第3話「出鱈目なリズム」 その4
二人の指先が触れた、その瞬間だった。
金色と桃色の光が螺旋を描きながら空へ昇る。
二人は同時に前を向く。
巨大Noiseが咆哮を上げる。
ドラムが鳴る。
そして、ミソラの歌声が空へ響いた。
---
♪ 解析済みのコード 破り捨てていけ
昨日までの正解なんて 今日にはもう無用だ
鼓動が暴走する 制御不能のこの感情
理論武装のその盾も 全部殴り壊してやる!
---
巨大Noiseが咆哮する。
黒い腕が振り下ろされる。
しかし。
‐‐‐
♪ 「どうして」なんて理由は 後からついてくる
今はただ 君に届く音だけを 鳴らしたいんだ
計算式が 追いつけないほど速く
私たちが生きている その証拠を刻むだけ
‐‐‐
ピスケがドラムを一打。
黄金の衝撃波が空間を震わせる。
ミソラの歌声が重なり、その衝撃波は一本の光となってNoiseを貫いた。
黒い巨体が悲鳴を上げる。
‐‐‐
♪ 静寂は怖くないよ 君がいれば
どんなエラーも どんなノイズも
二人で鳴らせば 奇跡になるから
壊れたメロディを 抱きしめて――
‐‐‐
街を覆っていた闇が少しずつ剥がれ落ちていく。
---
♪ デタラメなリズムで 世界を揺らせ
予測不能な 私の衝動!
愛憎もデータも 関係ないよ
心が鳴るなら それが答えだ!
限界なんて 吹き飛ばして──!!
君が
君が
「「大好きだよーーー!!」」
「「大好きですわーーー!!」」
---
二人の叫びと共に、黄金の光柱が天へ突き抜けた。
巨大Noiseは光に包まれ、その身体はゆっくりと崩れ始める。
「や、やった……!」
ミソラが安堵の息を吐く。
巨大な身体は音を立てながら崩壊し、残るのは掌ほどの黒い結晶だけ。
あと一撃。
あと一歩で完全に浄化できる。
その時だった。
――ギィン。
澄み切ったギターの一音が、街中へ響いた。
次の瞬間。
黒い結晶は抵抗する間もなく、真っ白な光となって消え去る。
「え……?」
ミソラが振り返る。
ビルの屋上。
夕日を背に、一人の少女が静かにギターを肩へ担いで立っていた。
長い黒い髪が風になびく。
その鋭い眼差しは、二人だけを見つめている。
「……終わりか。」
少女は小さくため息をついた。
「随分と手間取っていたようだな。」
ピスケが眉をひそめる。
「あなたは……。」
少女はゆっくりとギターケースを閉じる。
その表情に感情はない。
「この程度のNoise。」
「私なら、一音で十分だった。」
https://51629.mitemin.net/i1204400/
静寂。
そして。
少女は冷たく言い放つ。
「日本の魔奏少女とは。」
「この程度か。」
その言葉だけを残し、蒼い残光と共に姿を消した。
夕暮れの街に残されたのは、呆然と立ち尽くすミソラとピスケだけだった。
--
---
## 第3話おまけ
綾小路家の玄関。
帰り支度を済ませたミソラは、ふと堂道の顔を見上げた。
「あの……堂道さん?」
「何でございましょう、識戸様。」
執事はいつものように一礼する。
ミソラは恐る恐る口を開いた。
「失礼かもしれませんけど……。」
「その前髪って、どうなってるんですか?」
https://51629.mitemin.net/i1195100/
一瞬の沈黙。
堂道は真剣な表情で頷いた。
「江戸川家に代々伝わる、秘伝のヘアメイク術でございます。」
「伝統の業なの!?」
堂道は一拍置いて答える。
「……嘘でございます。」
「嘘なの!?」
堂道は静かに前髪へ手を伸ばいた。
「ええ。」
「本当はこちらです。」
すっ。
前髪が真っ直ぐになった。
「えっ。」
「なんでいきなり普通に!?」
堂道は何事もなかったようにリムジンのドアを開ける。
「こちらへどうぞ。」
「えっ、乗ればいいんですか?」
「はい。」
ミソラが乗り込んだ瞬間。
ドアが閉まる。
次の瞬間――。
ギュオオオオオオオオッ!!
「わああああああああっ!?」
リムジンがタイヤを鳴らしながら豪快にドリフトする。
「ちょっ!? 高級車で何してるんですかぁぁぁ!?」
さらに。
ギュイイイイイイイン!!
「んなああああああああっ!?」
メーターは二〇〇キロを突破。
街灯が線になって流れていく。
「止めてぇぇぇぇ!!」
数分後。
何事もなかったようにミソラの家の前へ到着。
堂道は静かにドアを開ける。
「到着いたしました。」
ふらふらになりながら降りるミソラ。
「い、生きてる……。」
ふと見れば堂道の前髪が元の、**物理法則を完全に無視した形**へ戻っていた。
「……こういうことでございます。」
堂道が静かに告げる。
「いや、全然――」
そこまで言いかけたミソラは、ふと車の窓に映った自分を見た。
「……え?」
そこに映っていたのは。
**堂道と全く同じ、物理法則を完全に無視した前髪**の自分だった。
「…………。」
一拍。
「えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!!?」
慌てて前髪を触る。
押しても。
引っ張っても。
水で濡らしても。
**びくともしない。**
「なんでぇぇぇぇぇぇ!?」
堂道は静かに一礼する。
「こういうことでございます。」
「どういうことなのぉぉぉぉぉーーーー!?」
--




