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第5話 「Live On spielen!!!」 その3

 休日の街。


 銀色の長髪を揺らしながら、ミスティ・クロウリーは人混みの中を静かに歩いていた。


 賑やかな笑い声。


 信号待ちをする人々。


 楽しそうに買い物をする家族。


 そんな日常を横目に見ながら、小さく息を吐く。


「……平和だな。」


 その静寂を切り裂くように。


 ピロン。


 スマートフォンが震えた。


『緊急警報』


『Noise発生』


『周辺住民は直ちに避難してください』


 画面中央には赤く点滅する地図。


 複数の出現反応。


「Noiseか……。」


 呟くと同時に、ミスティの姿は人混みから消えていた。


 風だけが、その場に残る。


 ◇ ◇ ◇


「キャー!!」


「逃げろ!!」


 休日の街は、一瞬で悲鳴に包まれていた。


 黒い霧の中から現れる異形。


 Noise。


 人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。


「ミソラちゃん!」


「うん!」


 二人は互いに頷き合う。


「Session!」


 歌声が重なる。


 眩い光が収まる。


 街の中央に立つ二人の少女。


 識戸ミソラ。


 綾小路ピスケ。


 二人を中心に、心奏力が淡く揺らめいていた。


「ブアァァァァァッ!」


 黒い霧を裂き、一体のNoiseが咆哮を上げる。


「来るよ!」


 ミソラが一歩踏み出した。


「うん!」


 歌が始まる。


 優しく、それでいて力強い旋律。


 その音色に呼応するように心奏力が空中を舞い、光の粒となってNoiseへ降り注ぐ。


「ブァッ!?」


 Noiseの身体が大きく揺らぐ。


「効いてる!」


 ミソラの表情が明るくなる。


「以前より心奏力の流れが安定しておりますわ!」


 ピスケが冷静に分析する。


「Sessionのお陰かな!」


「恐らく。」


 Noiseが腕を振り上げる。


 だが。


「遅い!」


 ミソラが軽く身を翻す。


 振り下ろされた腕は空を切り、次の瞬間には再び歌声が響いた。


「届けぇっ!」


 光が一直線にNoiseを貫く。


 黒い身体は霧となって空へ溶けていった。


「やったぁ!」


「一体。」


 ピスケが静かに数える。


 しかし喜ぶ暇は無い。


「ブアァァァ!」


「ブォォォ!」


 建物の影。


 路地裏。


 交差点。


 四方八方から黒い影が姿を現した。


「えぇっ!?」


「まだ居るの!?」


「全部で……七体。」


 ピスケが周囲を見渡す。


「数が増えておりますわ。」


「よーし!」


「まとめて行くよ!」


 二人は息を合わせる。


 歌声が重なる。


 音が音を呼び、光が街を駆け抜ける。


 一体。


 二体。


 三体。


 Noiseは次々と霧散していく。


「思ったよりいける!」


「通常個体でしたら問題ありませんわ。」


 その時だった。


「ブォォォォォ!!」


 さらに奥の路地から、新たなNoiseが現れる。


「まだ!?」


「キリがありませんわね……!」


 ミソラが歌い続ける。


 喉が熱い。


 それでも止まらない。


 歌えば歌うほど、心奏力は街を優しく包み込んでいく。


 Noiseは一体、また一体と消えていった。


「これで最後っ!」


 眩い光。


 最後のNoiseが霧散する。


 静寂。


 街に、ようやく静けさが戻った。


「ふぅ……。」


 ミソラが大きく息を吐く。


「終わっ――」


 そこで言葉が止まる。


「あれ?」


 辺りを見回す。


「……真理ちゃん?」


 さっきまで少し離れた場所で避難する人達を誘導していた少女の姿が、どこにも無い。


「真理ちゃーん!」


 返事は無い。


「どこ行っちゃったんだろ。」


「避難したのではありませんこと?」


「かなぁ……。」


 ミソラは少しだけ胸を撫で下ろす。


「それならいいけど…」


