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第6話 海外仕込の実力 その1

  姫嶋学園・学園長室。


 机の上には市街地の地図と、Noise発生記録が並べられていた。


「三日前のNoise異常発生について、ご報告します。」


 奏音が一枚の資料を差し出す。


「通常個体だけでも、発生数は例年の約三倍。」


「さらに、異常なディソナンスを纏う特殊個体を一体確認しました。」


「特殊個体はこれまで確認されていなかった物理的な破壊能力まで有していまして。」


「市街地への被害は限定的でしたが、一歩間違えれば大規模災害となっていました。」


 学園長は静かに資料へ目を落とす。


「……通常のNoiseではない、か。」


「はい。」


「加えて、ここ数週間のNoise発生件数も右肩上がりです。」


「原因は現在も調査中ですが……明確な要因は判明しておりません。」


 しばし沈黙。


 学園長は窓の外へ視線を向け、小さく息を吐いた。


「……いや。」


「おそらく、調べても答えは出ん。」


「学園長?」


「始まったのだ。」


 その一言だけが、静かな部屋に響く。


 奏音は問い返そうとしたが、その横顔を見て口を閉じた。


 学園長は僅かに口元を緩める。


「だが、悲観する必要はない。」


「ここからだ。」


 奏音も静かに頷く。


「ええ。」


「ちょうど彼女たちも帰国する頃です。」


「伊藤サダメ。」


「角岡喜歌。」


「次の時代を託す者たちが、揃います。」


◇    ◇    ◇


「遅刻だぁーーー!!!!」


朝、目覚まし時計が止まってるのに気付かず2度寝しようとしていたところ、スマホの時間を見て飛び起きた、リビングに降りると既に父親は出掛けていたようだった。


「おはよう御座います、ミソラさん」


「お母さーん!起こしてよー!」


「そう言えば、この前の動画見ましたよ」


「今言う!?」


「元気があるのは良いことですが、無茶はしないで下さいね」


「あなたが無事で居てくれることがなにより大切ですから」


「…はぁい」


「……でも、歌は素敵でしたよ。」


「!」


「それじゃ遅刻しますよ。」


「あーーーーー!!!!!」


 褒められた余韻に浸る暇も無く、慌ただしい朝の時間は過ぎていく。


◇     ◇      ◇


 「遅刻だぁぁぁーーーっ!!」


 全力疾走。


 昇降口を駆け抜け、階段を飛ぶように駆け上がる。


「はぁっ……はぁっ……!」


 ガララッ!


