第14話 異能干渉戦線
歩きながら理瑚が話しかける。
「しかし、とんでも無い事だよね、夢が現実に影響するなんてさぁ、夢の事ハッキリ覚えてるのが昨日からなんだけど、毎日この夢見なきゃいけないの?」
「そうなんだよ、私はもう少し前から覚えてるけど、大変だったよ、イグアナやヤモリにも襲われたりして」
「ハァ!?何それ!人だけじゃなくて自然界の脅威もあるの?」
「いや、多分四天王の西園寺のペットが、巨大化したのかな?イグアナに齋藤 心奈が喰われるとこも見たよ」
「マジすか!?エグッ!齋藤 心奈は彼氏とラブラブアピールがウザかったから、いいけど。舞は襲われて大丈夫だったの?」
「うん、ギリギリだったけど、斬ってやったよ」
私は少し自慢気に剣を振るポーズをする。
「カッケー!流石だね。でも、西園寺に恨まれてたりして」
「ん〜、何か人によって夢の記憶に差があるっぽいんだよね、西園寺は夢の事覚えてないっぽい」
これは謎だな、理瑚も昨日から覚えてるって言うし、能力をちゃんと発現した人は覚えていられるんだろうか?
暫く歩くと、建物の向こうの方から何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「誰かいるみたいだよ。舞、ちょっと行ってみよう」
私と理瑚は、気付かれないように建物の影から覗いてみる。
「あー、アイツらじゃん!うーわ、他のグループと戦ってんだよ!」
見ると、理瑚が言っていた漫研と思われる3人が、それぞれキャラっぽい格好をして暴れている。相手はユニフォームからして陸上部で、4人もいるようだ。よく見ると、昼間机にぶつかってきた早見唯もいる。
キョロキョロしながら理瑚が話しかける。
「それに、こんなとこあったかな?オリンピックも出来そうなぐらい立派な陸上のトラックだよ」
「あぁ、能力者の影響で、実際の建物とか環境も変わることがあるみたい。陸上部の奴らの影響だろうね」
「そうすると、陸上部に有利なのか?あの4人は県大会とかのリレーでかなりいい成績出してるらしいしね。もう少し近くに行ってみよう」
私達はトラック近くのフェンスまで行って、隠れて様子を見る。
「うわっ、凄いな本当に腕が伸びてるよ!」
麦わら帽子を被った漫研の麦原 未海が両腕を伸ばして連続でパンチを繰り出している。かなりのスピードと射程距離だが、陸上部の4人は、容易く、そのパンチを掻い潜る。
陸上部の奴等も、ただ足が速いだけじゃないな。あの瞬発力とスピードは人間の出せる速さじゃないぞ、能力なのか?
余裕の笑みを浮かべながら、陸上部の早見 唯が、声を上げる。
「練習した甲斐があったわ、私達は無敵よ!ハイ、麻砂美!」
そう言ってバトンを同じく陸上部の松田 麻砂美に渡す。
すると、早見のスピードがもう1段上がる。
「そう、時間をかければかけるだけ私達が有利よ!ハイ、美和!」
今度は陸上部の志茂 美和にバトンを渡すと松田のスピードが上がる。
「──波ッ!」金髪でツンツンした髪型の、漫研の空後 紗里弥が、エネルギー弾を何発も飛ばすが、志茂は軽々と避ける。
エネルギー弾は地面に炸裂し、砂埃が舞う中、志茂は空後の背後を取る。
「遅い!遅い!」
志茂は、勢いに任せて背中に飛び蹴り蹴りを入れると、空後は顔から地面に倒れ込んだ。
「イッテー!……でも、オラワクワクしてきたぞ!」空後は片膝をつきながら、ふてぶてしいセリフを吐くが、かなり効いているようだ。
「フンッ、もう少しよ。もう、2週ぐらいで、奴らをブチ殺せるパワーになるんじゃない?ハイ、誌保!」
今度は志茂が陸上部の4人目、土岡 誌保にバトンを渡す。
「わっ、わっ、なんだコレ!?漫研押されてんじゃん!」理瑚がうろたえる。
「あのバトンを渡す度に陸上部の奴ら身体能力が上がるみたいだね。上限が無いとしたら、かなり凄い能力だよ」
