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第6話 海外仕込の実力 その3

 ――バサァッ!!


 赤髪の少女は迷いなく屋上から身を躍らせた。


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」


 ミソラたちの悲鳴が屋上へ響く。


 三階建ての校舎の屋上。


 普通なら助かる高さではない。


 しかし少女は空中で体勢を変えると、中庭の大木へ足を掛けた。


 枝が大きくしなる。


 ――バキッ!


 一本折れる。


 その反動を利用してさらに跳び、軽やかに地面へ着地した。


 ドサッ!


 土煙が舞う。


「……よし。」


 何事もなかったかのように立ち上がる少女。


 集まっていた生徒たちは一斉に騒然となる。


「飛び降りた!?」


「正気か!?」


「いや、今木を踏み台に……!」


 屋上では。


「だから言ったじゃん!」


「危ないってぇぇぇ!!」


「……。」


 ミスティだけが静かに呟く。


「相変わらずだ。」


「相変わらずなの!?」


 その大声は、中庭中へ響き渡る。


「オレはシリウスのブレェネリ・ポロネーズ!!」


「レオの適合者だぁぁぁぁぁッ!!」


 その瞬間。


 演奏を終えたばかりのサダメと喜歌が同時に振り返った。


「ブレちゃん!」


「来ちゃった!」


「久しぶりだな。」


 サダメだけは表情を変えない。


 ブレェネリは肩に担いでいたギターケースを地面へ置く。


「演奏、悪くねぇ。」


「けど。」


 ニヤリと牙を見せるように笑った。


「世界はもっと広いぜ。」


 ケースが開く。


 中から姿を現したのは、深紅の魔奏器。


 燃える獅子の鬣を思わせる意匠を纏ったエレキギター。


「来い。」


「レオ。」


 ギターが黄金の光を放つ。


 次の瞬間。


 ブレェネリの身体から眩い心奏力が溢れ出した。


 燃え上がるような赤金色。


 荒々しく。


 それでいて真っ直ぐな光。


 その圧力だけで、中庭の空気が震える。


「……。」


 サダメは静かにヴァイオリンを構える。


「カプリコーン。」


 銀色の光が身体を包む。


「アリエス!」


 喜歌もトランペットを掲げる。


 黄金の心奏力が空へ駆け上がった。


 三人の光が中庭で激しくぶつかり合う。


 ギィィィン――!!


 目には見えないはずの音が、光の波となってぶつかる。


 赤。


 金。


 銀。


 三色の心奏力が火花を散らした。


「うわぁ……!」


 屋上から見ていたミソラは思わず息を呑む。


「これが……。」


「魔奏少女同士の……。」


 ピスケが静かに頷く。


「心奏力のぶつけ合いですわ。」


「互いの想い。」


「互いの音。」


「どちらがより力強く、相手へ届くのか。」


「その勝負ですの。」


 ブレェネリがギターを力強くかき鳴らす。


 轟音と共に赤い光が中庭を駆け抜ける。


「ハッ!」


 サダメのヴァイオリンが応える。


 繊細でありながら、一切揺るがない銀色の旋律。


 そこへ。


「負けないよー!」


 喜歌のトランペットが重なった。


 黄金の旋律が二人の音を一つへ束ねる。


 激突。


 激突。


 激突。


 三人の心奏力が何度もぶつかり、その度に光の粒子が空へ舞い上がる。


 どちらも一歩も引かない。


 まさに互角。


 観客席からは歓声とも悲鳴ともつかない声が上がっていた。


「す、すごい……。」


 ミソラは目を輝かせる。


「こんなの……。」


「まるでライブそのものだ……!」


 三人の心奏力が弾け、光の粒子となって空へと還っていく。


「ははっ!」


「やるじゃねぇか!」


 ブレェネリは心底楽しそうに笑った。


 だが。


「……。」


「……。」


 サダメと喜歌は笑わない。


 二人の表情はどこか強張り、何かを待っているようだった。


「サダメちゃん……。」


「ああ。」


 サダメは小さく息を吐く。


「悔しいが……タイムアップだ。」


 その言葉と同時に。


 コツ、コツ、と規則正しい足音が中庭へ響く。


「ブレェネリ。」


「約束の時間は過ぎているぞ。」


 眼鏡をかけた少女が話しかける。


 その隣には、白い衣装の少女が立っていた。


 https://51629.mitemin.net/i1220208/


「ブレちゃん……。」


「また皆に迷惑掛けて。」


「す、すいません!」


 白の衣装の少女が勢いよく頭を下げる。


「本当にすいません!」


「うちの子がご迷惑をお掛けしました!」


 ぺこっ!


 ぺこっ!


「いやー……。」


 ブレェネリは頭を掻く。


「いい演奏してたもんで、つい……な?」


「ブレちゃん……?」


 柔らかな瞳が、にこりと笑う。


 だが。


 その背後から黒い威圧感が立ち上っていた。


「ヒィッ!」


「すまねぇ! アイネ!」


(普段おっとりなアイネが逆転攻め……。)


(勝った。)


「また要らんこと考えてるね〜。」


 喜歌が呆れたように笑う。


 そして。


「それより。」


「今、負けそうになっていなかったか?」


「いや!」


「まだまだこれからってところで――」


 ブレェネリの言葉を遮るように、三人が静かに口を開いた。


「どんな理由があれど。」


「どんな相手であれど。」


「「「シリウスに敗北は許されない。」」」


 瞬間。


 ドンッ――!!


 三人の心奏力が爆発する。


「行くよ。」


「ヴァルゴ。」


 純白のベースが眩く輝く。


「響き渡れ。」


「キャンサー。」


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 紫紺のサックスが静かに歌い始める。


「来るぞっ!」


 サダメが叫ぶ。


 カプリコーンを構える。


 喜歌もアリエスを掲げた。


 だが。


 遅かった。


 視界が、白く染まる。


 音が届くよりも早く。


 光が、中庭すべてを飲み込んでいた。


「っ……!」


 二人は必死に演奏を重ねる。


 銀と黄金の心奏力が抗う。


 しかし。


 白と紫、そして紅蓮。


 三つの旋律は容赦なく二人を呑み込み、その光ごと押し流していく。


「ぐっ……!」


「サダメちゃん!」


 轟音。


 閃光。


 次の瞬間、二人の姿は光の奔流の向こうへ弾き飛ばされていた。



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