エリカの家で
その家は広場から五分ほど歩いた所で、比較的大きな母屋の隣に納屋があり両側は畑になっていた。
「じゃまするぞえ」
シュリ婆が玄関から中を覗き声をかけると、奥の方からはーい、という声がしてまだ若い娘が出てきた。
「あら、お婆ちゃん!やっと来たのね。遅かったから
心配してたのよ」
「あぁ、心配させてすまんじゃったの。怪我人がおっ
たでな、ほおってはおけんかったんじゃ」
「ツヅキさんね。可哀想に目を怪我したんですってね」
「そうじゃ。他に足と手を怪我した者もおったがのぉ
。それもみんなこの人が治してしもうたわ」
「あら…」
娘は驚いた様子で紫音を見た。
「この人は紫音様いうての。不思議な力を持った人じ
ゃ。怪我があっと言う間に治ってしもぅた」
「へぇ・・・」
娘は自分よりも若そうな紫音を見つめた
「この娘はわしの孫でエリカじゃ。わしの息子夫婦が
流行り病で死んでしもうての。残されたこの娘をわしが育てたんじゃ」
「そうなんですか・・・」
「エリカよ。紫音様は行くあてがなさそうじゃでな。ここに泊めてやってはくれぬか」
「いいわよ」
エリカはそう言うと紫音に向き直って
「自分の家だと思ってくつろいでね」
と言った。
「ありがとうございます。ご迷惑でしょうが
しばらくご厄介になります」
「大丈夫よ。部屋はいくつもあるし、主人と二人だけだから人が増える方が賑やかでいいわ」
「まぁ、紫音様や。今の内に寛いでおきましょうぞ。何日かすれば、紫音様の噂を聞きつけた者が押し寄せて来るじゃろうからな・・・」
「二人ともお昼はまだでしょ?用意するわね」
そう言って、エリカは奥に入って行った。
昼になり、昼食の支度が出来上がった頃エリカの夫が帰って来て四人は食卓を囲んだ。
食事の間シュリ婆とエリカの夫は戦争について話し合っていたが、話が紫音の事になるとエリカの夫は紫音をじっと見詰めてから言った。
「婆様が夢で見た人ってのは、この人じゃないのかい?」
「うむ。そうかもしれん」
「夢って?」
紫音が訊ねた
「この婆様はなぁ・・・時々夢で未来をみるんだよ。今度の戦争だって婆様は知ってたからな。だから俺達は、ルウンからこっちに引っ越してきたのさ」
「へぇ・・・それで私の夢っていうのはどんな?」
「うむ。それがのぉ・・・知らない場所を、若い娘と一緒に歩いとるんじゃ。その時のわしゃ妙に華やいだ気分での。若い頃のようにワクワクしとった」
「それから落ち込んでいるその娘を慰めとる時もあっ
た。わしゃその娘はエリカかとも思うたが、どうも違うようじゃった。ありゃぁ、お前さんかも知れんのぉ」
「そぅなの・・・」
そう言って紫音は黙ってしまった。
それからは皆、黙って食事に専念していた。