いきなり『身体能力が上昇する』という能力だと、唐突すぎて、うまくいかなそうだけど、バトンを回す度に上昇するなら、イメージしやすくて実感できそうだ。これは、陸上部4人でかなり戦略を練ったと思われる。
「ヤレヤレだぜ」
黒い学帽を被った漫研の城之内 徐杏の近くには、ギリシャの彫刻のような体の分身がいて、重そうなパンチを繰り出すが、やはり陸上部の4人は難無く避ける。
漫研の3人の攻撃は多彩で、一撃の破壊力はかなりのもののようだが、陸上部の身体能力が勝り、当てることが出来ない。
逆に陸上部は、走り回りながらも見事なチームワークで何度もバトンを繋いでいく。
「もういいでしょ、すっごい力がみなぎってるのを感じるわ。そろそろ行くよ!」
私達が見始めてからバトンが2週程回ったところで、松田 麻砂美が攻撃に転じる。
素早く麦原 未海のパンチを避け、懐に入ると、腹に思い切りパンチを食らわした。
麦原の体は、ありえない角度でくの字に曲がるが、ニッと笑う。
「おれに打撃は効かない、ガムみたいに伸びるからね!」
麦原は、驚いて動きの止まった松田 麻砂美にパンチの連打を浴びせる。
「ガムガムの銃乱打!!」
この距離では逃れようも無く、ボコボコに殴られた松田は光の粒になって消えてしまった。
「麻砂美!そんな……このクソオタクが!」
バトンを持った早見 唯が、近くにいた城之内 徐杏の分身に殴りかかったが、立体画像を殴ったかのように空振りしてしまう。
「そいつは人間には干渉出来ないぜ。そいつは側でスタンダップしているところから、”スタンダ”と呼んでいる。スタンダを倒せるのはスタンダだけだ」
城之内がそう言うと、スタンダが早見にパンチのラッシュを叩き込む。
「オリャオリャオリャオリャオリャーッッ!」
早見は漫画みたいに数メートル吹っ飛び、光の粒になる。同時に持っていたバトンが地面に落ち、乾いた音を立てる。
「あー!唯のバカ!バトン落としやがった」
「能力が解除される……」
どうやらバトンを落とすと上昇した身体能力がリセットされる仕組みだったようで、残った志茂 美和と土岡 志保は、何の抵抗もできず、あえなく倒されてしまった。
「うわ〜、陸上部全滅したよ、やっぱ漫研の能力は凄いな、ほぼ漫画の主人公の能力そのままだもんなー」
私が脅威を感じていると、横で理瑚が顎に手を当てて唸る。
「う〜ん、やっぱ流石だな、ちゃんと著作権に引っかからないように技名とか変えてるよ」
「えー!?注目するとこそこ?」
「うん、漫研と言ってもパクリはいけない。奴等のはオマージュだから問題無いね」
いや、ギリギリだけどね。そもそも、夢の中なんだから気にすること無いと思うけど。
漫研の3人はお互いの健闘を称え合うようにトラックのスタート地点付近に歩み寄る。私達はそっと聞き耳を立てる。
「結構危なかったよなぁ、未海リンのお陰だぜ」
「いやぁ、でも、あいつガム人間に打撃は効かねーの知らねーのかよ。名作はちゃんと履修しとけっての」
「本当だな、やっぱスポーツばっかやってる奴は、頭わりーよ。知識がねーし、機転も効かねー。オラァもっとツエー奴と戦いてぇゾ」
「シシシ、本当にオメーは戦闘狂だな」
麦原 未海と空後 紗里弥が笑い合う。スポーツやってる人に対する酷い偏見だな。しかし、コイツらいつまでキャラになりきってんだ?
城之内 徐杏が、何か言ってくれというように、学帽のツバをつまんでポーズをとっているのを、麦原が気づき、声をかける。
「徐杏がバトンを持った早見を仕留めてくれたのが決め手だったよな!」
「いや、危なかったぜ、紙一重って奴だ」
城之内はおもむろに、早見が落とした地面に転がっているバトンを見て呟く。
「てめーの敗因は、たったひとつだぜ早見、たったひとつの単純な答えだ……てめーはおれを怒らせた!」
「お前、それ言いたいだけだろ!!」
ドヤ顔でキャラの名言を言う城之内に、理瑚が思わずツッコむ。
「ちょ、ちょっと理瑚!」
一斉に3人から視線を浴びる。ヤバイ見つかった……!




