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紫音の少女  作者: 柊 潤一
宿命
11/75

出会い2

 詩音が振り返ると少し離れた木の陰から、若い男がじっと紫音を見詰めていた。


 男は精悍だが上品な顔立ちで、意思の強い目をしていた。


 紫音が振り返っても男は視線を外さず、紫音は思わず目を伏せ、踵を返してシュリ婆の後を追った。


 庁舎の門を潜るとシュリ婆が待っていた。


「どうしたんじゃ」


「誰か知らない男の人が私を見ていたので…」


「ふ〜ん・・・」


 シュリ婆は紫音を見詰めていたが、何も言わずに歩き出した。


 手続きを終え門を出ると、男はいなかった。


 紫音はほっとしてシュリ婆の後を歩きながら、男の風貌を思い出していた。


 男は背が高く凛々しい端正な顔立ちで、着ている物もみすぼらしい物ではなかった。


 紫音はエリカから服を貰ってボロをまとってはいなかったが、それでも着飾っているとはいえず、男に見つめられる事に気恥しさがあった。


 しかしそれよりあの男の目を見ていると、男の思いが一気に心の中に流れて来そうで、紫音は目を伏せたのだった。


「お前さんを見つめていた男というのには、全く見覚

 えはないのかえ?」


 紫音の考えている事を見透かしたようにシュリ婆が口を開いた。


「え?あ、う、うん。この国に来たのは初めてだし、知ってる人なんている筈ないわ」


「そうかぇ。じゃぁ、お前さんに一目惚れしたのかも

 しれんのぉ」


「いやだわお婆さん、からかわないで」


「ほっほっほっ…顔が赤くなっとりゃせんかえ?」


 シュリ婆は楽しそうに笑らい、紫音は恥ずかしそうにうつ向いたまま歩いていた。


 その時紫音の後ろに誰かがぶつかって来た。


 紫音が振り返るとまだ四歳位の女の子が、お母ちゃんお母ちゃん、と泣きながら立ち止まっていた。


「お嬢ちゃんどうしたの?」


 紫音はかがんで女の子の顔を覗き込みながら言った。


「お母ちゃんがいないの・・・お母ちゃんが」


 女の子は泣きながらそう繰り返すばかりだった。


「そう・・・じゃあ、お姉さんがお母さんを探してあ

 げるから、もう泣き止もうね」


 女の子はしゃくりあげながらうん、と頷いた。


 紫音は女の子の頭に手を乗せて女の子の記憶を探った。


 紫音にぶつかったこの場所から、人混みの中を歩いている所を辿ると、女の子はどこかの店らしき所に座って母親の声を聞いていた。


「お母さんは近くに買い物に行くからね。ここで大人しく待ってるんだよ」

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