出会い
昼食が終わり、エリカの夫は仕事場に戻って行った。
彼は腕の良い鍛冶の職人で、もとはルウンで働いていたのを、今いる鍛冶屋の主人に是非にと請われ移って来たのだった。
ザイールはこのイシュタル国の首都であるだけに鍛冶の需要も多く、彼のいる店も繁盛していてエリカも収入が増えたと喜んでいた。
シュリ婆は立ち上がり紫音に話しかけた。
「わしらは庁舎へ行きこの町に住む手続きを済ま
せてくるとしようかの」
「はい。庁舎は遠いんですか?」
「城のすぐそばじゃ。歩いて三十分程じゃから、町
の様子を見ながらゆっくり歩いて行くとするか」
シュリ婆は、歩いてという言葉を強調して言った。
それは紫音にあまり力をつかってほしくないと思っていたからだった。
まだ幼くも見えるこの娘が、その力故に様々な事に巻き込まれ、命を落とすまでは無くとも辛い目にあうのが不憫だったからである。
紫音とシュリ婆は連れ立って外に出ると、広場から城へ向かう大通りに出て城の傍にある庁舎へ向った。
シュリ婆と連れ立って歩いていた紫音は、人の少ない場所に来ると、ちょっと待ってと言ってシュリ婆を呼び止めて目を閉じた。
紫音の意識は今、ザイールの町を遥か上空から見ていた。
城は広い川を背にして南向きに建っていて、その回りには庁舎と兵隊の宿舎があった。
町と城は塀で区切られていて、城への入口は町の入り口へと続く大通りの前だけだった。
城の門を出た大通りの左右には鍛冶屋や武具を扱う店があり次に商店が並んでいて続いて民家が建っていた。
紫音は町の全体図を頭に入れると目を開け、シュリ婆に行きましょうと言って歩き出した。
町には兵隊が各所に立っていて物々しい雰囲気だったが、食べ物を出す店はどこも満席で、通りに面した市場にも人が群がっていた。
戦時下でも庶民の暮らしに活気があるということから、この国の王が国民のことを考えた政治をしていることが見て取れた。
やがて二人は城に着き門番に名前と訪れた目的を告げた後、門を通って右に折れ庁舎へと向かった。
シュリ婆が庁舎に入り続いて紫音が入ろうとした時に紫音は視線を感じて思わず振り返った。




