第7話 Sirius その1
翌朝。
テレビも、ネットニュースも、SNSも。
話題は一つだった。
『シリウス緊急来日決定!』
『世界的人気魔奏少女バンド、一週間限定ライブ開催!』
『海外トップバンドが日本で初公演!』
『緊急ライブ決定の裏側とは!?』
街中の大型ビジョンにもシリウスの映像が流れ、人々はその話題で持ちきりだった。
◇
「凄い人気ですわねぇ。」
登校中。
駅前の大型モニターを見上げながらピスケが呟く。
「海外じゃ知らない人居ないくらい有名なんだっけ?」
「そのようですわ。」
「……。」
ふと隣を見る。
ミソラが。
地面へしゃがみ込み。
頭からキノコを生やし。
ハニワのような顔で固まっていた。
「今度はどうしましたの……。」
ピスケが呆れたように尋ねる。
ミソラはゆっくりスマホを差し出した。
「私の動画……。」
「……。」
「トレンドから全部吹き飛んだ……。」
昨日まで一位だった動画。
今ではランキングのどこにも見当たらない。
画面を埋め尽くすのは、シリウス、シリウス、シリウス。
「世界って広いんだねぇ……。」
ずーん。
さらにキノコが一本増えた。
「それが。」
隣を歩くミスティが静かに口を開く。
「乗り越えるべき壁だ。」
「うぅぅぅ……。」
しかし。
よく見てみると。
「……。」
ピスケが堂々とシリウスのライブTシャツを着ていた。
「……。」
「……。」
「……。」
「裏切り者ぉーーー!!」
「仕方ありませんわ!」
ピスケは胸を張る。
「相手はシリウスですわよ!?」
「シリウス!」
「現魔奏少女界隈でもトップクラス!」
「世界一位のタウロスに最も肉薄していると言われる、今最も勢いのある魔奏少女バンド!」
「野性的な魅力で観客を惹き込むメインボーカル、ブレェネリ!」
「儚げながらもチームを支えるベース、アイネ!」
「ミステリアスでクールビューティーのサックス、ペトルーシュカ!」
「そして!」
「始まりの魔奏少女・不荒の再来とも称されるリーダー!」
「リーチェ!」
「これを推さない方がどうかしておりますわ!」
「めっちゃ語るねぇ!?」
ミソラは思わず一歩引いた。
「いや、なんでそんな詳しいの!?」
「公式ファンクラブ会員番号三二七番ですわ。」
「ガチ勢だったぁーーー!?」
「限定ライブ配信も全て視聴済みです。」
「推し活してるぅーーー!!」
「サイン入りタオルも持っていますわ。」
「どこに隠してたのその情報!?」
ミソラは頭を抱えた。
「私はCanon一筋なのにぃ……。」
「世代が違いますもの。」
「ぐぬぬ……。」
ミスティはそんな二人を一瞥する。
「……。」
「ライブは。」
「楽しみだ。」
「ミスティちゃんまで!?」
「朝から心が折れそうだよぉ……。」
そこから数日間はシリウスの話題で持ちきりだった。
そして…Live前日の放課後。
下校しようと校門をくぐった、その時だった。
1台の大型バスがゆっくりと学園前へ停まる。
プシューッ、とバスの扉が開く。
そして…
「ミスティーーーーーー!!」
「……。」
銀髪の少女がぴたりと足を止めた。
「……うるさい。」
「わー!その反応!」
「全然変わってないね!」
「えっ?」
ミソラとピスケが同時に振り返る。
「知り合いなんですの!?」
バスから飛び降りてきた少女は一直線にミスティの前まで駆け寄る。
「久しぶり!」
「……。」
「元気だった?」
「見て分からないか。」
「うん!」
「元気そう!」
「……。」
ミスティは小さくため息をつく。
「相変わらずだな。」
「褒め言葉?」
「違う。」
「やった!」
「聞いてないだろ。」
「うん!」
「聞いてない!」
「聞きなさいよ!」
ミソラのツッコミにリーチェは「あははっ!」と笑った。
「君がミソラ?」
「えっ?」
「動画見たよ!」
「すっごく良かった!」
「え、えへへ……。」
「ありがとう!」
隣ではピスケが目を輝かせている。
「り、リーチェさん……。」
「本物ですわ……。」
「おっ!」
「シリウスTシャツ!」
「分かってますね!」
「は、はい!」
「サイン欲しい?」
「よろしいんですの!?」
「もちろん!」
「ピスケちゃん落ち着いて!」
サインを書き終わり、ミスティの方へ居直る。
リーチェは封筒を一つ取り出し、ミスティへ差し出した。
「はい。」
「明日のライブ。」
「関係者席。」
「四人分。」
「……いらない。」
「却下。」
「決定事項。」
「……。」
「来て。」
「久しぶりに。」
「君へ歌うから。」
一瞬だけ。
ミスティの表情が揺れた。
「……。」
「…………解った。」
その一言に。
リーチェは昔と変わらない笑顔を浮かべた。
「よし!」
「それじゃ明日!」
「楽しみにしてるね!」
車へ乗り込む直前。
くるりと振り返る。
「ブレェネリ!」
「もう窓から顔出さない!」
「えぇー!」
「見えねぇじゃん!」
「危ないから!」
「はーい!」
シリウスのツアーバスは静かに走り去っていく。
残されたミソラは、封筒とミスティを交互に見比べた。
「……。」
「ねぇ。」
「ホントに知り合いだったんだ。」
「……昔な。」
「それだけ。」
そう答えたミスティの横顔は。
どこか少しだけ、懐かしそうだった。
リーチェから受け取った封筒を開く。
「チケット四枚か…。」
ミスティが一枚ずつ数えていく。
「私と、ミソラとピスケと……。」
そこで手が止まった。
「一枚余っちゃうね。」
ミスティは興味なさそうに視線を逸らす。
「私は要らない。」
「えっ?」
「好きに使え。」
「いいの?」
「ああ。」
あまりにもあっさりとした返事だった。
「じゃあ……。」
ミソラは少し考えて、ぱっと笑顔になる。
「智佳ちゃん誘ってみよう!」
「喜んでくれるかなぁ。」
「……恐らく。」