 その瞬間だった。


 ルナの声が、静かに響く。


『……ピスケ。』


「ルナさん?」


『静かに。』


 空気が変わる。


 街を吹き抜けていた風が止まる。


 鳥の鳴き声も。


 人々のざわめきも。


 まるで世界そのものが息を潜めたようだった。


『……嫌な音がする。』


 ピスケの表情が変わる。


「ミソラさん。」


「下がって。」


「え?」


 ズ……。


 ズズズズズ……。


 アスファルトの上を黒い靄が這う。


 それは今までのNoiseとは明らかに違っていた。


 禍々しいディソナンス。


 重苦しい圧迫感。


 空気そのものが軋む。


「……何。」


 ミソラが思わず後退る。


 黒い霧が渦を巻く。


 その中心から、ゆっくりと異形が姿を現した。


「ブァァァァァァァァッ!!」


 その咆哮だけで、周囲のガラスが一斉に震える。


 ミソラの背筋を冷たいものが走った。


「今までのNoiseと……違う。」


 ピスケも無意識に一歩前へ出る。


「ええ。」


「これは……。」


 言葉を最後まで紡ぐ前に。


 異形は地面を砕きながら、二人へ飛び掛かってきた。


 「Noiseが…地面を!?」


  異形が目にも留まらぬ速さで、一気にミソラたちとの距離を詰める。


「速っ――!」


 咄嗟に歌声を重ねる。


 心奏力が光となって奔る。


 しかし。


 ズガァァァン!!


 光は異形の身体を掠めるだけで、大きく弾き飛ばされた。


「そんなっ!?」


「効いてはおります!」


 ピスケが叫ぶ。


「ですが浅いですわ!」


 異形が咆哮する。


「ブァァァァァァァッ!!」


 禍々しいディソナンスが周囲へ解き放たれる。


 耳鳴り。


 頭痛。


 まるで心そのものを掻き乱されるような感覚。


「うっ……!」


 ミソラの歌が一瞬乱れる。


 その隙を逃さなかった。


 巨大な腕が振り下ろされる。


「ミソラさん!」


 ピスケが飛び込み、二人まとめて吹き飛ばされた。


「きゃああっ!」


 アスファルトを何度も転がる。


 服が擦り切れ、腕から血が滲む。


「いったぁ……。」


「立ってください!」


 ピスケがミソラの腕を引く。


 異形は止まらない。


 再び突進。


「Session!」


 二人は歌う。


 光は確かに異形を捉える。


 黒い身体が僅かに削れる。


「やった!」


 そう思った瞬間。


 削れた身体が黒い靄となって蠢き、ゆっくりと元へ戻っていく。


「再生……!?」


「そんな……!」


 ピスケが歯を食いしばる。


「ディソナンスによる自己修復……!」


「こんなの聞いてませんわ!」


 異形は容赦なく迫る。


 拳。


 蹴り。


 咆哮。


 一撃一撃が重い。


「きゃあっ!」


 ミソラの身体が電柱へ叩き付けられる。


 鈍い音。


 肺から空気が押し出される。


「かはっ……!」


「ミソラさん!」


 ピスケが駆け寄ろうとする。


 しかし。


 異形はそれを許さない。


 巨大な腕が地面を薙ぎ払う。


 ピスケも数メートル先まで吹き飛ばされた。


「っ……!」


 立ち上がる。


 膝が震える。


 それでも。


「まだ……!」


「まだ終われませんわ!」


 二人は再び歌い始める。


 心奏力が重なる。


 それでも。


 異形は止まらない。


 むしろディソナンスはさらに膨れ上がっていく。


「ブァァァァァァッ!!」


 その咆哮に呼応するように。


 周囲の路地。


 ビルの隙間。


 公園の植え込み。


 黒い霧が次々と溢れ出す。


「えっ……。」


「まだ増えますの!?」


 通常Noise。


 一体。


 二体。


 三体。


 強化型の周囲へ集まり始める。


「囲まれた……。」


 ミソラの額を汗が伝う。


 息も荒い。


 喉も焼けるように痛い。


「どうしよう……。」


「どうすれば…いいんですの…」



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