出会い2
詩音が振り返ると少し離れた木の陰から、若い男がじっと紫音を見詰めていた。
男は精悍だが上品な顔立ちで、意思の強い目をしていた。
紫音が振り返っても男は視線を外さず、紫音は思わず目を伏せ、踵を返してシュリ婆の後を追った。
庁舎の門を潜るとシュリ婆が待っていた。
「どうしたんじゃ」
「誰か知らない男の人が私を見ていたので…」
「ふ〜ん・・・」
シュリ婆は紫音を見詰めていたが、何も言わずに歩き出した。
手続きを終え門を出ると、男はいなかった。
紫音はほっとしてシュリ婆の後を歩きながら、男の風貌を思い出していた。
男は背が高く凛々しい端正な顔立ちで、着ている物もみすぼらしい物ではなかった。
紫音はエリカから服を貰ってボロをまとってはいなかったが、それでも着飾っているとはいえず、男に見つめられる事に気恥しさがあった。
しかしそれよりあの男の目を見ていると、男の思いが一気に心の中に流れて来そうで、紫音は目を伏せたのだった。
「お前さんを見つめていた男というのには、全く見覚
えはないのかえ?」
紫音の考えている事を見透かしたようにシュリ婆が口を開いた。
「え?あ、う、うん。この国に来たのは初めてだし、知ってる人なんている筈ないわ」
「そうかぇ。じゃぁ、お前さんに一目惚れしたのかも
しれんのぉ」
「いやだわお婆さん、からかわないで」
「ほっほっほっ…顔が赤くなっとりゃせんかえ?」
シュリ婆は楽しそうに笑らい、紫音は恥ずかしそうにうつ向いたまま歩いていた。
その時紫音の後ろに誰かがぶつかって来た。
紫音が振り返るとまだ四歳位の女の子が、お母ちゃんお母ちゃん、と泣きながら立ち止まっていた。
「お嬢ちゃんどうしたの?」
紫音はかがんで女の子の顔を覗き込みながら言った。
「お母ちゃんがいないの・・・お母ちゃんが」
女の子は泣きながらそう繰り返すばかりだった。
「そう・・・じゃあ、お姉さんがお母さんを探してあ
げるから、もう泣き止もうね」
女の子はしゃくりあげながらうん、と頷いた。
紫音は女の子の頭に手を乗せて女の子の記憶を探った。
紫音にぶつかったこの場所から、人混みの中を歩いている所を辿ると、女の子はどこかの店らしき所に座って母親の声を聞いていた。
「お母さんは近くに買い物に行くからね。ここで大人しく待ってるんだよ」




