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エデンの園  作者: ありす
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(18)


「どうです? ロングヘアもお似合いでしたが、ショートカットも可愛らしくて素敵ですね」


 乱暴に切り落とした髪を、“そのままではあんまりなので”という先生の主張を受入れ、髪を切り揃えてもらっていた。

 目の前の鏡には、少しうんざり気味顔の、自分で言うのもなんだが、美少女が映っている。


「動くなと言うから、じっとしていたけど、やっと解放されるわね」


 やれやれと自分で肩をたたきながら言うと、先生は不満そうに言った。


「気に入りませんか?」

「そんなことは無いわ。ありがとう」

「はい、どういたしま……“ありがとう”、ですか?」

「何よ?」

「いや、そんな、お礼を言っていただけるなんて、初めてです」

「そうだったかしら? 前にも言った事がある気がするけど?」

「僕の愛を受け入れてくださってからは、初めてです。感激です」


 昨日の今日なんだから、それはそうかもと言うツッコミは、しないほうがいいのかしら?


「人間は一人では生きていけないのよ、それは先生もそう言っていたでしょう」

「はい」

「つまり人同士は支えあっていかないといけないの。先生が何かを私にしてくれる分、私も先生に何かをするわ。一方的に与えるだけでも、されるがままに受け入れているばかりでも駄目なの。わかる?」

「わかります」

「それじゃ、何をして欲しい?」

「お礼に、キスしてくれませんか?」


 と、先生はニヤケ顔を私に寄せると、ほっぺたを指差した。

 半分呆れながら、どこまで人間っぽいことをするのだと思いつつも、先生のおでこを指で突いてからほっぺたにキスをした。

 これだけでも十分恥ずかしいのに、先生は遠慮がちに私に向かって両手を広げてゆっくり体を寄せてきた。

 はいはい、ハグしたいってわけね。

 『男なら抱きたいと思ったら抱け』と言ったのは私だから、別に拒否なんかしないわよ。

 それに、きゅっと抱きしめられるの……悪くない。

 調子に乗らせると、次に何を要求してくるかわかったもんじゃないので、目を閉じて顔を寄せてくる先生を手で制しながら言った。


「それで、今日は何をするの? 寝ているだけはもう飽きたわ」


 深く考えるのはやめて、“あ・る・程・度・ま・で・は”、先生に流されることに決めてさっぱりしたせいか、悩みの種だった生理痛も今日は治まっていた。起きて何かをしなければ、また気分が塞ぎこんでしまうかもしれない。


「そうですね、僕自身はどうでもいいのですが、ALICEの計画に沿って、人類復活のための第一歩を踏み出してはいかがでしょう?」


 ALICEの計画は、アンタの計画でもあるだろう?

 “僕自身はどうでもいい”なんて、わざわざ言うところが姑息だが、そう言うことで免罪符にしたいのだろう。

 つまり、私には言いにくいことを、したいということでもある。

 私は警戒しながら言った。


「人類の復活には、もっとたくさんの人が必要だわ」

「そうですね」

「でも、人間は私しかいないし……。ねぇ、もう私みたいに、蘇生可能な遺体は無いの?」

「ありません。条件の良い遺体の発見の可能性はかなり低いです。そもそも有望そうな遺体は貴女以降、まだ発見できていません。イヴさんの前に蘇生させた人が亡くなってから、イヴさんを蘇生するまでには、約50年かかりました」

