡った。
「ダメだよぉ。」
少女は微笑む。
「せっかく仲良しなんだから。」
「バラバラに来ちゃダメ。」
そっと。
アイネの頬へ手を添える。
「これからは。」
「私が仲良くしてあげるね。」
「やっ……。」
その瞬間。
黒い靄がアイネの身体へ絡みつく。
「ぁ……あぁっ……!」
純白だった心奏力が。
ゆっくりと黒く染まっていく。
そして。
少女の掌へ吸い込まれていった。
「心奏力を……。」
リーチェは息を呑む。
「喰ってる……?」
「リーダー。」
ペトルーシュカが静かに告げる。
「呆けている場合じゃない。」
「撤退だ。」
「一度引く。」
「なっ!?」
リーチェが驚嘆の声を上げる。
「二人を置いていけるか!!」
「ならばどうする。」
ペトルーシュカの声は冷静だった。
「このままでは全滅する。」
「……。」
リーチェは唇を噛む。
目の前には。
苦しそうに顔を歪めるをアイネ。
壁にもたれたまま意識の戻らないブレェネリ。
そして。
今も笑顔を浮かべる少女。
「……。」
ゆっくりとライブラを構える。
「ルー。」
「アイネを連れて逃げて。」
「……了解。」
リーチェは優しく笑った。
「リーダーは。」
「最後まで皆を帰すのが仕事だから。」
ライブラが淡く輝く。
深緑の心奏力が夜空を照らした。
「だから。」
「ここは私が時間を稼ぐ。」
リーチェがライブラを掻き鳴らす。
深緑の心奏力が幾重もの波紋となり、一直線に少女へ襲い掛かった。
「あら。」
少女は小さく目を丸くする。
波動に押され、数歩だけ後ろへ滑った。
アイネへ伸ばしていた手が離れる。
「今だ!」
「ルー!」
「アイネを連れて行け!」
「……了解。」
ペトルーシュカは迷わずアイネを抱え上げる。
「ごめんなさい……。」
「ごめんなさい……。」
意識の朦朧としたアイネが、何度も同じ言葉を繰り返す。
「今はリーダーを信じよう。」
ペトルーシュカは振り返ることなく駆け出した。
リーチェはライブラを強く握る。
心奏力はさらに膨れ上がり、深緑の光がステージ全体を包み込む。
(ブレちゃんは……。)
壁際へ倒れたまま動かない。
(まだ起きないか……。)
その時。
ズ……。
少女の周囲の空気が揺らいだ。
「っ!?」
目に見えない衝撃。
次の瞬間。
リーチェの身体が弾き飛ばされる。
「がっ……!」
ステージを転がり、ようやく体勢を立て直す。
(今のは……。)
(衝撃波……!?)
ライブラを展開していなければ。
今の一撃だけで終わっていた。
少女は嬉しそうに拍手をする。
「すごーい。」
「ちゃんと立てるんだ。」
そして。
無邪気な笑顔のまま首を傾げた。
「ふふ。」
「貴方とも、仲良く出来そうね。」
リーチェは静かにライブラを握り直す。
(どうする……。)
(まともに受ければ負ける。)
(逃げれば追いつかれる。)
(時間だけでも稼がないと――。)
◇ ◇ ◇
一方その頃。
Live会場から避難したミソラ達は――。




