第6話 海外仕込の実力 その2
その日のお昼休み。
中庭では人だかりができ、校内はいつにも増して賑わっていた。
そんな喧騒から少し離れた屋上。
いつもの三人はフェンスにもたれ、それぞれ昼食を広げていた。
「ミートボールおいし~♪」
もぐもぐ。
ミソラは頬いっぱいにご飯を頬張る。
「ミソラさん。」
「ソースが付いていますわよ。」
「えっ?」
ピスケがハンカチでミソラの口元を拭う。
「ありがとー!」
一方その頃。
「……。」
ミスティはゼリー飲料を口に運ぶ。
「ぢゅっ。」
一瞬で飲み干した。
「ごちそうさま。」
「終わり!?」
ミソラが思わず声を上げる。
「お昼それだけなの!?」
「栄養素的には問題ない。」
「問題しかないよ!」
「全く……。」
ピスケはため息をつきながら、ナイフとフォークでステーキを切り分ける。
「食は生活を豊かにしますの。」
「午後の集中力にも関わりますわ。」
「……合理的だ。」
「納得しないで!」
「それにピスケちゃん、お昼からステーキって!」
「朝から仕込んできましたもの。」
「落差!」
そんな三人のやり取りを見て、小さなぬいぐるみが笑い声を漏らす。
「ミソラの周りも賑やかになったもんだね~。」
「ぬいぐるみが喋った!?」
「何回聞いても慣れませんわね…」
「ぬいぐるみじゃないよ~。」
ルナは胸を張る。
「ボクは魔奏器のルナ!」
「ミソラの相棒ってところかな!」
「そういえば気になっていたのですが。」
ピスケがルナを見つめる。
「ルナさんは、一体どういう存在なのです?」
「え?」
「知らなかったの?」
「魔奏器が喋ると言うのは聞いたことが無いな。」
「ジェミニも勿論。」
ミスティが小さく頷く。
「一度も話したことはない。」
「えぇっ!?」
「じゃあルナが特別なの!?」
「うーん、特別っていうより個性かな!」
ルナはくるりと一回転する。
「魔奏器は全部で十三。」
「みんな姿も性格も能力もバラバラなんだ。」
「お喋りな子もいれば、全然喋らない子もいる。」
「ボクらはただの武器じゃない。」
「魔奏少女と一緒に歌って、一緒に戦う――」
「相棒なんだ。」
チラリとピスケの方を見る。
「?」
ほんの少しだけ、ルナの声色が優しくなる。
「だからボクらは、自分で主人を選ぶ。」
「選ばれた子と、一緒に世界を守る。」
「ボクはミソラを選んだ。」
「だから、これからもずーっと一緒!」
「……うん!」
ミソラは照れくさそうに笑った。
「よろしくね、ルナ!」
「今さら~?」
「えへへ!」
屋上に笑い声が響く。
その下、中庭では演奏会の開始を告げるアナウンスが校内へ流れ始めていた。
「まもなく、海外遠征より帰国した伊藤サダメさん、角岡喜歌さんによる歓迎演奏会を開始します――」
「始まるみたいですわ。」
「急ごう!」
三人は顔を見合わせると、屋上から中庭に目をやったにした。
三人は屋上のフェンス越しに中庭を見下ろしていた。
歓迎演奏会には生徒だけでなく教師たちまで集まり、中庭は人で埋め尽くされている。
「すごい人ですわね。」
「学園総出って感じだね!」
「……始まる。」
ミスティが小さく呟く。
中庭の中央へ、二人の少女が歩み出た。
トランペットを手にした角岡喜歌。
ヴァイオリンを抱えた伊藤サダメ。
「こんにちはー!」
喜歌が元気よく手を振ると、大きな歓声が上がる。
「今日は短い時間だけど、楽しんでいってねー!」
一方、サダメは静かに一礼した。
余計な言葉はない。
ただ、それだけで中庭の空気が引き締まる。
「始まりますわ。」
アリエス。
カプリコーン。
二つの魔奏器が淡い光を纏い、それぞれの主へ寄り添う。
次の瞬間。
トランペットの澄んだ一音が青空へ突き抜けた。
https://51629.mitemin.net/i1216806/
「……!」
続くようにヴァイオリンが優しく重なる。
https://51629.mitemin.net/i1216807/
二つの旋律は決して競い合わない。
互いを支え、溶け合い、一つの音楽となって校舎中へ響き渡っていく。
中庭を包む心奏力が、暖かな光となって空へ広がった。
「……すごい。」
ミソラは思わず息を呑む。
「音が……景色みたい。」
「心奏力の制御も見事ですわ。」
ピスケも珍しく見入っていた。
「……。」
ミスティは黙ったまま演奏を見つめている。
その横顔は、どこか懐かしむようでもあった。
演奏はまだ続く。
中庭からは歓声が上がり、生徒たちは誰もが音色に耳を傾けていた。
――その時だった。
「へぇ。」
すぐ耳元で声がした。
「結構いいのもいるじゃねぇか。」
「ひゃあっ!?」
ミソラが飛び上がる。
いつの間にか、赤髪の少女が真横に立っていた。
ほとんど頬が触れそうな距離。
「な、ななななっ!?」
「近い近い近い!」
「なんか今日こういうの多いねぇ!?」
赤髪の少女は気にも留めず、中庭へ視線を向けたまま鼻で笑う。
「でも、まだ甘ぇ。」
「え?」
鋭い金色の瞳が演奏を見据える。
「技術はある。」
「だが、魂が少し足りねぇ。」
「……。」
ミスティだけが静かに少女を見る。
「あなたは。」
少女はニヤリと笑った。
「おっ。」
「知ってんのか。」
そして。
屋上の欄干へ片足を乗せる。
「ちょっ!?」
「危ないよ!?」
「落ちますわよ!?」
ミソラたちの制止など聞こえていない。
赤髪の少女は満面の笑みを浮かべた。
「階段なんて待ってられねぇ。」
「オレは――」
ぐっと腰を落とす。
「シリウスのブレェネリ・ポロネーズ!」
「レオの適合者だ!!」
そのまま。
青空へ向かって、大きく跳んだ。
https://51629.mitemin.net/i1216808/