「50……それじゃあ、クローン人間なんてどう?」

「残念ながら、その技術は確立されていません。まだSFの中の技術です。今から研究を行って実用段階になるまで、70~80年はかかるでしょう」」

「そしたら私はおばあちゃんだわ」

「人工授精をお勧めします」

「人工授精?」

「はい、実は女性の遺体から集めた、凍結状態の卵子のストックがあります」

「それをどうするの?」

「人工的に受精させて、イヴさんの子宮に着床させれば、イヴさんは妊娠し、子供が生まれると考えます」


 やっぱり、そうきたか。


「し、子宮にって……わ、私に子供を産めって言うの?」

「はい、それがもっとも自然です」

「じょ、冗談よね?」

「本気です。 前にも申し上げたと思いますが、貴女を女性体として蘇生させた理由です」

「最初から、私を妊娠させるつもりでいたって事?」

「はい」


 頭痛がしてきた……。いや何度かそう言われたけど、考えないようにしていた現実を、いざ目の前にすると……あ?……待てよ? 確か前にALICEに確認したとき……


「そうだ! 男性の体を再生させるのは、不可能だって言っていたのは嘘だったんでしょう!」

「不可能とは言っていません“難しい”とは言いましたが」

「そういうのを“騙す”って言うのよ!」

「僕は嘘がつけませんが、事実を遠まわしに言うことはできます。男性体であろうと女性体であろうと、遺体を蘇生させるのは、本当に難しいことなのです」

「そりゃそうだろうけど……。でも納得いかないわ!」

「早とちりするイヴさんも、怒っているイヴさんも、本当に愛らしくて素敵です」

「ごまかすな!」

「でもですね、残っていた遺体で有望そうなのは、貴女だけだったのですよ?」

「それは前にも聞いたわ、だから最後に蘇生させたんでしょう?」

「そうです。イヴさんは未来の新しい人類、全ての母となるわけです」

「あんまり嬉しくないなぁ……」


 ああ、そういえば元々は人類もただ一人の女性、“ミトコンドリア・イブ”の子孫だとかなんとか?

 いや、あれは単に現存する人類の全てが、一人の女性にたどり着くという話であって、過去に存在したすべての人類が、一人の女性から生まれたわけではない、という事だったはず?


「人類復活には今のところ、この方法しかありません。さし当たって30人ほどは産んでいただかないと……」

「そんなに産めるか! 第一、何年かけるつもりよ!」

「イヴさん、毎月の生理が辛いって言っていたじゃないですか。常に妊娠していれば、その辛さからも開放されますよ?」

「十月十日ごとにもっとキツイのがくるでしょうがっ!! それに悪阻つわりとか……」

「記録によれば、悪阻が酷いのは初産のときぐらいとか。それにほとんど痛みもなく楽に出産できる場合もあるそうですから」

「それホント? い、いや、問題はそんな話じゃなくて、次世代の近親関係の問題とか……、だ、第一人間の男がいないのに、人工授精って言ったって」

「凍結受精卵は複数の女性の遺体から提供していただきました。もちろん、イヴさんからも卵子をいただければ、次世代間での遺伝的な問題は特にありません」

「ら、卵子はともかく、精子の方はどうすんのよ! アンタ、まさか射精もできるなんていわないでしょうね?」

「出来ます。……と言うのは50%だけ本当で、イヴさんを蘇生した時のips細胞がまだ残っています。精子と同じ働きをする細胞を合成するのは、極めて簡単」

「遺伝的な父親は私ってこと?」

「DNAシンセサイザを使えば遺伝配列は思いのまま。お望みなら他人種のそれに変える事もできます」

「50%だけ本当って言うのは?」

「大量に培養して、イヴさんが受胎可能な時期に、僕が直接注入します。コレで」


 そう言って、彼は白衣の前をはだけ、ズボンを下ろした。

 でろん、と出てきたのは、かつてよく見慣れたはずの……。


「ちょ、あ、アンタなんだってそんなもの、アンドロイドのアンタに、なんでそんなモノがついてんのよっ!」

「僕は男性型の完璧なアンドロイドです。女性のお相手も出来るようにも設計されています」

「わ、私を犯そうっての?!」

「言葉だけではなく、“物理的にも愛したい”と言うのでは、駄目ですか?」

「だ、駄目じゃないけど……、いや、やっぱり駄目! それって、倫理的にどうかと思うわ!」

「機械相手なのですから、自慰行為の一種だと思っていただければ」

「今さら機械ぶるつもりか!」

「僕をヒトとして認めていただけるのならば、望外の喜びですが」

「じ、人工授精なら、人工授精らしくやってもらってもいいけど……」

「この部分は外せますよ。受精卵をセットする都合上、取り外し式で無いと問題があるので」


 と、彼は雄雄しく屹立した状態の男性器の形をした、ソレを外して見せた。


「かなり奥まで深く差し込まないといけないですし、それに少々コツがいります。僕から取り外した場合、このコントローラーを別に取り付ける必要もありますが。試されますか?」