「お、おはようございまーす!」


 勢いよく教室の扉を開ける。


 教室中の視線がミソラへ集まった。


「……。」


「……。」


「……。」


「せ、セーフ?」


「アウトですわ。」


 ピスケが即答する。


「まだホームルーム前だからセーフだよ!」


「ゼェ……ゼェ……。」


 息を整えながら席へ向かう。


「……?」


 ミスティとピスケが何やら話し込んでいる。


「どうしたの?」


「何かあった?」


 ピスケが振り返る。


「今日。」


「海外遠征へ行っていた先輩方が帰国されるそうですわ。」


「先輩?」


「えっ!」


「魔奏少女の先輩!?」


「ええ。」


「三年生の『琴喇和名』のお二人です。」


 ミスティが静かに付け加える。


「私も一度だけ会ったことがある。」


「実力は本物だ。」


「へぇ〜!」


 ミソラの目が輝く。


「どんな人なんだろ!」


「怖い人だったらどうしよう!」


「今からそんな心配をしても仕方ありませんわ。」


「……。」


 ミスティは窓の外を見つめる。


「久しぶりだな……。」


 普段は静かな中庭が、今日は異様な熱気に包まれていた。


「おおー! 凄い人だかり!」


 ミソラが背伸びをしながら歓声を上げる。


「学園総出でお出迎えですのね。」


 ピスケも人混みの先へ視線を向ける。


 花壇の周り、渡り廊下、校舎の窓際。


 生徒も教師も、皆が同じ方向を見つめていた。


「今日は中庭でお二人の演奏会もあるそうですわ。」


「へぇ~!」


「そんなに凄い人なんだ!」


 その時。


 人混みが左右へ分かれる。


 自然と一本の道ができた。


 制服姿の二人の少女が、ゆっくりと歩いてくる。


「……。」


 黒髪を揺らしながら静かに歩くサダメ。


 その隣では、周囲へ笑顔で手を振る喜歌。


「サダメ先輩ー!」


「喜歌先輩!」


「おかえりなさい!」


 あちこちから歓声が飛ぶ。


「人気者なんだねぇ……。」


 ミソラは感心したように呟いた。


 その様子を少し眺めて、


「んー……。」


「どうしましたの?」


 ピスケが首を傾げる。


 ミソラは少し考えてから、小さな声で言う。


「……ミスティちゃんの方が凄い気がするなぁ。」


「……。」


「……。」


 一瞬、空気が止まった。


「何を基準に比較してますの。」


「だって!」


「この前の戦い、一人であのNoise倒しちゃったし!」


「演奏もすっごく格好良かったし!」


「ワタクシも否定はしませんが……。」


 ピスケは苦笑する。


「相手は三年生ですわ。」


「強さだけでは測れないものもあります。」


「ふーん?」


 その時だった。


「……。」


 サダメがふと立ち止まり、


 こちらを見た。


「えっ。」


「目、合った?」


「……。」


 一礼だけして、再び歩き出す。


「い、今の!」


「私に!?」


「違いますわ。」


「ワタクシ達全員にです。」


「えへへ。」


「なんかいい人そう!」


 そう呟いたミソラを見て、


 少し離れた場所で喜歌が笑った。


「サダメ。」


「今年の一年生、面白そうだね♪」


サダメは無表情のまま一年生組を見る。


(あそこに居る二人……。)


(動画で見たな。)


ミソラがピスケの腕を掴む。


(ピスケちゃーん!)


(引っ張らないで下さいまし!)


ぐいっ。


(ミソラさん……。)


(大丈夫ですの!)


(ピスケちゃん……。)


(そこ……当たってるよ……。)


「…………。」


(なんてことが…)


(推せる。)


「サダメ?」


「また妄想?」


「違う。」


「考察だ。」


「考察なんだ。」


「考察だ。」


◇     ◇     ◇


 午前の休み時間。


 教室を出たミソラとピスケが廊下を歩いていると――


「あーっ! 見つけたー!」


 ドタドタドタッ!


「えっ!? なになに!?」


 勢いよく飛び込んできた少女が、そのままミソラへ抱きついた。


「動画に出てた子だよねー!」


「うえぇぇぇぇ!?」


 ぎゅうぅぅっ!


「実物の方が可愛いー!」


「しかもやわらかい!」


「ええぇぇ!? ええぇぇーーっ!?」


「喜歌。」


 少し後ろから黒髪の少女がゆっくり歩いてくる。


「廊下を走るな。」


「そこなの!?」


「今、私絞め落とされそうなんですけどー!」


「大丈夫大丈夫!」


「ちゃんと加減してるから!」


「そういう問題じゃないよー!」


 ようやく解放され、ミソラは肩で大きく息をついた。


「はぁ……びっくりしたぁ……。」


「ごめんごめん!」


「嬉しくなっちゃって!」


 少女はにこりと笑って右手を差し出す。


「私は角岡喜歌!」


「三年生!」


「よろしくね!」


「は、はい!」


「識戸ミソラです!」


 慌てて握手を返す。


「動画見たよ!」


「歌、すっごく良かった!」


「ほ、本当ですか!?」


「うん!」


「元気いっぱいって感じで好き!」


「えへへ……。」


 思わず頬が緩む。


 そんな二人の様子を見ていた黒髪の少女――サダメが静かに口を開いた。


「識戸ミソラ。」


「は、はい!」


「今日の演奏会。」


「よく見ておけ。」


「……え?」


「学ぶことは多い。」


 それだけ言うと、踵を返す。


「ちょ、ちょっと待ってよサダメー!」


「置いてかないでー!」


「それと…」


「ミスティ=クロウリーに伝えておいてくれ。」


「2年前、世話になったと。」


 喜歌はミソラへ手を振りながら慌てて追いかけていく。


「じゃあまたあとでね!」


 二人の姿が廊下の角へ消えていく。


 ぽかんと見送っていたミソラは、小さく呟いた。


「……なんか、すごい先輩たちだったね。」


「騒がしい方と静かな方ですわね。」


 


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