第6話 海外仕込の実力 その4
爆発的な奔流が収まり、一瞬の静寂に包まれた中庭に、高らかな笑い声が響き渡る。
「ハッハッハ!」
「リーダー抜きでもこのザマか!」
ブレェネリは豪快に笑う。
「ブレちゃん!」
「そんな言い方はダメだよ!」
アイネが慌てて腕を引っ張る。
「事実だろ?」
「それでもです!」
「……。」
ペトルーシュカは静かにため息をついた。
「……早く帰るぞ。」
「あっ、そうだ!」
アイネは思い出したように観客席へ向き直る。
「皆さん!」
「私たち、海外で活動している魔奏少女バンド――」
「**シリウス**です!」
中庭がざわめく。
「私はベース担当、アイネ・カンパネラです!」
「で、こちらが……」
「……ヴィスナー・ペトルーシュカ。」
「サックス担当だ。」
ペトルーシュカは短く一礼する。
「来週、この街でライブをすることになりました!」
「ぜひ遊びに来てくださいね!」
にこり、と満面の笑み。
その一言だけで、先ほどまでの張り詰めた空気が少しだけ和らいだ。
「あー、腹減った。」
ブレェネリがぐぅ、と腹を押さえる。
「飯まだ?」
アイネはにっこりと笑う。
「とっくに時間過ぎてるけど?」
「誰かさんのせいでね?」
「……。」
笑顔。
なのに妙な迫力がある。
「ヒィッ。」
ブレェネリは思わず肩を震わせた。
「わ、悪かったって……。」
「反省は食事のあと聞きます。」
「うぇぇ……。」
「行くぞ。」
ペトルーシュカが歩き出す。
三人はそのまま校門へ向かって歩いていく。
騒がしく。
けれど、どこか息の合った背中だった。
やがて、その姿が見えなくなる。
中庭には静寂だけが残った。
誰も言葉を発さない。
つい先ほどまで響いていた音色の余韻だけが、校舎の間を静かに漂っていた。
シリウスの三人が校門の向こうへ姿を消しても、中庭には誰一人として声を上げる者はいなかった。
倒れたまま肩で息をするサダメ。
隣では喜歌が苦笑いを浮かべながら空を見上げている。
「いやぁ……。」
「世界って広いねぇ。」
その一言だけが静かに響いた。
屋上。
フェンス越しに一部始終を見届けた三人も、ただ立ち尽くしていた。
「……。」
ミソラは言葉を失う。
さっきまで「すごい」と思っていた二人が、まるで子ども扱いのように押し切られた。
世界の広さ。
その現実が胸へ重くのしかかる。
「これが……。」
「海外。」
ピスケも珍しく表情を曇らせる。
「まさか、ここまで実力差があるとは……。」
その時。
静かにミスティが口を開いた。
「ミソラ。」
「……え?」
「世界一の魔奏少女になると言ったな。」
「……うん。」
ミスティは中庭へ視線を向けたまま、小さく呟く。
「あれが。」
「お前が乗り越えるべき壁だ。」
ミソラは何も答えられなかった。
ただ。
中庭に残る三色の光の残滓を、まっすぐ見つめ続ける。
◇
その日の夕方。
街の高級ホテル。
最上階の一室。
窓の外へ広がる街並みを、一人の少女が静かに眺めていた。
柔らかな緑色の髪が、夕日に照らされて揺れる。
机の上には、一枚の写真。
幼い頃の自分と、銀髪の少女が並んで笑っている。
少女は写真へそっと触れ、小さく微笑んだ。
「ようやく会えるね……。」
一度だけ目を閉じる。
そして。
「ミスティ。」
その名を静かに呼んだ。
続く…
【おまけ】
「うわーーーん!!」
「負けちゃったよぉぉぉ!!」
「えええええぇぇぇ!?」
「喜歌先輩!? またですかーー!?」
演奏会終了後。
中庭の片隅で、喜歌がミソラへ勢いよく抱きついた。
「悲しいよぉ~!」
「ミソラちゃん慰めてぇ~!」
「ホントに年上ですかあなたぁ!?」
「識戸。」
「あっ!」
「サダメ先輩!」
「この人どうにかしてくださいよ!」
サダメは静かに喜歌を見る。
そして。
「……。」
何も言わず踵を返した。
「見捨てたぁぁぁぁ!?」
「サダメさぁぁぁん!!」
その頃、サダメの脳内。
(辛かったね……。)
(よしよし。)
――イケメンミソラ、降臨。
(ミソラ様……。)
(私を慰めて……。)
――乙女喜歌、覚醒。
(君が望むなら。)
(永遠でも。)
スーパーイケメンミソラスマイル。
「これが……。」
「ネトラレ……!!」
サダメ、血の涙。
「どれがぁぁぁぁ!?」
ミソラのツッコミが校舎へ響く。
「おー。」
「新パターンだー。」
喜歌はポップコーン片手に頷く。
「なんで観戦してるのぉぉぉ!?」




