第25話 猫のいる風景
そして夜が訪れ、再び夢の中へ――
森……風に揺れて、木々の葉音が心地良い。
昨日までの城なんかは跡形も無く、360°木々が見えるだけだ。ここは、そんな森の中の、周囲5メートルぐらいのちょっとした空間。近くの木陰には委員長が座っている。
「おはようございます、緋影さん」
「おはよう。委員長が一番乗りか。何だか落ち着く場所だね」
「そうですね、もしかして現実では藥師士さんのお気に入りの場所なのでしょうか」
「うん、そうかもしれないね」
2人でくつろいでいると、ジワジワと理瑚が現れてきた。
「うわ、何だここ!暗っ!陰気臭ぇ〜」
う〜ん、ちょっと理瑚の趣味ではなかったみたい。
方向がわからなかったけど、何となく道ができていたので、進んでみると、無事県道に出ることができた。
「よ~し、探索開始!」
理瑚の掛け声で歩みを進める。町はいつもの様に静寂を保っている。
どれぐらい歩いただろうか?なかなか人に会うのは難しいと思うけど、やはり、今日も誰にも出会わないし、変化のある場所も今の所見つけられない。退屈してきたのか、理瑚がぼやき出す。
「いや〜、何も無いね。平和過ぎる」
「そうだなー、人も動物もいない町が、初めは新鮮だったけど、少し飽きてきたかな」
「私は好きですよ。この静寂」
「委員長は、能力で無音にするぐらいだからなー」
委員長が横目で理瑚をジロリと見る。
「ところで前から聞きたかったのですが、いつも背中に背負ってる盾は重くないのですか?」
「うん、慣れちゃったけど、そこそこ重いよ。持ってみる?」
「いえ、結構です」
委員長は眼鏡をクイッと上げる。
「あれ?ちょっとバカにしてるでしょ?この盾で舞のピンチを何度救ったことか!何でも防ぐからね」
まぁ、何度か救われたから間違いではないか。
委員長が顎に手を当てて暫く考えた後、首を傾げる。
「棚加さんの盾は、何でも防ぐと言いますが、緋影さんの剣は、何でも斬れるのでしょうか?」
「ん?あぁ、何でも斬れるよ。多分」
「棚加さんの盾に斬りつけたら、どちらが勝つのでしょうか?」
「えぇ!?そうだな、私かな?」
「ちょい待て!アタシの盾を舐めたらアカンよ。舞の剣だって受け止めちゃうからね」
「じゃあ試してみる?」
「望むところだ、オラー!」
その時――
「ニャアー……」
「うわぁ、ビックリしたぁ!なんだ猫か……って、猫〜!?夢の世界に猫がいるー!?」
理瑚が大騒ぎする。私もビックリだ。目の前には、真っ白な可愛らしい猫がいる。野良猫がいる事もあるのか?冷静な委員長が声を上げる。
「もしかして、誰かの能力ではないのですか?」
「あり得る。ヤモリやワニガメは西園寺の能力だと思う。巨大化はしてない普通サイズの猫だけど、やはり、この世界に動物がいるのはおかしいよ」
「あっ!」
私達が話してるうちに猫が裏道の方へ走り出した。
「取り敢えず、追いかけてみよう」
しかし猫のスピードに追いつけるのだろうか?
「ヤバイ、角を曲がった」
急いで建物の角を曲がると、道の先で猫が立ち止まっている。
猫は「ニャア」と、ひと鳴きすると、再び走り出した。
もしかして、私達を誘っているのか?
猫は距離が離れると、こちらを振り向き、見失わないように待ってくれているようだ。
これは罠か?それとも……。
暫く猫を追いかけて行くと、住宅街から少し離れた空き地のような場所に辿り着いた。そこには小綺麗な小屋が建っている。
「えっ?何か壁にくっついてる……カエル?」
よく見ると、1メートルぐらいで、緑と黒の禍々しいマーブル模様のカエルが窓の部分にへばり付いている。
「うわぁー、あれ絶対毒持ってるやつじゃん!」理瑚が震えながら叫ぶ。
「あれは多分ヤドクガエルです。皮膚に毒があるので、触ってはいけません」
流石委員長、物知りだ。しかし、また西園寺のペットだろうか?本当にどんだけ飼ってるんだ?
