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エデンの園  作者: ありす
14/21

(14)


 数日もすると、私はまたベッドから起き上がれるようになった。

 ただし、先生のアシストつきで。

 右足のほうは骨にヒビがはいったうえに酷い捻挫で、支えが無いと立つことも無理だった。


 つまりまた、リハビリ生活に逆戻りしたわけだ。

 けれど今回は……


「先生! 顔が近すぎます!」

「けど、こうやって支えませんと、バランスが」

「自分で出来ますから。それより杖かなんか、無いんですか?」

「あいにくと材料がありませんので」


 嘘付け! 支えになれば棒っ切れだろうがなんだろうが、細長くて硬いものなら何でもいい筈。

 そんなのあの瓦礫だらけの街に、いくらでも転がっているじゃないか!

 けれど、先生は何かと私に触れたがる。

 このエロ医者め!


「診察しても、よろしいですか?」

「え? ああ……」


 リハビリルームで診察してもらうのは初めてだな、と思いつつ、いつものように、診察着の前をはだけようとしたが、手が止まった。

 やばい……なんだかとっても恥ずかしいぞ。

 

「どうしました? 胸、まだ痛いですか?」

「あ、いや、なんでもない……」

「じゃあ、早く前を開けて診せてください」

「あ、いや……、その……」

「なんです?」

「ちょ、直接見なくても、その、なんかあるんじゃない? スキャナーみたいので、こう……かざすだけとか……」

「器材はありますけど、しばらく電源を入れていないので調整には1週間ほどかかります。僕が診た方が早いですよ?」

「そ、そう? それじゃ、診察着の上からとかじゃ、駄目かな?

「僕の指のセンサは、そこまで感度が良くないので、正確な診断には……。どうしたんです? いつもは、すぐに診せてくださるのに??」

「いや、だからね……」


 恥ずかしいんだよ、解れよ!

 しかし、これじゃ埒が明かない。診て貰わなければ、治りが遅くなるだろうし……。

 これは単に医者に見てもらうための診察なんだから、恥ずかしがるのも変だ。

 私は意を決して、がばっ! と診察着の前をはだけた。

 聴診器(といっても先生の指だが)を当てられるだけなんだから、恥ずかしいことなんかあるわけが無いんだ。

 けど、先生の暖かい手に触れられると……


「あれ? 先生、何で手が暖かいの?」

「ええ、気付きましたか? ヒータユニットを追加しました。人間と同じ36.5℃に常時保つようにしました。少々パワーを取られますが、思考回路には問題がありません」


 こっちの思考回路には問題が起きそうだ。


「何でそんな機構つけたのよ?」

「以前イヴさんに『手が冷たい』と言われたので、それならと。何か不都合が?」

「不都合って、言うわけじゃないけど……」


 だって、これじゃまるで本当の人間みたいで……。


「じゃ、診察を始めますね。くすぐったいかもしれませんが動かないでください」


 先生に胸を見られるのは、今更なので恥ずかしいはずが無い!

 はずが無いんだけど……。

 ちょっとでもイヤらしい指の動きしたら、張り倒してやるからな!

 先生は慎重に肋骨にそって、指でなぞって確かめていった。

 場所によっては、ふにっと指が沈み込んでいくのは、決してヤラしい動きなんかじゃないけど、だからかえってこっちが意識してしまう。


「はい、OKですよ。肋骨も元通りですね。もう痛くないでしょう?」


 こっちはそれどころじゃなかったよ……。


「せ、先生は、ちっともアンドロイドらしくないのね」

「??? なんですか突然?」


 私は診察着の前を閉じながら――たぶん顔が赤くなっているから、先生は誤解するんじゃないかと思ったけど、先生はにっこりと笑顔で言った。


「イヴさんはとっても、女の子らしいですよ」


 む、胸を診た後で言うな! そんなこと!



  ☆彡



 私はこのところモヤモヤとした、行き場の無い感覚を持て余していた。

 先生がガーベッジコレクションとやらをしてからと言うもの、私への扱いが変わったような気がするからだ。

 過保護なのは変わらないが、遠慮がちに私に接するようになった。

 特に毎日の診察や介助などで、服の上からでも体に触れるときは、必ず許可を求めるようになった。

 必要だから、裸の体を晒すときでも、“触覚センサの感度領域を広げたので、動かなければ視覚情報などなくでも診察できます”と、そっぽを向いたまま診察するようになった。

 私の裸は見るに値しないって言うのかよ! って、見たいといわれても困るが……。


 私が以前散々、“デリカシーが無い、考慮しろ!”とことある毎に言っていたのを、今は能力に余裕のある思考回路で、彼なりの配慮をしてくれているのかもしれないが、それがかえってよそよそしく、つまり機械的に接しられているみたいで面白くない。


 以前の無作法で、ずけずけものを言う先生は、どこへ行ったんだ!


「あー、つまんない!」

「気晴らしに、オアシス区画に行きますか? お弁当作りますけど?」

「あーそれなら私が作ってみる。先生、何が食べたい?」

「僕はアンドロイドですから、お弁当は食べませんよ? もちろん食べる真似はできますが、もったいないですし……」


 つまり前に食べて見せたのはフリだったってことか。あーつまらん、これじゃ、私の腕の見せ所が……って、アンドロイド相手に何を見せるって言うんだろう?