 と、見た目が凶悪な大人のオモチャめいたものを、私に差し出す。


「う、う、うう嘘でしょ! そんなことできるわけない!」

「でしょう? ですから、僕が……」


 といって、再び“ソレ”を元の場所に装着した。


「アンタと……セ、セックスしろっていうのかよ!」

「ですから、そう申し上げているのですが」


 そういいながら、腰に手を回してきた。


「ちょっと! 勝手にさわんなっ!」

「どうしてです? 人類復活の崇高な使命ですよ?」

「色々御託並べてくれたけど、結局、アンタは私を犯したいだけなんだろ!」

「かなり曲解されているようですが、結果的にはそういうことになりますか?」


 そういって、今度は本格的に押し倒してきた。


「さ、最初っからそのつもりでいたのかよっ!?」

「最初っからそのつもりですが何か?」

 

 セックスを強要するアンドロイドって、どうよ?

 私が動揺しているのをいいことに、手を診察着の中に差し入れてきやがった。


「ま、待て! 早まるな! ストップストップ! 3原則の適用を求める!!」

「イヴさんは処女ですから、最初は痛いかもしれませんが、これは通常の男女の営みの範囲内です。3原則適用除外と思われますが?」

「お前は人間の男じゃないだろうが!」

「形状及び質感に問題があるようでしたら、後ほどご意見を伺わせていただければ、改善いたします」

「言えるか!」

「うれしいなぁ、美しいイヴさんとひとつになれるなんて……」

「いまさらそんなセリフ言っても駄目!」

「でも興味はおありでしょう? 処女のまま懐妊されたいとおっしゃるのでしたら、それはちょっと残念ですが、やはりセックスに快感が伴わなければ、妊娠出産と言うリスクには見合いませんものね」


 か、快感だと……? あ、アンドロイドなんかに……。


「じゃ、じゃあ、婦女暴行未遂で逮捕します。民間人にも逮捕権限があるんだから!」

「拘留権限はないでしょう? それに、戸籍関係の事務処理は1300年前から停止中です。イヴさんは法律上は、まだ男性と言うことになります」


 と、にじり寄る。か、顔を近づけんな!


「今それを言うか! ならば普通に暴行未遂だ!」

「人類復活は最上級レベルの優先事項です。この命令は解除できません」

「め、命令って……、ALICEの奴か! ちょっと待て、命令を解除するように交渉してくる」

「無駄です。そもそも私は彼のサブセットです。私の意志はすなわちALICEの意思でもあります」

「に、人間様に命令しようってのか!」

「僕自身からは、強いお願いです。それに、以前イヴさんは、“抱くときにいちいち了解を得るな”とおっしゃいました」

「い、意味が違う、状況も違う!」

「先送りしても、状況は変わりませんよ?」

「そうかもしれないけど、こ、心の準備が、大体、デリカシーってもんが……」

「手順が必要と言うことですね。判りました。時間的にはまだ十分に余裕はあります。準備に時間がかかりますので、明日から始めてよろしいですか?」

「準備って、何をする気よ?」

「ALICEに保存されている、男女関係に関するアーカイブ資料を検索して平均化し、標準的な手順を計画いたします。それでよろしいでしょうか?」

「え? うん、まぁ……うぷっ!」


 突然抱き寄せられたかと思うと、唇を奪われた。


「な、な……」

「貴女を絶対に、僕のトリコにして見せます。期待していてください」


 そう言い残して、彼は部屋を出て行った。

 あ、あンの野郎……。し、舌入れやがった……?

 これもその“手順”とやらの一環か? 

 私はその場にへたり込んでしまった。


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