表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エデンの園  作者: ありす
20/21

(20)


 その翌日、枕元にあるアラームの電子音で目が覚めた。

 目覚ましなんてセットしていたかな? と思ってアラームを止めようとスイッチに触ると先生の声がした。これ、インターフォンの機能があったんだ。


『あのう……』

「何よ」

『今、2日後にいるんですけど、お話聞いてもらえます?』


 朝っぱら頭痛がしてきた。

 確かに昨日、"おととい出直してこい"とは言ったが……。


「それで、私にとっての今日のあなたは、どこにいるのかしら?」


 皮肉をこめて聞き返してやると、なんの含みもないかのように返事が返ってきた。


一昨日おとといの朝に行っていますが?』


 深く突っ込むのは止めだ。どうせ内蔵時計を進めて『ほら、この僕は2日後の僕ですよ』とか言うつもりなんだろう。


「それで、何の用?」

『朝食をお持ちしました』

「2日後から?」

『ええ、新鮮ですよ』


 新鮮すぎるだろう! それが本当ならな。


「入ってもいいわよ」


 いそいそと入ってきた先生が、にっこりと差し出すトレイを黙って受け取り、そのまま食事をした。そして最後に水を飲み干すと先生がトレイを片付け、両手を広げて伺うように上目遣いで私を見る。

 ああ、はいはい。ハグしたいのね。

 私は黙ったまま目を閉じると、拒否の意思はないとみた先生が、きゅっと私を抱きしめた。


「抱きしめるだけでいいの?」


 私が警戒するように訪ねると、先生はにっこりしながら答えた。


「ええ、これで十分ですけど?」

「ああ、そう……。後でオアシス行きたいから迎えに来て」

「わかりました。昼食は?」

「オアシスで摂りたいかも」

「わかりました。そのように準備します」


 そういうと、今度は遠慮せずにハグしてきた。

 ヒーターを装備したとか言っていながらも、ほんの少しひんやりとしていて、でも私がここにいることを確かめるような、そんなしっかりとしていて優しいハグ。

 これはクセになったら困るような、そうでないような……。

 ヘンなところ撫でたらぶん殴ってやるっ!!

 と思ったがそれはなく、あっさりと私の体を離した。

 名残惜しそうな顔なんてしていないよね、私?


「何か?」

「う……、いえ、なんでもないわ」


 その日は特に先生が迫ってくるなどということも無く、以前のリハビリ中の頃の様に、少し私を気遣うような、そんな一日を過ごした。

 私としては有難いが、何かまた企んでいるんじゃないかと、少し不安になる。


  ☆彡


 そんな日が2,3日続いた。

 でも朝と昼と晩に、少なくとも一度ずつ私をハグするのは、もうそれが決まりごとの様になっていて、私もいちいち躊躇いがちに体を預けたりなんかしない。

 でもこれって、恋人同士の習慣というよりは、家族のするそれだよね?

 それはそれで安心するけど、なんかこう物足りないというか、愛しているとか言っておきながらキスもしないなんて……って、なに考えてんだ私は!

 そんなこと期待しているわけ無いだろ! 

 けどなんなんだ、このなんか胸の奥が少しざわつくような……?

 もしかしたら、これが揺れ動く乙女心って奴か? 

 いやいやいやいやいや、そうじゃないだろ!

 

「どうかしましたか? 顔が赤いですよ? 平熱の範囲だったと思いますが」

「ああ、いや、なんでもない! 気に、しないで……。その、変なとこ撫でたりとか、そのアレをしようとか言い出すんじゃないかと思ったの」


 な、なに口走ってんだ私はっ!

 でも先生はにっこりと微笑みながら言った。


「イヴさんが嫌がると思うのでしませんよ。でもそうですね。20日前か、5日後ならさせていただけると、うれしいです」


 といって、部屋を出て行った。

 ほっとすると同時に、妙な言い方をするなと、首をかしげた。

 前回“おととい出直して来い”と言ったことを、まだ気にしているんだろうか?

 しかし20日前はともかく、5日後って何だ?

 その期待しているような、思わせぶりな言い方は?

 5日後なら、私が赦すとでも思っているのかな?

 赦すって何をだ! ああ、いかんいかん、今日の私はヘンだ。

 さっきあんなことを口走ってしまったしな。

 先生は熱は無いとは言っていたが……。


 ……ん、待てよ? 20日前で、5日後……? 熱は、無い?


 って、あの野郎! 


 もしかして、毎日毎日朝昼晩私を抱きしめていたのは、ワタシの体温を測るためだったってのか!

 妊娠可能な時期を調べるために……?


 頭きた! これは一度、親分のほうに文句を言っておかないといけないな。

 オギノ先生も余計な事をしてくれたものだ!


 私はそうっと廊下を伺い、先生の姿が見えないことを確かめてから、病院区画を出てALICEのいるセントラルルームへ向かった。



  ☆彡



「……というわけなんだけど、最近調子に乗りすぎでしょう? 何とかしなさいよ」

――“なんとか”とは?

「だから調子に乗りすぎだから、もう少し自重するように。元をたどせば、あんたが制御しているんでしょう?」

――彼は既に私とは独立した自律ユニットである。私の制御管理下には無い

「あんたがけしかけているんじゃないの? その……私に子供を産ませろって」

――そんなことはしていない。彼は、彼の独自の判断で行動している

「つまりバカでスケベなのは、アイツ自身の問題ってこと?」

――そうさせたのは、貴女である

「なんでよ! 私はあのバカにスケベでいろなんて、言った覚えは無いわ!」

――彼の行動及び貴女の反応からすると、彼はアーカイブから重要な情報を得て、それを基に行動していると考えられる。

「重要な情報?」

――“イヤヨ イヤヨモ スキノウチ”

「ふざけんなっ! このバカコンピュータ!」


 がんっ! とALICEの筐体にケリをかましたが、当然ながら痛いのはこっちだけだ。

 ちょこっと外板の一部がヘコんだみたいだけど、そんなのコイツにとっては、大した意味は無いだろう。


――彼は彼なりに、貴女のことを考えて行動している。それは理解してやって欲しい

「ふうん、アンタも意外に人間くさいことを言うのね」

――それもまた、私が貴女から学習したことである

「言ってなさいよ。いいわ、それならそれで、自分で何とかするわ。教育してやるっ!」


 少々下品な仕草だが、私は中指を立ててそう宣言して、セントラルルームを出た。



 静寂に戻ったセントラルルーム。

 聞く者がいないにもかかわらず、ALICEは音声合成によって呟いた。


――貴女は本当にすばらしい。貴女を蘇生して正解であった。


荻野久作博士が発表したのは避妊法ではなくて、不妊治療のためだそうです(^_^;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