「やっぱりやめた」

「それじゃ、ゲームでもしますか?」

「先生に勝てるわけ無いじゃない。わざと負けられるのも嫌だし」

「でも、このところ部屋にこもりっきりで、ベッドの上でごろごろしているばかりじゃありませんか。体にもよくありませんよ?」

「何もする気が起きないの、放って置いて頂戴」

「でも、さっき退屈だって……」


 今日はやけに絡むな……。


「あーもう、うるさいうるさい! いいから放って置いて頂戴!」


 私は手近な枕を先生に投げつけた上で、ベッドに突っ伏した。


「仕方ありませんね」


 そう言うと先生は、私が引っかぶった毛布を剥ぎ取り、私を抱き上げたかと思うと肩に担ぎ上げた。


「ちょっと! 何すんのよ! 降ろせ!」


 私はじたばたと手足を振り回し、先生の背中をたたいたけれど、先生は意に介さないかのようにすたすたと歩き始めた。


「降ろせ! このバカアンドロイド! 私にかまうなって、言ってんでしょ!」


 先生は私を担ぎ上げたまま、無言でオアシス区画まで運ぶと、公園の一角にある噴水のある池の中に投げ込んだ。

 思ったよりも深い池にどぶんと、頭から投げ入れられた私は、腰を打ちつけられながらも立ち上がった。

 思いっきり抗議してやろうと思ったところに、先生までどぶんと池の中に飛び込んできた。


「な、何しやがんのよ! このポンコツ!」

「気持ち良いでしょう? イヴさん」

「気持ち良いわけないだろ! このバカ!」

「おかしいなぁ、気分が塞ぎこんだときは、こうして池で泳ぐのが一番なんだそうですよ?」

「へーえ? アンドロイドも水浴びなんかするの? 初耳だわ!」

「いいえ、たぶん僕ぐらいでしょう?」

「じゃあなんだって、判った風なことを言うのよ!」

「前の……イヴさんの前のイヴさんも、泳ぐことが大好きで、良くこの池で泳いでいました」

「前の、イヴ?」

「はい、その人は……僕と同じぐらい背が高くて、黒くて艶のある長い髪が、綺麗な人でした」

「ふーん、それで?」


 突然の、思っても見なかった先生の過去話に、私は池に投げ込まれた怒りも忘れて尋ねた。

 

「あの人はいつも悲しそうな顔をしていて、だから本当のことがいつまでも言えなかった」

「地球が、あんなになっていて、人間は他には誰もいないっていうこと?」

「いいえ……」


 濡れた髪から雫をたらし、愁いを帯びた先生の横顔にどきっとした。

 アンドロイドも、あんな顔をするの……?


「僕が、彼女に恋をしてしまったことをです」


 先生が私のほうを向いて、悲しそうに言った。

 髪から滴り落ちる雫が、涙を流しているようにも見えた。

 けれど、先生のその顔に哀れさを感じるよりも、得体の知れない怒りと不安のほうが強く私の中に渦巻いていた。

 

「な、何よ……それ……。あんたは、ア、アンドロイドの癖に……」

「アンドロイドが、恋をしてはいけませんか?」

「だって……、あなたは機械なのよ。ALICEと同じ、プログラムよ! だからそれは偽りの恋だわ、感情なんかじゃない、只のロジックよ!」


 そう。それは恋なんかじゃなくて、条件さえ満たせば成立する、ロジックなんだ。


「ロジックだとしても、そこに嘘はありません」

「嘘でなければ、いいってわけじゃ……」


 ということは、私のことを好きだと言っていた先生の言葉は、嘘だったということ?

 私はその死んでしまった誰かの代わりであって、私じゃなくても人間なら誰でも良かったんだ!

 

「あなたは……、あなたは私を……最後の一人になった人間を守ることだけを役割付けられた機械なのであって、それは恋なんかじゃない! 愛なんかじゃない!」

「彼女も、そう言って僕を突き放しました」

「そうよ! 当然よ!」

「どうしてです?」

「そ、そんなこと決まっているじゃない! 機械は……アンドロイドは恋なんてしないのよ!」


 そういって、私はその場から駆け出していた。

 とにかく、先生のそばを離れたかった。


 私は腹を立てていた。

 池に投げ込まれたことが原因じゃなかった。


 じゃあ何が?


 私に恋してるなんて、騙していた事が?

 先生が自分の知らない、他の女性を好きになっていたことが……?

 バカな! この私が嫉妬しているなんて!

 そもそも私は、本当は男だったはず。

 いつの間にか、女でいることに慣れ、自分が元から女だったみたいに振舞っていた。


 それがいけないんだ! 


 だからあのポンコツアンドロイドは、私のことが好きだなんて言うし、私がその気にさせられたり……。

 だから、こんなのやめればいい!

 こんな、全部作りものの、嘘だらけの世界なんて!


 ナクシテシマエバイイ……


 失くす? 

 このコロニー毎、壊してしまうってこと?


 そんなこと……できないよ。


 じゃあ、どうすればいい?

 どうすればいいんだ!


最終話まで毎日投稿します。

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