第24話 VS ハレンチなコスプレの女 藥師士 朱里
「それじゃあ舞、頑張ってね!」
「緋影さんなら負けないと信じてます!」
2人からエールを受け別れると、言われた通り西門に向かう。
「ここだよな……うん、『WEST GATE』って書いてある」
しかし、こんなの良く出現させられたな。余程思い入れがあるんだろう。
私は西門の暗い廊下を抜けると、直径50メートルぐらいはあるだろうか、広々とした闘技場に足を踏み入れた。周囲は360°階段状の観客席になっていて、理瑚と委員長がちょこんと座って、声援を送ってくれている。
しかし凄いなここは、イタリアのコロッセオを近未来風にしたような壮厳さがある。ちょっとテンション上がってきたぞ。
「待っていたわ、挑戦者よ!」
私がキョロキョロしていると、向かい側のゲート近くで仁王立ちしている藥師士 朱里が、早く用意をしろと言わんばかりに声を上げ、イライラと足を踏み鳴らす。
「もう、本当に待ったんだからね、3日ぐらい1人で待ってたのよ!」
「お前それは立地が悪いからだろ!郊外の森の中なんて、なかなか気づかねーよ!」
理瑚が観客席から野次を飛ばす。
「もういいわね!では、いざ勝負!パッション・マチルダ MarkII 参る!」
有無を言わさず、藥師士がズラリと腰から大剣を抜き、こちらに向って走り出す。
「……!」私は気を取り直し、右手を振る。「ズギャンッ」と鋭い音と共に剣を出現させ、藥師士を睨む。
今まで何人もこの剣で打ち倒してきたんだ。こんなコスプレ女に負けるわけがない。
もう少しで剣の間合いというところで、走りながら藥師士が何か叫ぶ。
「神速ヴェロシティ!」
すると、藥師士のスピードが格段にアップする。
「えっ?」
「ガキーン!」藥師士が振り降ろした剣を寸前のところで、右手の剣で受け止め弾き返す。
「あ、危ねぇー、スピード上がってんじゃん」
観客席から理瑚の声が聞こえる。
「ク〜、いきなりスキルを使うとわね」
えっ、スキル?
「初撃を良く防いだわね。まだまだ行くよ!」
藥師士は間髪いれずに、スピードを活かして大剣を振りかざす。こちらは剣で弾いて防ぐのが精一杯だ。
「フンッ、では、これならどうだい?――剛力トリメンダス!」
再び藥師士が叫び、剣を振り降ろす。
何か異様な圧を感じ、前転しながらかわすと、振り降ろされた剣は地面に亀裂を作る。
「パワーアップ!?」
片膝をついた私に、もう一撃放たれる。
咄嗟に後方に飛んだが、左右に振り抜かれた剣が腹部をかすめる。
「あ、痛っ……」
破れた上着から覗く腹部に血がにじんでいる。
「マチルダめ、スキルの連投かよー」
再び理瑚の声だ。
「て、だからスキルって何?ゲームの中のバフみたいな奴?私も出来るの!?」
「スキルはキャラ固有だからね、多分出来ないよ」
「ズルくないソレ?」
話しながらも藥師士の連撃を避ける。息が上がってきた、ちょっと駄目かもしれない。
「諦めないで舞!初めの『神速ヴェロシティ』の効果時間は1分だよ。もうすぐ切れるはず!」
理瑚の言った通り藥師士の動きが急に遅くなった。これなら……!
「もらったァ!」
大藥師士の大振りな一撃をかわし、必死に伸ばした右手の剣が藥師士の胸を貫いた。
しかし!
「瞬回リジェネレーション!」
藥師士が叫ぶと、みるみる傷が塞がっていく。
「よくもやってくれたわね!」藥師士は再び剣を振るい出す。
「何これチートじゃん!」
観客席の理瑚を睨む。
「あー、そうだマチルダは『再生』持ってるんだった。でも、使えるのは1ゲームで1回だけだよ、もう少しだ頑張れー!」
何だかなー、やっぱ環境作った奴の有利に出来てんだね、安請け合いして失敗だったよ。でも、スキルの効果が切れた状態なら私の方が速い、この勝負いける!
