ザィールヘ向かう
紫音が話を終えた時、何処からか一匹の鼠が紫音の足元に走り寄り、紫音を見上げてチッチッと鳴いた。
紫音はじっと耳をすませて聞き入っていたが、顔を上げるとその場にいる皆に言った。
「この町に数人の兵がやって来ているそうです。おそらく敵の斥候兵でしょう」
部屋にいた一同はざわめいた。
「みんなすぐに荷物を持ってザイールに向かうのじゃ」
老婆が言った。
「遅かれ早かれザイールに行くつもりじゃったからみんな荷物はまとめてあるじゃろ?このままそれぞれの家に立ち寄りながら向かうとしよう」
「まって下さい」
紫音が、すぐに出発しようと立ち上がりかけている皆を止めた。
「子供もいますから、私が皆さんをお連れします。荷物を持ってここに戻って来て下さい」
「じゃ、そうするべぇ」
老婆がすぐにそう答えた。
「荷物を取ってくるだ」
「俺も取ってくる」
足を治療してもらった男と若い男はそう言いながら出ていった。
男達が戻るまでの間、老婆は紫音に話しかけた。
「紫音様。男達の怪我を治してくれた事に、ワシからも礼をいうぞぇ。この男と荷物を取りに行った男達は
、となりのバルカ国がこの町に攻め入って来た時に怪我をしてのぉ。他の者はすぐにザイールに避難したんじゃが、この者達は怪我で動けずに難儀しておったんじゃ」
やがて荷物を持って二人の男達が帰って来た。
「それでは、ザイールへの道を作ります」
そう言うと紫音は目を閉じた。
紫音の意識は今、時間の存在しない次元にいて、そこからザイールの町の入り口と皆のいる部屋とを見ていた。
そして部屋から時間の存在しない次元へ人が通れる位
の空間を開け、ザイールの町の入り口にも同じ物を作り、二つの空間を繋ぎ合わせた。
部屋の中にはザイールの町の入り口が映し出されていた。
「さぁ、行きましょう」
紫音は皆を促して空間の中に入っていった 。




