第22話 静けさの向こう側
朝、今日は土曜日なので学校は休みだ。普段の私は出不精なこともあり、休みの日でも、一歩も外に出ない日もあるのだけど、今日は午後から何となく外に出てみようと思う。
もちろん夢の中と違って、好きな服を着る。私はTシャツとハーフパンツに着替えると、自転車に乗り、夢の中で歩いた道を振り返りながら走った。車が走り、人々が行き交う町は逆に新鮮な気がしてしまう。
委員長の家の前まで来た。「上條」と表札が掲げられている。夢の中とは違い、いたって普通の建物だ。当たり前だけど。
少し眺めて、すぐ自転車を漕ぎ出す。現実世界で、昨日初めて話した相手を呼び出す勇気は無いし。
丘の上に高い木のある公園に着く。公園では子供たちが走り回っている。沢渡がいた丘の上まで歩いてみる。沢渡を斬った時、後ろの木にも傷がついたのだが、もちろんそんな跡は無い。
夢と現実で同じ場所に立つのは変な気分だ。何だかどっちが現実だかわからなくなりそうだ。いや、今の私にとっては、どっちも現実みたいなものだ。
この街は、引っ越して来て以来、あまり良いイメージが無かったけど。今は何だか悪く無いかなって思える。
9月の初旬はまだ残暑が厳しい。現実は夢の中と違い、たくさんかいた汗でTシャツが湿ってくる。
今日はこのへんにしておこう。私は家路に着いた。
そして夜、今夜も夢を見る。
「やっと来ましたね」
委員長の声で夢の中で目覚める。
「おはよう、もう2人共来てたんだね」
「おはよう?挨拶はおはようなのか?まあ、いいか、おはよう舞!」
理瑚は相変わらず元気だ。
「今日は何処に行こうか?」
全くアテは無い。私達は学校には近づかないように探索をしている。結果、学校を中心として円を描くように歩いている。
「まぁ、昨日の続きだね、のんびり行こう」
何だか仲間が増えて、心に余裕が出てきた。とは言っても、東翔宮なんかに出くわしたら対処のしようが無いんだけど。
大通りの方に出ると、店舗等が並んでいる。
「なんか喉渇かない?コンビニに入ろうよ」理瑚がコンビニに誘う。
夢の中では、お腹が空いたり、喉が渇いたりしないが、現実の感覚からすると何となく飲みたくなるのもわかる。
「よく考えたら、飲み放題だし、食い放題だよね?この近くに服屋さんもあるけど、好きなの着放題じゃない?」
「そうだね、でも、服は着替えても、次の日は元に戻ってるんだろうな」
「もしかして、本屋は現実と同じように品揃えも更新されるのでしょうか?」
委員長が話に加わる。
「うん、寝る前の世界のままならそうなるよね」
「緋影さん!私達で夢の世界の制覇、頑張りましょう!」
委員長は目の色が変わり、俄然やる気を見せる。
建物とかは現実と同じだから、夢の中ならやりたい放題できるんだな。今は、いつ誰が襲ってくるかわからないから落ち着かないけど、もし、夢の世界を制覇したら、色々試してみたい。
暫くコンビニでくつろいだ後、気になる店を少し覗いたりしながら1時間ぐらいは歩いただろうか、現実ほど足が疲れない気がするのは良いところだけど、今日は誰とも出会わない。それもそうか、クラスのメンバーは、もう殆ど残っていないからな。でも、クラス以外の人に会ってもおかしくないんだけどね。そういえばホークの姿も、あれ以来見ないな。
町を抜け川沿いの道を歩く。川幅8メートル程の穏やかな川で、川に沿って歩道が整備されている。
「私、休みの日によく散歩をするのですが、この道好きなんですよね。鴨なんかも泳いでいて可愛いんです」
「あー、いいよね川沿いの道って、視界も広いし。どこまで続いてるのか行ってみたくなる」
そう思うだけで、行動には移さないのだけど。
「あれ、ちょっと待って!川の中に何かいない?」
理瑚が指差す方を見ると川の中に黒い影が見える。その影はみるみる大きくなり、水しぶきと共に水面に顔を出した。
「カメ!?しかもワニガメか!」
全長2、3メートルはあるワニガメが堤防を登り、グングン私達の方に近付いてくる。これも西園寺のペットか?
「ウワー!恐竜かよ、あんなのに噛まれたら終わりだよ!舞〜!」
理瑚が情けない声を上げる。
何でも食い千切れそうな頑丈そうな顎と凸凹した堅そうな甲羅を持つ、そのワニガメは一気に道まで上がって来ると、私達の行く手を阻む。
「コイツ、凄い堅そうな甲羅だよ!舞の剣でも斬れるかなぁ?」
理瑚が盾に身を隠しながら話す。
「舐めるなよ、私の剣は何でも斬れる!……はず」
実際やってみないとわからないからね。でも、いける気がする。
「私に任せて、2人は後ろに下がって!」
私は右腕を振り、「ズギャン」と剣を出現させてワニガメに立ち向かう。
正面は危険だ!首の届かないところまで回り込むんだ。
だが、ワニガメは胴体を中心に体を回転させながら、常にコチラに顔を向け、大きく口を開いて威嚇する。
なかなか隙がないな。剣に噛みつかれたりしたらヤバイし……。
「舞!行くよー!」
その時、掛け声と共に、理瑚がワニガメに向かって盾を放り投げた。ワニガメは、反射的に飛んできた盾に噛み付く。
「ナイスだ、理瑚!」
私は一気に距離を詰めると、甲羅ごと胴体を真っ二つに斬り裂いた。
ワニガメは光の粒になって消え、道にはガランガランと音がして盾が落ちる。
やった、あえて甲羅を斬ってやった。やっぱり私の剣に斬れないものはない!
「わぁ、2人共ナイスコンビネーションですね!」
委員長が感嘆の声を上げる。
「まぁねー、アタシと舞が組めばこんなもんよ」
理瑚が格好をつけながら盾を背負う。いくら格好つけても、その盾では格好つかないのは黙っていよう。
それは置いといて、確かに理瑚とは相性がいい気がする。私の硬い甲羅でも斬り裂く剣と、理瑚の噛みつかれても、凹んだりしない盾っていうのもいい組み合わせだ。
理瑚が話しかける。
「それにしてもカメまで襲ってくるなんてねぇ。よくあんな水の中からアタシ達のこと見つけたよね」
確かに、イグアナ、ヤモリ、そしてカメ……この広い街の中で、こんなに遭遇するなんて、偶然ではないのかもしれない。
委員長が口を開く。
「緋影さん、私の家もヤモリに襲われましたけど、この爬虫類達には、もしかして人を探し出せる能力があるのでしょうか?」
「やっぱり委員長も思った?そうじゃなきゃ、こんな頻繁に襲われるはずないもんね」
「マジか!?それも西園寺の能力って事?」
「かもね、本人を倒すまで常に襲われる危険があるわけだ」
「ク〜、コッチは奴の位置がわからないからな〜、やられっぱなしだよね~」
理瑚がしかめっ面をして頭を掻く。
「でも、緋影さんと棚加さんがいれば、爬虫類程度なら敵じゃないですね」
「ま、まぁね〜、委員長もよくわかってきたじゃないかー」
また、理瑚はすぐ調子に乗ってー。確かに、今までの爬虫類程度なら何とかなりそうだけど、西園寺がまだ、夢の事をハッキリ認識してなさそうなのが気になるところだ。