徐々に私の方が押していき、マントもボロボロになった藥師士は、苦しそうに息をしている。
「クッ、マチルダがここまで追い詰められるなんて――初戦からこれを出すことになるとは思わなかったわ!」
そう言って、いきなり後方に走り出し距離を取ると、剣を両手で高く掲げ、何やら呪文のようなものを唱えだした。
「天空に仕えし我が母なる星の精霊達よ……」
それを見て理瑚が叫ぶ。
「あー!既にゲージが溜まってたのか!ヤバイよ、一撃必殺のアルティメットスキル来るよー!」
「だから!知らねーのよ、このゲーム!」
恐らく時間か手数でゲージが溜まる必殺技だろう。避けられるのか不明だ、初見殺しすぎる。
「もう、破れかぶれだ!」
私は詠唱している藥師士に向って走り、大きく跳躍すると右手を真横に振り抜いた。
「ザシュ!」という鈍い音と共に藥師士の上半身は、腰から下を残し空中に舞い上がった。
「ここ見せ場なのに……」と、言葉を残し藥師士は光の粒になって消えていった。
「ヤッタ!緋影さん!」
観客席から委員長と理瑚が駆けつける。
「舞、やったな!しかし、アルティメットスキルの詠唱中に斬りつけるなんてね。あれ、アニメーションで演出されて、一番の見所なんだよ」
「うるさい!ゲームみたいに待ってられるかってーの!まったく、危なかったよ。もう、理瑚さぁ、色々知ってるなら先に教えてよね!」
「ゴメーン、何かゲームの世界が再現されてて、夢中になっちゃってね」
理瑚は頭を掻きながら舌を出す。
まったく理瑚は観戦気分なんだから……でも、私も安易に相手のフィールドで戦ったのは軽率だったね。これから気をつけよう。
委員長が心配そうに声を掛ける。
「緋影さん、お腹の傷は大丈夫てすか?」
私はチラッと服をめくって確認する。
「あぁ、少しヒリヒリするけど、大したことないよ。多分、次に夢の中に入ったら直ってるよ。服も直るしね」
「へぇ、便利なんですね、夢の世界。やり方は間違っていますが、今の藥師士さんみたいに、自分の思い描いた事だって実現できるし。この世界を制覇したい気持ちも、わかるようになってきました」
「おっ、委員長も何か欲望が出てきたかな?藥師士のコスプレも悪く無いと思い始めたとか」
理瑚が茶々を入れる。
「そんな訳無いでしょ、もう!棚加さんだって、やりたい事は無いんですか?」
「ん?アタシはね、こうして友達と街を探索するのって楽しいなーと思い始めてるよ。こんな命懸けのバトルは無くていいんだけど、無駄話しながら、ブラブラするのっていいなーってね」
私も理瑚の言う事はわかる。特に目的が無くても良くて、仲の良い友達と同じ時間を過ごすだけでも悪く無い。
「ところで、今日はもう疲れちゃったな、ここまでにしようか」
「うん、そうしよう。舞には体調を万全にしてもらわないとね。頼ってばかりで申し訳無いけど」
そう言う理瑚に、「本当だよ」と、心の中でツッこむ。
「あのー、あそこのお城に行ってみませんか。ゆっくり出来るかもしれません」
委員長は遠慮がちに藥師士が発現させた城を指差す。
「あのお城ね、確かに立派だよね~。でも、委員長もお城とか興味あるんだね」
「いえ、ゆっくり出来そうだなと思っただけです」
委員長は、そう言いながらも、少しワクワクしている。
「コスチュームの予備とかあるかもね、もっと過激な奴。あったら委員長着てみる?」
「着るわけないでしょ!棚加さん、ハレンチですよ!」
理瑚はそれを言わせたいだけだろ。そんな事で今日は藥師士の城に泊まることにした。
期待をして行ったのだが、このお城が立派なのは外見だけで、中はどこもハリボテみたいにスカスカなうえ、家具もベッドも無かった。仕方ないから今日は3人で床で雑魚寝だ。
外見に力を入れていたので、中まで気が回らなかったのか、それともこれから発展していく途中だったのだろうか。どちらにしろ発現者のいなくなったこの城とコロシアムは、明日には消えるのだろう。ちょっと、もったいない気もする。
――朝、気持ちの良い目覚めだ。パジャマをめくり、お腹を確認する。
うん、切れてない。やっぱり夢の中の怪我は無かった事になるみたいだね。
因みに、服も変更出来ない分、破れたりしても、次回には元に戻っている。
学校の制服、気に入ってるわけじゃないんだけどなぁ。
今日は日曜日。夢で見た城とコロシアムが、実際どんなとこなのか気になるが、わざわざあんな遠くまで行くのは面倒くさい。外は暑いしね。
理瑚と委員長は何して過ごしてるんだろう?そういえば連絡先の交換とかしてないや。あんなに学校が苦痛だったのに、早く月曜にならないかななんて、少し思ってる。
そんな事を考えながら、この日はいつものように、1日ゲームをしたり、スマホで動画なんかを見てダラダラと過ごした。




