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髑髏夜行  作者: 海山 紺
プロローグ
4/6

第4話 孤独な夜

 寺院の正門には「どくろ塾」と雄壮な筆致で綴られた看板が掲げられていた。


 沙羅に連れられて門を潜り、庫裏くりと呼ばれる伽藍がらんに足を踏み入れた。沙羅曰く、伽藍とは寺の主要な建物を示し、庫裏はその伽藍の一つ――僧侶の居住場であるという。どくろ塾においては教員や塾生の宿舎として機能しているらしい。


「ここが来客用の部屋よ」


 智剣にあてがわれたのは、旅館に似た内装の和室だった。

 二人泊まっても十分くつろげるほどの広さがあり、浴室や手洗い場も綺麗に整えられていた。ご丁寧に布団もすでに敷かれている。


「私の部屋は一階にあって、ドアに名入りプレートがついているからすぐにわかると思うわ。何かあれば呼んで」

「え、えっと、君は……」

「ああ、ごめんなさい。まだ自己紹介していなかったわね。私は京極沙羅。できれば下の名前で呼んでもらえると助かるわ」

「……? わ、わかりました」


 なぜ名字で呼んではいけないのか、という小さな疑問が浮上したが、特段気にすることなくひとまず頷いておく。


「同い年だから敬語じゃなくていいわ。気軽に接して」

「う、うん。わかった……。あ、お、おれは志道智剣、です……」

「天花から聞いていたわ。双子のお兄さんだって。それと、極度の人見知りっていうのは本当みたいね」


 沙羅たちと邂逅した時は状況が状況だったのでそれどころではなかったが、いざ落ち着いた場で二人きりで会話するとなると自身の悪癖が出てしまう。

 本来の智剣は超がつくほどのコミュ障で、たどたどしい口調が常だった。他人と目を合わせるなどもってのほかである。


「そこまであからさまに視線を逸らされると流石に傷つくわね」

「ごっ、ごめん! こ、これはその……わざとやってるわけじゃ……」

「わかっているわ。人には得手不得手があるものだし、無理に直す必要はないと思う。だけど、少しでも視線を合わせてくれないと、何だかこちらが拒絶されているように感じてしまうから」


 沙羅の苦笑交じりな言葉に、智剣ははっとした。




『アイコンタクトは、ちゃんとあなたを見ていますっていう意志表示だよ』




 かつて、天花が教えてくれたことを思い出す。




『喋り方が変になっちゃってもいい。だけど、相手を見ようとしないのはいただけません。それは相手に対して誠実さを欠くし、拒絶するも同義だから』




 クラスメイトとうまくコミュニケーションがとれない兄に、妹は常に優しく寄り添い、励ましてくれた。片割れを失った今、課題を克服するには過去の助言に従って自分自身の力で乗り切るしかない。


 智剣は意を決し、おずおずと伏せていた視線を持ち上げた。

 清麗な銀髪が光る、大人顔負けの美しい佇まいをした美少女。目が合わさったことで、彼女は目元を細めた。


 異性なら余計に緊張してしまい、すぐに目を逸らしたい衝動に駆られる。だが、智剣は何とかぐっと堪えて、京極沙羅という少女を受け入れた。


「こ、これから気をつけるよ」

「焦らず、ゆっくりでいいから」

「う、うん。ありがとう」

「あ、着替えは箪笥たんすのなかにあるから自由に使って。朝になったらまた呼びに来るわ。それじゃ、私はこれで」


 再度、沙羅に礼を言い、智剣は彼女の背を見送って部屋に上がった。そのまま壁にもたれかけ、ずるずると腰を下ろす。


「おれは、これからどうずればいいんだ……」


 気持ちの整理が追いつかない。

 天花は髑髏になって葬送された。つまり、死んだ。

 自分はいま葬送師育成の私塾にいる。明日、カガリから詳細を聞くことになっている。

 複数の事実が頭を駆け巡っては散乱し、智剣を煩悶させた。


「……そうだ。母さんたちに連絡しないと」


 家族が寝静まった深夜に家を抜け出してきたので、今のところはバレていないだろう。だが朝になっても戻らないとなると、心配どころの騒ぎではない。

 携帯を取り出して電源ボタンを押すと、チャットアプリの通知がずらりと並んでいた。すべて母や父からのもので、今どこにいるのか、なぜ外に出たのかとこちらの安否を懸念するメッセージばかりだった。


「まずい……。バレてた」


 とりあえず、自分の生存報告をしておく。

 簡単な経緯を説明し、明日の昼以降に戻る旨を伝えた。そのまま携帯を畳に放り投げる。


 重い溜息を虚空に吐く。天花のことはまだ両親に伝えなかった。チャットで残酷な真相を告げるわけにはいかない。


「おれだって、まだ受け止めきれてないんだ」


 それに、愛娘の死を両親だってすぐに受け入れられるわけじゃない。

 それからしばらく虚空を眺め、茫然としていた。それからどれくらい経ったのかはわからないが、ひとまずシャワーだけでも浴びようと重い腰を持ち上げ、浴室へと向かった。


 箪笥に入っていた浴衣に着替え、布団に寝転がる。

 このまま起きていても苦悶に苛まれるだけなので、ひとまず寝ようと瞼を閉じる。だが、一向に睡魔はやってこない。


「……寒い」


 窓は開いていない。しかし、どこか肌寒く感じて、智剣は布団を着込んで胎児のように体を丸めた。

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