すると、カエルが首を傾け、ジロリとこちらを睨む。
見つかった!――カエルは、こちらに向かって、大きく跳ね上がる。凄いジャンプ力だ!
「うわっ、うわっ、理瑚ぉー、盾で防いで!」
「やだよ、盾に毒が付いちゃうよ!」
「ゲコッ」
地面に降りたカエルが、再び空高くジャンプする。
「あぁ、ここまで届きそうです!」
く〜、私か?私が斬るしか無いか?
「えぇい!理瑚と委員長は下がって!」
私は着地点へ進み出ると落ちて来たカエルを一刀両断した。
「あぁ!」
ブシュッと鈍い音を立て、カエルを真っ二つにしたが、体液のようなものを頭に浴びてしまった。
「毒ー!?」
ヤバイ、こんなところで終わりか?
委員長が叫ぶ。
「緋影さん!多分すぐ流せば大丈夫です。あの小屋に行ってみましょう!水道があれば、洗い流せるかもしれません!」
私達が急いで小屋まで行くと、さっきの猫がドアの扉を爪でガリガリ引っ掻いている。
すると、様子をうかがうように、少しだけドアが開き、猫が中に駆け込む。
中には人がいるのだ。
「あっ、あの!水を――シャワーを貸してくれませんか!」
必死に声をかけると、ドアの隙間から、自らも猫耳を付けた女の子が顔を見せる。
この子は――クラスの望月 瑠奈だ!
「あっ、望月さんだね!舞がカエルの体液を浴びちゃってさ、シャワーで流したいんだ」
最悪、壁を破壊して無理矢理入り込めばいいが、穏便に済むなら、その方が良い。理瑚の呼びかけに、少し間をおいて望月さんが反応する。
「……いじめる?」
「えっ?」
「あなた達、ネコちゃんいじめる?」
「イヤ、いじめない……いじめないよ」
ちょっと、反応に困ったが理瑚が答える。
「……どうぞ」
望月さんは、躊躇いつつもドアを開いた。
「ありがとう!失礼しま〜す――って、ワァー!」
初めに入った理瑚が大声を出す。見ると部屋の中には、沢山の猫がたむろしている。
「わぁー、ネコちゃんがいっぱいいます!可愛い!」
委員長が黄色い声を上げる。こんなテンションの委員長は初めて見るなぁ、可愛らしい一面もあるんだね。
望月さんは、そんな様子を見て満足そうだ。 それにしても、望月さんはクラスでも可愛い感じの子だが、猫耳なんかを付けて、ちょっとあざとい。服装は胸にリボンの付いた白いワンピースにニーハイだ。もう少しスカートの丈が短かったら委員長が黙っていないだろう。
「シャワー、あっちにあるよ。タオルもあるから自由に使って」
何だかたどたどしい口調の望月さんに促されて、バスルームに向かう。
シャワーのスイッチを捻ると、ちゃんと温かいお湯が出てきた。
「助かった〜」
私は制服を脱いで、前かがみになり、頭だけシャワーをかけ、髪についたベトベトした緑色の体液を洗い流す。幸い、特に毒の影響は無さそうだ。
制服にも体液が跳ねているので、お湯で擦って落とした後、洗面所にあったドライヤーを借りて、それなりに乾かす。
まぁ大丈夫でしょう。明日になれば服はきれいになってるし。
「いやぁ~、助かったよ、ありがとう――って、凄い和んでるね!?」
部屋に戻ると、望月さんと理瑚と委員長は、仲良く紅茶を飲みながら、猫達と戯れている。
「あぁ、舞ちゃん、こちらこそありがとう。あのカエルには参ってたんだ。今、紅茶いれるね」
そう言って望月さんはキッチンの方へ向かった。
どうやら私達に敵対する気は無いみたいだな。皆に紅茶まで入れてくれるなんて、友好的な関係を作れそうだ。
しかし、バスルームやキッチンまで装備された、この小屋は、なかなか居心地が良さそうだな。猫達も可愛いしね。




