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チャンスは一回

 この世を去るとき、その人が経験したすべての出来事が映像として脳裏に映しだされる。 再生時間は百年以上生きた人間でも、十秒かからない。

 そんな話を、ミスダツがしたことがある。

 ほとんどの生徒が、そんなバカなと相手にしなかった。

「どうすれば、死んだ人間と話ができるんだろう」

「再生時間は、誰が計ったのかしら」

「よっぽど精巧な時計でなきゃ計れないだろうから、たぶんセイコーだよ」

 誰かがつぶやくたびに笑いが起きた。

 だが、一人だけ真面目な顔で「それは事実です」と言い切った生徒がいた。

 脚本家志望だった。

 それまで笑い声に包まれていた教室が急に静かになった。

 彼は必要最低限の話しかしない。口から出任せを言うような生徒ではないということは、みんなが知っていた。当然教室中の目が、彼に注がれた。

 事実という言葉に、一番強く反応したのは講師のミスダツだった。彼は授業そっちのけで質問した。

「だれから聞いた?」

「いつ頃の話?」

「どんな内容だった?」

 しかし、脚本家志望はミスダツの目をまっすぐ見て「それは言えません」と答えただけだった。

 そのうち詳しい話を聞けるだろう。誰もがそう思ったと思う。だが彼がその話をしたのは、それが最初で最後だった。

 Pはときどき、あの日のことを持ち出すことがあった。

「中身を話す気がなかったのなら、最初から黙っていればよかったんだ。今でも耳の奥に、事実ですという言葉が引っかかっていて、どうもすっきりしないんだ。電話をかけて聞いてみようか」

 もし元の世界に戻ることができたら、まずPに会いに行く。そしてこう言う。

「あいつの話を聞く必要はない。俺が説明してやるよ」

 そう、ミスダツが言った通りのことが、僕にも起こった。

 僕の脳裏に自分の人生のすべてが映像となって映しだされたのだ。

 暗い産道を通り抜け、光の中に放り出された僕がオギャーと泣いた瞬間から、今に至るまでのすべてが、3秒弱で。

 回想映像は、トリエステの言葉と同時に始まった。

『試すのよ。私たちが繋がっていることを』

 言葉が終わると映像も終わった。


「時間がないの。チャンスは一回。私の言うとおりにしてね」

 とトリエステが言った。

「分かった」

 と答えたが、トリエステと僕の繋がりに興味を持ったわけではない。このような切羽詰まった状況下でも、何とかしようとする前向きな姿勢に心を打たれたからだ。

「何でも言ってくれ。指令通りに動く」

 しかし、最初の指令で異議を唱えることになった。

「初めて出会った日のことを覚えている?」

どうして今になって。そんなことを訊くんだ。

 と言いたいのをこらえて、

「覚えている」

 と答えたが、押さえたつもりの怒りが急激に膨らんだ。

「一体、何を考えているんだ」

 つい声を張り上げてしまった。

 しかし、トリエステは冷静な声で、

「これは、とても大事なことなの」

 と言った。聞き分けのない子供を諭すような口調だった。

「さっきも言ったと思うけど、時間がないの。イエス、ノーでいいから答えてちょうだい」

 僕は頭にのぼった血を静めるために、深呼吸を三回繰り返した。

「イエス」

 トリエステは、ほっとしたような声で次の質問をした。

「じゃあ、最初に触った場所がどこだったか覚えているわね」

 またしても意味不明な質問。カッとなったが、呼吸を整えてから答えた。

「ノー」

 しばらくの沈黙のあと、僕の神経を逆撫でするような言葉が聞こえてきた。

「じゃあ、私が誘導してあげる。手を伸ばしてみて」

「おい、おい」僕は声を荒げた。「僕の体が動かないことを、忘れたんじゃないだろうね?」

 するとトリエステは、小さな声で言った。

「本当は動くんじゃないかしら」

 その声は、救いの言葉に聞こえた。しかしよく考えてみると、侮辱の言葉として受け取ることもできる。

「どういう意味?」

 感情が声に出ないように注意しながら訊ねた。

 すると確信に満ちた声が返ってきた。

「あなたは自己暗示にかかっている。という意味よ」

 元の世界でこんなセリフを聞いたら、間違いなくキレていた。

 いつ自己催眠にかかったって言うんだ。どうして自分で自分を縛らなきゃならないんだ。

 しかし、怒りは沸いてこなかった。逆に冷静さが戻ってきた。

 ソフト開発者の意図を知りたくなったからだ。

 トリエステは、僕の性格を見抜いているはず。

 どのタイミングで、どんなことを言えば、僕がどんな返事をし、どんな行動を取るか、的確に予測できるはず。

 僕の怒りが増せば増すほど、トリエステに強い電力が供給される設定になっているのだろうか。

 それを狙って、意味不明な質問を連発しているのだろうか。

「ねえ」トリエステが、やわらかい声で言った。「私が、それを解いてあげましょうか」

 指令通りに動くと言ったことを思いだした僕は、

「どうやって?」

 と訊いた。

 トリエステは、クスッと笑った。

「もちろん私の催眠術でよ」


『拙い文章を見て下さる我慢強くて、心優しい方に感謝を込めて』


初投稿は、今年の六月四日でした。

 つまり、今回でちょうど半年になります。

 それを期に勢いだけで書き続けた『腹式七回シネマ館』を印刷して、読み返してみました。

 稚拙な文章。誤字脱字。書いた本人でさえも、よくわからない箇所だらけ。

 できることなら、全部削除したい。これが本音。

 

 長い小説になるだろうと予想していました。でも、こんなに長くなるとは。

 現時点を富士山で表すと、三合目辺りでしょうか。

 手慣れた人なら原稿用紙三十枚で書き表すようなものを、二十一万五千文字。

 なに考えているんでしょうね。作者は。

 

 でも、最後まで書き上げます。

 それは、こんな僕の小説を読んでくださる方がいらっしゃるからです。

 実を言うと、前回から投稿時に、ツイッターでつぶやくようにしました。

 理由は実に単純。

 勝手にランキング部門で216,244作品中、6881位にランクインしていることを発見したからです。

 腹式七回シネマ館の主人公同様、数字は大の苦手ですが、順位を上げる努力をするのは、嫌いではありません。

 ツイッターに書いたように、半年後の5000位圏内を目標にがんばります。

 

 なお、これまで午前八時に投稿されるような設定をしていましたが、ツイッターと連動させるために、今回から、ダイレクト投稿に切りかえます。

 朝八時に僕の小説を読んでくださっていた方には、まことに申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いします。


 

                              南 まさき


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