第4話 テルミン・ブブゼラ・タイキック その4
ーーー放課後。
姫嶋学園、学園長室。
カタカタカタ……
ターン。
奏音先生は軽く息をついた。
「……ふぅ。」
「学園長先生。識戸ミソラさん及び綾小路ピスケさんに関する動画の削除依頼、完了しました」
デスクの向こうで、学園長が静かに頷く。
「ご苦労。」
「彼女たちはまだ学生だ。メディアへの露出は慎重にならねばならん」
「ええ。」
奏音先生も真剣な表情で頷く。
「彼女たちには、普通の学生として過ごす権利があります。」
「魔奏少女である前に、一人の少女ですから。」
「だからこそ、生徒たちを守れるのは我々しかおらん。」
「……はい。」
穏やかな空気が流れる。
その時だった。
ピコン。
「あら?」
奏音先生のパソコンに、新着動画の通知が表示される。
「また新しい動画が……?」
再生する。
『みなさーーーーん!!!』
「?」
『姫嶋学園高等部一年!!』
『識戸ミソラでーーーーす!!』
『応援よろしくお願いしまーーーす!!!』
画面いっぱいに満面の笑みのミソラ。
親指を立ててポーズまで決めている。
沈黙。
「……。」
「……。」
奏音先生がゆっくり立ち上がる。
「識戸ぉぉぉぉぉぉ!!!」
◇ ◇ ◇
その日の夜。
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智佳は自室のベッドに腰掛け、スマートフォンをぼんやりと眺めていた。
机の上には、真っ二つに折れたテルミン。
「……。」
何気なく動画アプリを開く。
おすすめに表示されたのは、今日撮影されたばかりの一本の動画だった。
『姫嶋学園高等部一年生! 識戸ミソラでーす!』
画面いっぱいに映る、満面の笑み。
『私、楽器も勉強も運動も、あんまり得意じゃないけど……』
智佳は思わず苦笑する。
「それ、自分で言うんだ……。」
けれど。
次の言葉に、指が止まった。
『それでも! 歌うことだけは誰よりも大好きなんです!』
『私が歌って、誰かが笑顔になってくれると嬉しいんです!』
『だから……応援よろしくお願いしまーーーす!!』
動画はそこで終わる。
智佳は静かに画面を閉じた。
「……。」
ふと、昔のことを思い出す。
まだ小学生だった頃。
テレビ越しに見た、一人の魔奏少女。
誰を救ったのかも。
どんな名前だったのかも。
もう覚えていない。
それでも。
『誰かの笑顔が見られるなら、それだけで私は嬉しいの。』
あの言葉だけは、今でも胸に残っている。
「……私も。」
智佳は折れたテルミンをそっと撫でた。
「もっと頑張らなきゃ。」
画面の中で笑うミソラへ、小さく微笑む。
「応援してるよ、ミソラ。」
◇ ◇ ◇
翌朝。
昨日とは打って変わって、澄み切った青空が広がっていた。
「おはようございます。」
不意に後ろから声を掛けられる。
「えっ?」
振り返ると、白いワンピースを身に纏った少女が立っていた。
黒く長い髪が風に揺れ、穏やかな笑みを浮かべている。
「昨日は大変でしたね。」
「あ……見てたんですか?」
「ええ。」
少女は小さく頷く。
「あなた、素敵でした。」
「わ、私は何も……」
「そんなことありません。」
「誰かを助けたいと思って行動できる人は、とても素敵です。」
そう言って、少女は柔らかく笑う。
「私、阿部野真理って言います。」
「転部智佳です。」
「ふふっ。よろしくお願いします。」
軽く手を振り、真理は通学路の向こうへ歩いていった。
「……不思議な人だったな。」
智佳はそう呟き、再び学校へ向かって歩き出す。
その背中を見送りながら。
真理は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
「友達。」
「これが……そういうものなんですね。」
その瞳の奥で、一瞬だけ金色の光が揺らめいた。
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【おまけ】
放課後、音楽室。
「ブオオオオオォォォォォーーー!!!」
「うるさっ!?」
勢いよく扉を開けたミソラが耳を塞ぐ。
「智佳ちゃん何してるの!?」
「あ、ミソラ。」
智佳は真顔でブブゼラを下ろした。
「テルミン壊れちゃったから……これしかなくて。」
「他に練習してるのはないの!?」
「他に練習してるの……タイキックくらいかな。」
「物理!?」
「奏器の練習しなよ!」
「……。」
「……。」
「……。」
「……な、なに?」
智佳は無言でブブゼラを口元へ運ぶ。
「……ぷぉん。」
「……くふっ。」
思わず吹き出すミソラ。
その瞬間――
デデーン♪
『識戸、タイキックー。』
「えっ!? なになに!?」
「ほいやぁ!」
スパコーン!!
「お尻がーーー!!!」




